一人の少年が、面接にやって来た。
ひと月前に、少年院を仮退院した少年である。
母親、警察などの周りのおとなたちによると、本人は就職を望んでいるという。
周りの押し付けではないのか。
少年本人の希望を確認するため、丁寧なヒアリングを行った。
すると、めずらしく一致。
今はやることがなさすぎて、そのうちまた同じことをしてしまいそう。だから、就職をしたい。
やや消極的な理由であるものの、本人が現状に不安を抱いていることは間違いなく、
なんとかしたいという危機感を持っていることは確かである。
支援決定。
かなりのスピード感でもって、次回の約束をした。
ところが、母親から一本の電話が。
そこは思っていた場所と違っていた。
そこへ行けば、すぐに仕事を紹介してもらえると思っていた。
少年も同じ意見であるという。
非行少年の家庭をみると、親子関係がうまくいっていない場合が多い。
ところが、この母子の場合は、現在関係が非常に良好であった。
少年院にいる間、少年たちは忙しい。
日課をこなすことに必死である。
スケジュール的にも体力的にも厳しいものがある。
反発しても、結果的には自分たちにかえってくるだけである。
そのうち、大人の言うことを素直に聞き入れることが一番よい方法であると思うようになる。
少年たちのひとつひとつの行動。
そのなかに、もはや子どもの意思は存在しない。
厳しい規律とハードなルーチンワークによって、従順な子どもができあがる。
めでたく仮退院となり、いざ外の世界へ。
少年は、しばらくは、周りの大人の言うことを素直に聞き入れる。
あれだけとがっていた目も、まっすぐに相手の目を見つめて話をする。
面接にやってきた少年の場合も、驚くほど素直な印象を受ける。
すっかり毒がぬけきっているという感じである。
これから始まる二人三脚の活動も、うまく軌道に乗る気がしていた。
ところが、その確信は一夜にして消えてしまった。
母親は、自分の感覚で物事をとらえ、少年にそれを伝えた。
少年は母親を信頼しきっているから、母親の言うことを疑うことなく聞き入れた。
自分でできるなら、この1カ月はなぜ何も行動できなかったのか。
そのように疑ってみることはしなかった。
母子の関係が良好。
本来なら望ましいはずのこの状態に、まさか邪魔されてしまうとは。
一度しか会っていない私と母親。
今、少年の天秤に乗せられれば、母親に傾くのである。
母親の説得は、難しいかもしれない。
しかしながら、これではまた同じ過ちを繰り返すことになる。
実に簡単に想像できることだ。
少年が母親の言動に疑問をもつようになった時。
少年が自分の意思をも取り戻した時。
間違いなく危険である。
その時、すぐに手を差し伸べられるように、継続的に見守っていく必要がある。