上司が、部下ができそうもないと思っていることをやらせようとすると、何が起こるのか? 

 

 

  部下には二つの選択肢がある。ひとつは、部下は上司の元を去ることであり、他は、部下が「やった振り」をすることである。部下が上司の元を去るということは、会社を辞めることである。だから日本で一流企業の社員は会社を辞めたくないので、経営者の無理な要請に「やった振り」をして応えることになる。

 

 大企業の組織的不正では、最近ではダイハツの認証試験の不正問題があり、2021年に発覚した三菱電機の検査不正の問題がある。いずれも30年以上にわたって不正が継続されており、企業のイメージを著しく損なうことになった。

 

 ダイハツは2016年にトヨタの完全子会社となった。第三者調査委員会によれば、不正は30年以上前から繰り返されていたが、トヨタへの車両供給が増えた2014年以降に不正が拡大したとしている。2016年以降は、親会社の意向に沿おうと、開発期間の過度な短縮という無理を重ねたことが、不正拡大の原因となった。トヨタにとっては経営者からの当たり前の要求でも、体質や体力の伴わないダイハツでは「出来そうもない要求」となる。トヨタとダイハツの体質や体力を同一視してしまうと、経営者からの同じ要求に対して、まったく異なった結果が生まれる。経営者の要求に、ダイハツの社員は「ノー」とは言えず、「やった振り」で対応せざるを得なかった。

 

 技術とは問題や課題解決のための方法論である。すなわち、技術を有している部下は、上司の要求に適切にこたえることができるが、技術がなければ要求には応えることができない。部下が「できそうもない」と思うことは、部下には目標達成や課題解決のために有効な技術がないことを意味している。

 

 パワハラとは、職場で優越的地を利用して、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、部下の就業環境を著しく害することである。法的にはともかくマネジメント的には、目標達成や課題解決のための技術を有していない部下に対して、目標達成や課題解決を強要することはパワハラと言わざるを得ない。ダイハツでは、少なくともマネジメント的には、経営者のパワハラがあったと断じられても仕方ない。

 

 組織で「やった振り」行動が長く続くと、言葉の定義が劣化する。本来の「検査」とは、ある基準をもとに、異状の有無、適不適などを調べることであるが、「やった振り」行動では調べる振りをするという意味にすり替わる。社内では、「検査」を「やった振り」することによって、「検査」が通ったことになり、経営者から現場の社員まで皆心健やかに毎日を過ごすことができる。

 

 新しい経営者が「不正をなくすために風土改革を行う」などと決意を述べているが、不正の根絶には、まず、言語の定義を正常化させること、そして、経営者のパワハラをやめることである。問題解決のためには正しい原因の認識が不可欠である。風土改革などという大げさなものではあるまい。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF135MV0T10C24A3000000/?fbclid=IwAR3iQvhNTcCT2-36Eaho1PbytIDqXkN_Il1Ybh55JvR4fkF2mfHphsjpdps