会社を大きく成長発展させるためには、既存事業に加えて新規事業への進出が必要となる。これが多角化戦略である。
多角化戦略では、供給サイドと需要サイドにおけるシナジー活用が戦略の肝となる。

 

 供給サイドには、蓄積されている基礎・応用技術、製品開発技術・能力、製造技術や・能力、販売チャネル、企業イメージなどが含まれる。

 需要サイドは消費者や顧客である。既存事業における供給サイドと需要サイドそれぞれの要素と、新規事業に要素が重なり合うほど、事業の互換性が高くシナジー効果が期待できる。

 

 新規事業参入戦略ではシナジー効果が高い既存事業の周辺領域を狙う場合もあるが、より大きな見返りを期待して、シナジー効果の薄い事業領域を狙うことが多い。将来の成長性が高いと期待される事業には、様々な業界からあまたの企業が参入することになる。

  


 新市場への参入企業は、参入に先立って投資計画を策定し、想定収益率が計算される。想定収益率が企業の期待する収益率を超えることによって、投資が承認されることになる。


 シナジー効果が高い既存事業の周辺領域では、想定収益率の実現確率は高くなるが、シナジー効果の低い領域では、市場調査や新聞情報などをもとにした主観的な想定とならざるを得ない。

 

 新規事業参入戦略では、戦略実行の段階的なマイルストーンが設定され、各マイルストーンへの到達日程が定められ、最終的目標への到達シナリオが描かれる。

 シナジー領域の低い事業領域への参入では、既存事業の経験に基づいて、マイルストーン、到達日程、目標到達シナリオが、「合理的に」策定されることになる。

 そして、経営会議などで、PDCAによる進捗管理が行われる。

 新規事業開発責任者には、目標と実績の誤差についての原因、その対策に関して、「合理的」な説明が求められる。

 

 通勤と冒険旅行との違いにつて考えてみよう。

 毎日の通勤では、自宅から会社へのすべての道筋と所要時間が、はっきりわかっている。

しかし、冒険旅行では、最終到達地と大体の日程予定が決められているものの、ほぼ出たとこ勝負の旅となる。
 既存事業の運営は通勤と同じであり、遅れが出れば急ぎ足でホームを歩き、階段を駆け上がって、遅れた時間を取り戻す。

 しかし、新規事業開発は冒険旅行であり、やってみなければ、また、行ってみなければ、そこに何かあるのかわからない。先のことをできる限り合理的に予想しようと試みるものの、正確に予想することなど不可能であり、運不運に左右される。

 

 カナダのマギル大学の経営学者であるミンツバーグは、新規事業開発や新市場開発における「創発」(emergence)の重要性について述べてる。

 創発とは、もともと、進化の過程で、今までなかったような機能や器官が生まれてくるという、生物学の用語である。ミンツバーグは、「意図せずに起きる成功」という意味で使用している。


 新規事業はやってみなければわからない賭けである。

 新規事業という賭けに勝つために必要なことは、まず、担当責任者の、事業に対する信念、粘り強い精神力とたゆまぬ努力、感性である。

 ポストイットが強力な接着剤を開発しようとして間違って、偶然に生まれたように、あらかじめ予想できるような成功はまれである。

 そして、大きな事業の成功は、「天の時」、「地の利」、「人の祐(たすけ)」という、三つの要素がそろった時に起きる。新規事業開発とは、まさに、時が来て、地の利が生きて(すぐれた開発製品があり)、人の祐(大手流通小売りが力を入れて取り扱いを始める)が現れてくるまで、経営者と事業担当責任者による我慢比べのゲームである。

 

新規事業開発の失敗要因 SmartTimes インターウォーズ社長 吉井信隆氏 - 日本経済新聞 (nikkei.com)