「tsuneちゃん、御握り一つ買って来て・・・」
朝、母の家へ向かう途中にそんな電話が入る。
 
『そうか、今日の朝はお握りにしようか・・・』
そんな思いでコンビニに寄って自分の分と一つずつ・・・、
そしてインスタントの味噌汁二つ、そして小さなケーキ一つ
『後で外へドライブでもして来よう・・・』
随分と日に依っては肌寒い日もあるけれど外を歩く訳でもないし・・・・
 
玄関を入ると襖は開かれ茶の間から新聞紙が数枚
玄関脇のトイレまで帯状に繋がっている。
『トイレ、間にあわなかったのかな・・・』
肌寒いし、そんな日もあるんだろう・・・・どうとか云ってみても仕方ないし。。。
 
「ばあちゃん、腹減ってるやろうし、先にお握り食べるやろ・・・」
 
「うん」
 
「お粥にしようかと思っていたんやけど」
 
 
台所の流し台の上には又も鍋に水が入って卵が二個沈んでいる。
『ばあちゃん、大分お腹減っていたのだろうなぁ』
 
涌いたお湯をカップに注ぎかき回してお握り二つをお盆に乗せて・・・・
「ばあちゃん、お腹減ったやろうし、御握り二つ食べて・・・」
 
無理して私が食べなくても、お腹が減ってれば皆な食べれば良いんだし。
手を合わせて私から受け取り入れ歯の無い口でパクリ・・・・
 
「tsuneちゃん、美味しいよ~」
 
「そうか、儂食べんのやし、ゆっくり食べれば良いよ・・・」
 
「味噌汁も熱くて美味しいねぇ」
 
「ばあちゃん、そんなに急がなくても儂、取らんから・・」
 
「半分食べんか・・・」
 
「要らん、味噌汁だけ飲むし・・・・、
 
あっ、ばあちゃん茹で卵も出来たみたいやぞ・・・・」
 
 
茹でた卵を水に浸して、置かれてあった新聞紙を片付けて・・・・
ようやく母の前に座る。
 
「ばあちゃん、いれ歯は?」
 
「何処かその辺やろ・・・」
 
 
テーブルの下を覗き、茶ダンスの戸を開き・・・・
 
「ばあちゃん、歯、無いぞ~」
 
「あんなモノ、誰も持って行かんやろう・・・」
 
『又、アイツが持って行ったとか云わないで良かった・・・』
応接セットの脇テーブルの上で入れ歯は見つかった。
 
母の場合は入れ歯があっても、無なかってもあまり変わらないのかも・・・・
 
 
弱めに電気毛布はいれてあるし、電気あんかも弱くしてある。
部屋には暖房も入っていて、まるで春先。
 
「ばあちゃん、この家春みたいやね」
 
「夏、終わった処やし春はまだやろ」
 
「ばあちゃん、しっかり分かっとるじ、」
 
「当たり前やがいね・・・・」
 
長閑な様で長閑でないような上がったり下がったり・・・
普通に会話していると何も感じないけれど
夜中に突如電話して来たり
 
息子の時間も都合も何も関係なく
母の一日は廻っている。
 
でも母の腕にある金色の時計は何時も止まっている。
だから何時もが母にとって自分の時間なのかもしれない・・
 
ま、いいか、母の時間に合わせていれば。