続→
父は、いつ母への気持ちが爆発してもおかしくない状態でした。
毎日、今日こそ、死ぬだとか俺を殺せだとか言うんじゃないかと怯えていました。
趣味は妻、と自分で言う程、殆ど依存しているように愛しているので、いつ何が来てもおかしくないと考えていました。
よく三ヶ月近くもったと思います。
その夜、外で父の大声がしたのが合図でした。
帰ってきた、やっぱり呑んだか、と思い、居間に素早く父の布団を敷きました。
暫くすると、叔母がやって来てさっさと迎えに来い、と今までより更に乱暴な、母がいた時には聞いたこともないような口調で私達に命令しました。
そっちが呑ませたのに、と不満は口に出さず、弟を迎えに出しました。
帰ってきた父は前後不覚ですっかり己を失っていました。
狭い玄関から時間をかけて居間まで運ぶと、父は突然暴れだしました。
号泣しながら俺も死ぬ、と叫び出しました。
ほとんど獣の咆哮のような、やせた大きな体じゅうからの悲鳴でした。
棚などをなぎ倒そうとするのをきょうだい三人がかりで止め、暴れられてみんな傷だらけになりながら、時間をかけて布団に倒すことに成功しました。
一番体が大きく力のある弟が大汗をかいて父の上に全身で乗ります。
その上から妹と私が押さえつけても暴れました。
死ぬ、俺を殺せ、と父は泣き叫び続けました。
私達も泣きながら自殺したってお母さんには会えない、と叫びました。
父がそんなことを言うのをやめるまで、俺は絶対にどかねぇと弟は必死でした。
その様子を見て、一番母との時間が短かったことを思い、私は押さえ込みながら更に泣きました。
父がやっと眠りについたのは、帰宅してから数時間後、私達が落ち着いたのは明け方でした。
いつ目覚めるか心配で、その間も私と妹は、早朝に起きる弟と交代するまで見張っていました。
その間、不安でどうしようもない気持ちをメールでFに送り続けました。
Fは朝までずっと付き合ってくれました。
数時間寝て次に父と顔を合わせると、小さくなり、昨日はすみませんでした、と言われました。
そんな父が悲しくかわいそうで、私はこっそり泣きました。
そんな事もあったので、父を嫌いだと思ったことは一度もありませんでした。
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