3月。
別れの季節…。

慌ただしい時は着々と流れて、ダルタニアンは銃士隊隊長就任が決まり、アトスから膨大な量の事務引継ぎを受けた。

本来なら、疲れて深い眠りについているだろう明け方。
しかしここ数日でその責務の重大さを改めて思い知ったダルタニアンは、一人、ベッドの上にうずくまっていた。


『私…ほんとに隊長任務なんて務まるのかな。引き受けちゃって良かったのかな。』


女の私でいいのか。
毎日の巡回に耐える体力と実力が真にあるか。


『それに…』

あのひととの、二人の時間が減ってしまう……。

ぎゅ、と毛布を抱きしめて、ダルタニアンは目を閉じ、昨夜を思い出した。

☆☆☆☆☆☆☆
トレウ゛ィルの自室。

『引継ぎは上手くいっているかい、ダルタニアン?』

いつものようにダルタニアンにはミルクティー、自分にはワインを用意しながらトレウ゛ィルは微笑んだ。

『はい…』
あぁ、今日もトレウ゛ィル先生は優しく私を気遣かってくれてる。
でももう、こんな時間はなかなか過ごせなくなるのかも……

トレウ゛ィルの問いに返事はしたものの、ダルタニアンはぼんやりとミルクティーを見つめていた。

そんなダルタニアンを見て、トレウ゛ィルは肩を竦めながら盛大なため息をひとつ落とす。
『…ダルタニアン。もしかしてまた、悪い方に考えてるんじゃないだろうね?』

『悪いほう、ですか?』

『そう。例えば…』
トレウ゛ィルは優雅な足どりでソファーに近づくと、ダルタニアンの隣にフワリと座り…
ダルタニアンを胸の中に抱き寄せ、耳元に唇を寄せる。
『…こんな時間が減ってしまう、とか。』

『////!!!』

やっぱり先生には敵わない。
就任決定から悶々とした思いを抱えていることを、最初から見抜かれてたんだ。
真っ赤な頬で、しかしすぐに不安げに俯いたダルタニアンに、トレウ゛ィルは穏やかな声で語りかける。

『…ダルタニアン、君は自分を信じられない?私を信じられない?』
ふるふると頭を振るダルタニアンを優しく眺めつつ、トレウ゛ィルは続ける。


『だよね。…自分が自分を信頼しなくてどうするの?君は隊長の職を全うできるだけの能力はある。大丈夫だよ。なのにそれを恋の犠牲にするのはもったいないだろう?
私はね、二人の絆は逢う時間とは関係ないと思っているよ。』

それに。

『私はこれからも、君を恋人として独占するつもりだよ。いろんな経験をして、どんどん豊かな女性になっていく、そんな君を待つのも悪くないね』

目が合うと同時に妖艶に笑ったトレウ゛ィルは、そのまま深く深くダルタニアンに口づけた。
『…んっ…!』
ダルタニアンの腰から背中に、ぞくりと甘い快感が駆け上がった。


☆☆☆☆☆☆☆
朝っぱらから何を思い出しているんだ私ったら。

昨夜は先生の言葉にすっかり安心して納得したはずなのに、一人になるとまた堂々巡りしてしまう。

自分を信じて。

トレウ゛ィル先生を信じて。

できる?私。

徐々に昇ってくる朝日を、ダルタニアンはキッと見据える。

…よし、やろう!
きっと大丈夫。

以前は一人で、運命に流されまいと、負けないと突っ走ってきたけど。

今はトレウ゛ィル先生がいる。
共に成長する仲間がいる。
だから、大丈夫。
これからの未来は、この朝日みたいに明るいだろう。
ダルタニアンは大きく窓を開けて深呼吸し、真新しい銃士隊長の制服に腕を通した。
希望の春は、もうみんなの掌に--------




★★★★★★
ご無沙汰してました。
卒業シーズン、なんとか間に合って良かったですf^_^;
春からはダルタニアンも隊長!
このお話でひとまず区切りをつけますが、またネタがあったまれば第二シーズンとしてアップしていきたいとも思ってます。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました!
はい、今さらなタイトルですが…タイトル通り平井堅さんのあの曲です。
この曲にはセカチューのイメージしかない!助けてください!!、って方はスルーお願いします。
さらに、今回はコンスタンスがお相手です。
ダルタニアンとの話以外は嫌だ、という方もスルーお願いします。

