入院したのはちょうど去年のこの季節でした。発起塾やらシアター運営やらで仕事が立て込んでいた時期でした。あれから一年。いろんなことが微妙に変化していることに気がつきます。今まで幸せだったことが実はあまり幸せではなかったこと。見落としていたささいなことが実は人生において大切だったこと。そんなことが見えて来ました。肉体的にも精神的にも50歳から見る世界は今までとは違った風景なんだなぁとつくづく思います。

 さて、一ヶ月飛ばしてしまいましたが、「いる演技いらない演技」の話をしましょう。

 長年塾生をやっているとだんだん公演自体にも慣れ、客にも慣れ緊張感のない公演をしている人が出てきます。またセリフは多ければいいと思っている人。セリフの意味も理解せず、相手役のことなど何にも考えていない人。人よりも前に出て、正面向いてセリフを言えばいいと思っている人。まだまだたくさんの困った現象が起こっています。確かに今までセリフは堂々と前に向かって大きな声で言ってくださいと指導してきました。が、幼稚園の発表会で指導されたことを大学生にもなってまだ同じことをしているようなものです。(幼稚園では相手役と話をするよりも前を向いてしゃべることの方が多いです。同じことをしている塾生が意外と多いのも事実です。)

 そこで演技の「メンテナンス」をしなければなりません。脱皮ですね。何年もやっている人は、芝居のことが少しわかっているのですから、今までの殻では小さいのです。もっと大きな殻、つまり芝居全体のことを見ることが出来るような役者に一皮むけなければなりません。「このシーンでは誰が一番大切なセリフを言うのか」をわかっていれば、その人のそのセリフ以外は出来るだけ前に行かず、正面を向いてしゃべらないようにするわけですね。我先にと前に出てしゃべる人がいるとそのシーンはぶち壊しになります。物語が続かなくなるからです。また先にも言ったようにどのセリフが大切なのかわからなくなるからです。目立つことより、自分を殺してそのシーンを生かす。そういう演技が大切であり、そういう人が役者というのです。さて、次の公演ではあなたが脱皮する番ですよ。