うんこの精が私の前に現れてからもう2週間になる。うんこの精は、イラストでよく描かれている「とぐろうんこ」のような姿をしている。なぜか私にしかうんこの精の姿が見えない。

うんこの精は会社にも現れるのであるから、まいってしまう。




 私は松永ふみ。今年32歳になる。古風な名前と言われることが多いが、自分でもそうだと思う。鉄鋼関係の会社に入社後、現在経理部で働いている。請求書の支払いをしたり、社員の交通費の立替精算をおこなったりしている。名前も仕事も地味だ。


 地味な生活の中、突如「うんこの精」が現れた。うんこの精が現れた経緯については、また別の機会に譲りたいと思う。

 


今日は月末。月末は経理部にとっては戦場に等しい。やることがたっぷりある。部内にぴりぴりした空気が張り詰める。

そんな中、隣の課の小沢義彦課長から

「おい、松永。現時点で普通預金の残高と会計の残高が一致しないぞ。1円違う。大丈夫なのか!松永の課でやることだろ!ちゃんとしろよっ!!」


と大きな目で睨まれながら、大きな声で怒られてしまった。その場が凍り付くのがわかった。


「申し訳ございません。すぐに確認いたします。」


心の中で大きなため息をついた。しかも、1円・・・。はあ・・・。

 



私と同じ課の隣の席の5つ下の後輩の山下君に声をかける。


「ねえ、山下君。普通預金の残高と会計の残高が1円あっていないの。至急調べて。小沢課長から怒られちゃった。」


山下君は、めがねをかけてひょろっとしている。声も若干甲高い。


「ああ、すみません。あれ、昨日どうだったかな。すぐに調べます。」


取り立てて気にする様子もなく、山下君は調べ始めた。


ひょろっとした体つきに似合わず、なかなかの大物の心臓をもっている。


「松永さん、預金利息が1円入金されたのですが、確認不足で経理処理を忘れていました。すみません。すぐにやります。」


山下君の報告を聞き、再び、心の中で大きなため息をつく。


「もう、たったの1円でこんな脅威にさらされるの、勘弁してほしいよね。」

こっそりと山下君に話しかける。


「そうですよね。まあ、1円でもきちんと処理するのが経理の役目なんですけど・・・」

山下君は会計ソフトに入力しながら答えた。


「はあ…たかだか1円だよ。1円ごときにふりまわされるのはたくさん!!」

私は、不満たっぷりに山下君に話した。


うんこの精が遠くで見え隠れするが、気にしないことにした。



 

 

to be continued