播磨屋型の「矢の根」の見比べ | 木挽町日録 (歌舞伎座の筋書より)

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令和4年11月の「矢の根」の大道具が播磨屋型で、

いつも見る富士の裾野の遠景でないのが新鮮。

筋書で五郎を務めた幸四郎が

「父も勤めていない役です。二年前に上演される予定だった時、叔父(二世吉右衛門)に教わるつもりでいましたけれど、教わることが叶いませんでしたので、この役を叔父から唯一教わっている歌昇さんに教えていただきました。荒事を実感していただけるお芝居にできればと思っています」

と語っている。播磨屋型が具体的にどうこうという記述はないが、

舞台写真などの見比べて分かる道具の違いは三点。

舞台背景が羽目板

庵室の背面に金地に富士の障壁画

三本刀が刀掛けに掛けられている

 

過去の資料からご紹介します。

 

平成27(2015)年3月 南座花形歌舞伎

歌昇の五郎

五郎 歌昇

歌舞伎十八番の内「矢の根」では曽我五郎時致に取り組む。「荒事の中でも大きなお役だと思います。演らせて頂けることが光栄です。1729年の初演以来、荒事を得意としてきた方々によって受け継がれてきた、様式美が詰まっている作品。型が決まっているものですので、播磨屋(吉右衛門)のおじさんにしっかりと教わり、荒事特有の大らかさや溌剌とした姿、活発さといったものを、少しでも出せるように勤めていきたいと思います」

 

十郎 種之助

「歌舞伎十八番は歌舞伎の代表作で、多くのお客様がよくご存知の演目ですから、我々の世代だけで演じることが最大の挑戦だと思います。弟の五郎が兄(歌昇)なので、本来とは逆転している配役です。兄である十郎の落ち着きや、柔らかさも大切ですが、あまり柔らかくなり過ぎないように、父親の仇討ちを願っている芯の部分を、しっかり守って勤めたいと思っています」

 

大薩摩文太夫 隼人

全て初役。宝船の絵を持参する大薩摩文太夫に取り組む。「本来なら先輩方がなさるような芝居を締める役だと思います。歌舞伎十八番に出させて頂くのは初めて。雰囲気を大事にしながら、きっちり勤めたいと思います」

 

演劇界の劇評(一部)

〝本舞台で五郎がその馬に乗るのが素早く機敏な動きで盛り上がった〟

とあるのが令和4年11月の幸四郎の五郎と重なり、この辺も播磨屋型なのかと推測できる。

 

昭和53(1978)年4月 歌舞伎座

吉右衛門の五郎

筋書の吉右衛門の聞き書き

「矢の根」の五郎は好きな役ですが、こういう歌舞伎十八番は、やればやるほどむつかしさが増してくるのは不思議なものです。若さ、力強さ、色気などを出したいと思うと、どうしていいか考えこんでしまいますし、舞台は天衣無縫に見えないといけない、本当にむつかしい役です。

 

同年12月の京都南座での顔見世でも演じた

 

手元にある過去の舞台写真などずいぶん調べたが、はっきり播磨屋型と

分かる上演は上記の三名以外になく、また〝矢の根の播磨屋型〟という言葉自体を

見つけることが出来なかったので珍しさではかなり突出しているのではないだろうか。

 

参考に従来型(十八番であるから成田屋型か?)の代表的な道具の写真を 

背景が抜けていて、富士の遠景、刀が朱の下緒に掛けてある

(ただし、両側が網代塀などの変則も多く見る)

 

以後の上演でどの型を取るか、新しい視点を知る機会を得ました。