時間軸としては、まだ復讐計画中&カステルモール殺害前です。

☆☆☆☆☆☆☆☆
『週末、ライブに来ないか?』

受話器越しにトレヴィルがそう誘われたのは先週のこと。
なんでも週末に、歌手をしているこの友人がライブをするらしい。

元来人当たりの良いトレヴィルは快諾し、久しぶりに会う友人の顔を思い浮かべる。

彼の歌声はいつも、復讐への情念で荒んだトレヴィルの心を、ひととき癒してくれた。
長身からののびやかな歌声は温もりと優しさに溢れ、じんわりと聴衆を包み込む。一言ひとこと丁寧に発音される言の葉たちは、軽々とトレヴィルの心の壁をすり抜けて届くほど真っすぐで。


しかしステージから降りて酒を酌み交わせば意外にも毒舌で、頭の回転が早いことを伺わせるテンポの良い会話で楽しませてくれる。
単に真面目なだけではないその肩の力の抜け具合に、トレヴィルはいつも助けられていた気がする。

そしてある時、トレヴィルは彼に、昔のことだが、と前置きして語ったのだ。

『私には、好きな女性がいてね。想いが受け入れられなくても、彼女が幸せなら私も幸せだ、と、そういう恋だったんだ。』

しかし、彼女は亡くなったのだ、と。

黙ってそれを聞いていた友人は一瞬目を見開き、そしてトレヴィルの気持ちを抱きしめるようにポツリと一言、そうか、と呟いたのだった。

あれから数年。
そうたびたび会う訳ではなかったが、お互い時間が合えばフラリと酒を酌み交わした。
しかし彼は無理にはあの話について聞き出さなかったし、トレヴィルももう、触れなかった。
あの時あの話をしたのは、今から思うと少々気持ちが弱っていたからなのかもしれない。


☆☆☆☆☆☆☆
ライブ当日。中心街の、コロッセウムを模した会場。
まだ春先なので陽が落ちると同時に一気に気温が下がる。
それを予測して黒いダウンコートに身を包んだトレヴィルは、一階フロア・センターの招待席にいた。
時間が経つにつれてしっとりとした空気が降りてくるが、反対に客席は華やかなざわめきに溢れ、期待に満ちた顔が並ぶ。

なぁケン、とトレヴィルは心の中で、幕の向こうに待機しているであろう友人に語りかける。

あれはね、昔の話なんかじゃない。
300年経った今も、まるで昨日恋に落ちたような気持ちで彼女を愛してるんだ…。

そっと目を閉じると、聖母マリアのようなコンスタンスの笑顔が浮かぶ。ざわめきを増していく大衆の中、トレヴィルがフッと口角を上げたその時、幕が開いた。

☆☆☆☆☆☆☆
相変わらずの、伸びのある温かい歌声。
クセもなく、音楽を教えるトレヴィルも素直にその音に身を任せた。
アップテンポの曲が数曲続いた後。
最後の一音の残響がすっかり消えてから、彼は言った。

『…みんな座って。…次の曲は、僕の大切な友人の話を元に作ったものです。』
そして流れ始めたピアノ。

朝目覚めるたびに
君の抜け殻が横にいる。
温もりを感じた いつもの背中が冷たい。


なんだこの歌は。
聴衆がうっとりと耳を傾ける中、トレヴィルの背中にじっとりと冷や汗が流れる。
なぜだか知らないが、本能が「この先は危険」と知らせる。


あの日見せた泣き顔
涙照らす夕陽 肩の温もり
消し去ろうと願うたびに
心が 体が 君を覚えている
your love forever
瞳を閉じて君を描くよ
それだけでいい
たとえ季節が僕の心を置き去りにしても


…嗚呼!もうそれ以上は止めてくれ!!
あまりに直接的な言葉に圧され、トレヴィルの奥底に閉じ込めていた感情が次々と溢れ出る。
トレヴィルは縷々と流れ出る己の涙を、もはや止めることができなくなっていた。


いつかは君のこと 何も感じなくなるのかな
今の痛み抱いて 眠る方がまだいいかな………



----コンスタンス!
お願いだ一人にしないで。
天使のような君の笑顔を知ってしまったんだ。聖母のような君の声を覚えてしまったんだ。
もう、それなしには生きられない。
だからお願いだ、一人に、しないで…!!!-----

ありありとフラッシュバックするリアルな感情に、トレヴィルはギュッと目を閉じる。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!
300年かけてようやく、あの忌まわしい感情を封印したのに。
君の名を呼び続け、叫び、いっそ喉から心臓を吐き出せたらどんなに楽か。
そう願う程のあの慟哭を…一体何度繰り返したことか!!

