昔と言っても半世紀位前の話になるが、多くの遊園地には「おサルの電車」という人気の乗り物があった。

 気の利いたお猿さんでは駅長の帽子をかぶり、先頭の機関車の運転席に座って、客車に子供たちや親子連れ載せて、電車を走らせていた。

 例えば、1962年(昭和37年)の上野動物園では、先頭車は当時開業間近であった新幹線車両を模したものであった。

 しかし1973年に動物の愛護及び管理に関する法律が制定され、「おサル電車はサルに多大な負担をかける」という判断から、動物園は廃止を決定した。そして、おサル電車は1974年(昭和49年)6月30日に廃止された。

 

 

 「おサルの電車」が登場した昭和20年代には、バッテリー駆動の電気機関車を猿が実際に運転して客車を牽引する方式であった。

 猿が運転しているため、気ままにバックしたり、止まったりすることがあり、それも売りの一つであったらしい。

 その後、猿の訓練が大変であること、10歳以上の猿は凶暴性を帯びて乗客に危害を加える可能性があることなどを理由に、1955年頃には猿による運転が中止され、係員による操作に切り替えられ、猿は先頭車に座るだけとなったそうだ。

 

 遊園地ではすでに「おサルの電車」はなくなってしまったが、日本のサリーマン社長の会社ではいまだに「おサルの電車」経営を見ることができる。

 経営者は社長席に座るが何もしない。会社の操縦は現場任せである。

 平穏な平時では経営者は座っているだけで良いが、変化の波が次から次へと押し寄せる戦時にはそれでは困る。

 しかしながら、平時に慣れ切った会社の社長席には、ハンドルも、アクセルも、ブレーキも付いてない。社長が運転しようにも操縦装置がついていないのである。

 

 東京証券取引所の要請によって、企業は資本効率の改善を急がねばならない。ROEで言えば、PBRが1を超える目安となる、8%が要求されることになる。

 ROEが8%に達していないような企業は、収益性の向上を急がなければならない。

 大幅な収益性の改善のためには何らかの変革が必要になる。

 変革には、現場からのボトムアップではなく、経営者によるトップダウンが不可欠となる。

 現場には細かい課題や問題がたくさん転がっているが、それらをいっぺんに片づけることなる業務や組織の変革については、現場から要請が上がってくることはない。

 

 業務や組織を大胆に変えることになる変革は、経営者の発議によって実行されなければならない。

 日本のサラリーマン社長の会社では、至急、操縦装置を整備しなおし、経営者が自らの課題を直接実行に移せるようにしなければならない。

 経営者が、勝手に走っている「おサルの電車」の運転手でいると、会社に変化は起こらない。経営企画室などの部下任せでは、ROEを劇的に改善させることなどできはしない。

 

資本コスト経営2.0、東証が導く 伊藤レポートから10年 金融PLUS 金融グループ次長 浜 岳彦 - 日本経済新聞 (nikkei.com)