住友グループには「自利利他公私一如」の理念がある。

 

「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利しかつ社会を利する事業でなければならない。 営利のみに走ることなく、絶えず公益との調和を図る。」ということが理念の趣旨である。

 

住友グループにおける企業活動では、国家や社会を利する事業を行い、自己の利益ばかりでなく、常に公益との調和を図ることを重視してきた。

 

住友グループは非常に立派な理念を持ち、手本にすべき企業の鏡であったが、今は怪しくなっている。

 

 

住友化学の代表取締役会長であり、経団連の会長である十倉雅和氏は、財務省の審議機関である「財政制度等審議委員会」の会長を務めている。

 

財政制度等審議委員会は、令和6年5月21日に、鈴木俊一財務大臣宛に「『我が国の財政運営の進むべき方向』に関する建議」を提出した。

 

建議の内容は当然のことであるが、「現行の財政健全化目標(2025年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化、債務残高対GDP比の安定的な引下げ)を堅持し、規律ある「歳出の目安」の下で歳出改革の取組を継続すべき。」としている。

 

 

 

現在の日本の経済環境下にいて、プライマリーバランスの黒字化とは、財政支出の削減か税収の増加、もしくは、その両方を意味することになる。

 

令和6年度の予算でプライマリーバランスを黒字化しようとすると、経常支出(85.6兆円)と経常収入(同77.2兆円)をバランスさせるということになり、具体的には、財政支出(85.6兆円)を税収(69.6兆円)以下にするのか、もしくは、不足分16.0兆円(85.6兆円-69.6兆円)を増税で補うということになる。

 

なお、経常収入には、税収以外に、その他の収入7.5兆円が含まれている。

 

 

 

令和6年度予算における国債の収支関係では、歳出に国債費27.0兆円が含まれ、歳入では国債関係の収入として、借り換えのための赤字国債が28.9兆円、ならびに、建設国債が6.6兆円の、計35.4兆円が計上されている。

 

歳出予算では、償還費が17.3兆円、ならびに、利払い費が10.0兆円、国債費に含まれている。

 

赤字国債発行額(28.9兆円)から償還費(17.3兆円)を引くと、新規に赤字国債が11.6兆円増加することになっている。

 

 

 

均衡財政論やプライマリーバランス黒字化は、金庫番の発想である。

 

金庫番は、資金収支表によって、収入と収支を比較して残高がいくらあるのかが最大の関心事である。

 

近代国家の経営に、お金の出入りだけを見るような資金収支表では、まったくそぐわない。

 

税収が不足するからと言って、簡単に社会保障費を削ることはできないし、国家の置かれた政治環境に対応した国防力の保持も必要である。

 

また、現在の日本のデフレ経済下では、増税も難しい。

 

さらに、赤字国債が増えても、国家運営には何ら支障ない。

 

 

 

均衡財政論やプライマリーバランス黒字化は、国家が現状のままに留まること、もしくは、清算することを前提とした、静態論に立っている。

 

そのため、均衡財政論やプライマリーバランス黒字化で考えると、資金収支表を見ながら、増税して歳入を増やすか、または、社会保障のレベルを低下させたり、国防費を減らしたりして歳出を減少させるかという、不毛なトレードオフ論議に陥ってしまう。

 

企業や国家は生き物であり、常に変化している。

 

企業は将来にわたって存続することを前提としたゴーイング・コンサーンである。

 

国家も企業と同様に、ゴーイング・コンサーンである。

 

企業も国家も動態論に立って、経営しなければならない。

 

 

 

国家は成長することによって、不毛のトレードオフ論議から抜け出ることができる。

 

国家経営における最大の課題は、国家経済の成長である。

 

国家経営では、経済成長によって、様々な矛盾を解決することを目指す。

 

 

 

金庫番にはそのような動態的な発想はない。

 

日本では金庫番の発想によって、30年間にわたり経済の成長がなかった。

 

すなわち、消費税増税と、緊縮財政による財政支出の抑え込みが行われてきた。

 

その結果、賃金は上がらず、日本は貧しくなり、人々の暮らしは厳しい。

 

 

 

デフレ不況は、中小企業が潰れていくため、大企業にとっては売上も利益も増大することになり、快適である。

 

さらに、消費税の増税によって、大企業は法人税の減税を享受している。

 

経済界からの政治家への巨額の企業献金によって、法人税引き下げの働きかけが行われた。

 

大企業の内部留保は積み上がり、経営者は自分の報酬を引き上げた。

 

 

 

経団連会長である十倉氏が会長を務める、財政制度等審議委員会の提言である、「『我が国の財政運営の進むべき方向』に関する建議」とは、消費税の増税と緊縮財政を目指すものに他ならない。

 

大企業の集合体である経団連は、国民がどれほど苦しもうとも、自分たちの利益ばかりを考えて、諸費税の増税と緊縮財政を支持していると見られても仕方ない。

 

金庫番である財務省と経団連の、国民を犠牲に資して自らの利益を求めるという思惑は、完全に一致している。

 

 

 

財務省も大企業経営者も、国民の利益を無視して、「今だけ、カネだけ、自分だけ」である。

 

十倉雅和氏も「自利利他公私一如」の理念とはかけ離れたところにいる。

 

また、十倉氏が代表取締役会長の住友化学の業績が著しく悪化している。

 

新聞や経済紙では十倉氏の経営責任を問う声が上がっている。

 

経営者に「志」なかりせば、「今だけ、カネだけ、自分だけ」になってしまい、未来に向けた長期投資などできず、人件費削減のように周りから簒奪するだけの経営となる。

 

 

住友化学、先達の呪縛が招く大赤字 資本コスト機能せず 渡辺伸 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

住友化学の最悪決算招いた経団連会長の経営判断 外部要因への耐性低く複数事業が同時に炎上 | 素材・機械・重電 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

 

住友化学の十倉社長、「聞き上手」な戦略家 リーダーの肖像 - 日本経済新聞 (nikkei.com)