悲しみ疲れて、やっとの思いで胸の奥底に閉じ込めた想い。
復讐に溺れて目を背けていた想い。

向き合う気力が持てないままの、あの、想い……



I wish forever
瞳を閉じて 君を描くよ
それしかできない
たとえ世界が 僕を残して 過ぎ去ろうとしても


温かな声音に乗った残酷な言葉たち…なんと素直すぎる言葉たちよ…

溢れ出る涙を拭こうともせず、トレヴィルはただただ沸き上がる感情の波に身を委ねた-----。

☆☆☆☆☆☆
『あれは反則だよ全く…』
ライブ終了後、楽屋でトレヴィルは少し高めのワインを手渡しながら、友人に毒づいた。

友人はただニッと笑って
『まあそう言うなって。いいデトックスになっただろ?』
冗談ぽくそう言ってから、少し真剣な目になる。

『悲しむべき時はな、とことん悲しみと向き合うべきなんだ。どん底までいくべきなんだ。たとえそれがどんなに辛くても。そうしないと…』

ちゃんと向き合ってもらえなかった悲しみの感情は、必ず、マイナスエネルギーになるんだ。

大まじめな顔でそう言った友人は、一体どこまで自分のしようとしていることを知っているのか----

思わずトレヴィルがそう身構えた瞬間、

『ま、いいネタ貰えて助かったよ、ありがとな』
友人は、しれっと言い放つ。
『…お前なぁ。人のことネタにするのはやめてくれよ』
彼の気持ちを察し、トレヴィルも冗談で返した。

そう。
確かに今は、心の奥底でくすぶっていた感情は、わずかではあるが落ち着いている。
復讐の手を緩めることはできないが、しかし。

今夜は恨みつらみや復讐計画ではなく、素直な気持ちを彼女に伝えよう。

君がいなくて寂しい。
そして。

愛している、と。




☆☆☆☆☆☆☆
あけましておめでとうございます。
いきなり暗い上に、相手ダルタニアンじゃないし。
しかも勝手にケンさん出演…すみません、久々にこの曲をラジオで聴いて、浮かんでしまいました。

忙しい生活の中、なかなか自分の感情にさえ向き合う時間が取れない方も多いと思います。
気付かないふりをしてやり過ごしても、必ず心は悲鳴を上げます。
たまにはこのトレヴィルのようなデトックスも、良いのではないでしょうか。
早春の、少し霞みかかった湿り気のある空気の中。

トレヴィルは一人、グリモーの森を抜ける道をランニングしていた。
毎日なんとなく日課にしているランニングだが、今日はコースを変えてみたい気分になり、新緑にはまだ早い山道をテンポ良く走る。
早朝の新鮮な空気を思い切り身体に取り込むと、眠っていた細胞がひとつひとつクリアに目覚めた気になり、今日これからの段取りや、とりとめのない思考がスルスルと脳内を駆け巡る。
一人きり、限りなく自由なこの時間が、トレヴィルは好きだった。


『ハッ…ハッ…!』
そろそろウォーミングアップも終わり、本格的にペースアップしようか、と足を早めた時。

ザッ…!

