母の退院した日、家の部屋は充分温かい。
 
勝手口より廻って
中から玄関の戸を開くと母は自分で「ただいまぁ~」と笑っている。
炬燵も温かいしゆっくり座って二人でお茶を飲んで・・・・
 
長い間誰もいなかった家だけれど
少しは人の香りもする様で母も喜んでいる。
先日からの少しずつの片付けも役に立っているのかもしれない。
 
炬燵で
  「もう、入院なんてしないからね」
  「ホントやね、病院へ行くのも疲れるし、もうしないでいいよ・・・」
何となく憎まれ口を云っても笑っている母。
 
  「ばあちゃん、一寸事務所へ行ってくるから暫く炬燵で転がっていて・・・・」
  「寂しいからすぐ来て・・・・」
 
そして夕方、
晩御飯の支度の為又、母の家へ戻る。
温かいご飯に野菜に鶏肉を混ぜて作った煮物、
そして僅かのサラダと茶碗一杯分の味噌汁。
何時の間にか台所に立っただけでメニューは決まってしまう。
 
母が
  「美味しいね、おまえはホントに作るのが上手いよ」
なんて煽てながら嬉しそうに食べている間に
ベッドの用意をと母の寝室へ入ると
この部屋は長い間人気が無かった所為か、空気も冷えていて寒い・・・・。
 
 
あ、そうか茶の間を温めることに気をとられて・・・
この部屋のことは考えていなかった。
やっぱり男の仕事って何をやっても中途半端である。
 
次の日からはヘルパーさんが来ることになってはいるけれど、
こんな寒い部屋に寝かせる訳にはいかないし
ベッドの移動に掛かるけれど
暖房のかかっている部屋は茶の間だけしかない。
 
それで茶の間に続く4畳ほどの広縁に母の寝室を作ることにした。
障子戸を外して続き部屋風にすれば部屋の温かさが其の儘使える。
トイレも2部屋分ほど近くなったし夜には心配ないとも思う。
 
廊下を隔てただけの寝室から重たいベッドを
縦にしたり横にしたり蹴飛ばしたり襖を破りながらようやく運び終えた。
母の体力の衰えばかり気にしていたけれど、
こんな時は自分の体力の衰えを嫌と云うほど感じてしまう。
 
押し入れの中をひっかきまわしての電気あんかもセットして
 
  「ばあちゃん、むこうの部屋は寒いから今日からここで寝るんやぞ」
  「うん、分かった」
  「トイレの電気も点けとくしいいやろ」
  「分かった」
 
茶碗や鍋を洗って・・・
時計を見ると11時を廻っている。
 
 
妻は1人で夕飯を食べて寝ているだろうか、
今日は母の退院日のことは知っている筈。。。
こんな時間に家へ電話すると妻をも起こしてしまうだろう。
 
 
母は退院して喜んでいるけれど、なんか中途半端な1日。
母を布団へ入れて、戸締りを確認して外へ出る。
 
                                                   猫の恋人
イメージ 1
 
 
ヘルパーさんはどんな人が来るのだろう?
 
何をしても全て初めての体験・・・・
 
どんな生活が始まるのやら・・・・・
 
けれども特別の不安も無い、
要介護3級に認定されただけ、ベッドの位置が変わっただけ、
入院前と変わらぬ生活だろうと思う。