トレヴィルの右肩すれすれに、追い抜きをかけた人物が約一名。

『ロシュフォール…』
なびく銀髪の背中を目の前に、トレヴィルはにわかに渋面になる。
せっかくの一人の時間を台なしにされた気がした。それに。

『…邪魔だ。』
今まさにペースアップしようとした所なので、微妙にロシュフォールのペースが遅い気がする。

無言で追い抜く。

すると数分もしないうちに、ロシュフォールがまた抜き返してきた。

☆☆☆☆☆☆☆
30分後。

すでに島内を一周し、とうに"軽いランニング"の粋を超えたデッドヒートを繰り広げてきた二人は、もう全身汗だくであった。

本来ならとっくに切り上げている時間。早朝のモヤもすっかり引いて、生徒たちも並木道を登校し始める。

----あぁ、だめだこんな気分では。

胸クソ悪い気分を払拭するため、今度こそ一人でもうちょっとだけ走ろうとしたトレヴィルは、しかし、横に並ぶ男が職員寮への脇道に入らなかったことに目を剥いた。

『…おいロシュ!あんた一体何の嫌がらせだ!』

するとロシュフォールはトレヴィルに輪をかけて苦々しい顔で怒鳴り返してきた。
『貴様こそ!何故わざわざ私のコースに入り込むんだ!』

は?
私のコース??

と、トレヴィルが速度を落とした隙を見逃さず、ロシュフォールは一気に前に出る。

…イラッ。
『何が"私のコース"だ!知るかそんな事!』

眼前になびく銀髪を追い抜くべく、トレヴィルはまた速度を上げた。


25分後。
若干タイムの上がった二人は、しかし見事に始業時間に遅刻し、揃ってリシュリューにコッテリ絞られた。
☆☆☆☆☆☆☆
そして。
トレヴィル不在をカバーすべく、ロシナンテが朝のHRを取り仕切ったのだが。
その大袈裟な説明のせいで噂には盛大に尾ヒレがつき…

女子1『ねぇ知ってる?ロシュフォール先生とトレヴィル先生が無断で決闘したらしいわよ!』
女子2『うん聞いたよ!放課後、その罰が下される、とか?』


『…。』
『ダ、ダルタニアン…。』
どうなってるの?とプランシェが聞いてきたがこっちが知りたい。
決闘だなんてそんな事、トレヴィル先生は昨夜も全く言わなかった。

朝からダルタニアンはアトスやアラミス達に事情を聴きに行ったが、
『放っておけ』
『まぁ、心配ないんじゃないのかな。ふふ。』
としか言ってくれなかった。

ようやく放課後になり、罰が執行されるという噂の、正面エントランスホールへ走る。
私闘は罪。その罰、って何?
まさか学園追放?
そんなのダメ………!!!

野次馬はエントランスの外側に集まっていて。

バサバサバサバサッ!!!
その中心に、上から大量の藁が降ってきた。

『ゲホッ!…ロシュてめぇ…絶対絶対わざとだろう!…ぺっ、ぺっ、口に羽が…』

砂埃の舞う中、脚立の下に藁と羽毛まみれのトレヴィル先生を発見し。
脚立の遥か上、2階付近には、すらりと長い脚を架けて雨どいに手を伸ばすロシュフォール先生がいた。

『っ!…トレヴィル!しっかり支えてろ!揺らすな!!』
彼の右手にはピヨピヨと黄色い口を開けたスズメのヒナ達。
左手には雨どいに詰まった大量の藁…元スズメの巣が掴まれていた。
そして自身も羽毛と藁だらけになりながら、バッサバッサと嫌がるトレヴィルに向かって藁を落とし続けている。

『これは一体…』
唖然として呟くダルタニアンの隣に、優雅な足取りでリシュリューがやって来た。

『ふむ。ずっと気になっておったのだ、この雨どいのスズメの巣は。雨のたびに詰まる上、最近ヒナまで生まれ…ここにいてもヒナ達のためには良くないと思っていたのだ。』
森の然るべき巣に移って貰おう…幸い、あの二人は森には詳しいようだしな。はっはっは!

そう理事長は笑ったが、最後の方はその目は全く笑っていなかった。

やんややんやと囃し立てる野次馬に取り囲まれながら藁と羽毛に格闘する二人。
それを眺めつつ、ダルタニアンはそっと涙を拭うのだった-----

終。

★★★★★★
わぁーー。
すみませんすみません!
聖なるクリスマスに、全く関係ない超駄文を生み落としてしまいました。

島を30分で一周できるのか、とか西洋建築に雨どいがあるのか、とかいうのはガン無視!
単に二人が無駄な意地張ってる姿が書きたかっただけです。
キャラ崩壊、平にご容赦を!!