今回は本のご紹介。

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣



この本がどんなものかはシンプルだ。

俺たち人間は、思い込みによって世界を正しく見ることができていないので、事実に基づいて正しく見よう。

というものだ。

そう聞くと、うんざりするようなデータがつらつらと並んでいるのかと思いきやそうではなく、作者のハンス・ロリング氏の人柄からか、実にユーモラスな筆致で愉快なエピソードともに紹介されているので退屈することなく読むことができる。

この本をユニークなものにしているのはやはり「チンパンジークイズ」だろう。

何かというと、

人間が解いたらチンパンジーよりも正解率が低くなるクイズのことだ。

もちろん、チンパンジーは言葉など理解できないから、それは「全くランダムに答えた場合」と言うことだ。

いくつか引用しよう。

質問1 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20%
B 40%
C 60%

質問2 世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A 低所得国
B 中所得国
C 高所得国

質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わってない
C 半分になった


さて、みなさんも考えてみてほしい。

ネタバレを避けるため答えは書かないでおく。

クイズの内容自体はすごくシンプルだ。完全にランダムに答えを選んだ場合、当然正解率は約33%になる。

しかし、人間の正解率はこれを下回る。しかもその人間とは、小学生でも幼稚園児でもなく、いい年した大人、しかも、市井の人々だけでなく、学者や政治家などのエリート層でも同じことだったのだ。

こんなに興味深いことはない。ちなみに俺も間違えまくった。

この本を読むと世界の見方ががらりと変わる。

世界は、我々が想像するよりもはるかに素晴らしいものだということがわかる。

我々はあまりにも、世界について悪く考えすぎてしまっているのだ。この本はそれに気づかせてくれる。
しかも、調べようと思えば俺でも調べられそうなデータによって。

それが実に痛快なのだ。

この本には「減り続けている16の悪いこと」というデータが紹介されている。

いくつか紹介しよう。

HIV感染
石油流出事故
戦死者数
飢餓
災害による死者数
飛行機事故の死者数


さらに「増え続けている16の良いこと」と言うデータもある。

自然保護
農作物の収穫
女子教育
予防接種
女性参政権
絶滅危惧種の保全


いかがだろうか?
中には「え?これ増えてるの?」「減ってるの?」と思ったものもあるのではないだろうか?

これらは信頼できるデータによって示されている。
この本の中で何度もロリング氏が強調するように「世界はよくなっている」というのがこの世の真実だ。

例えば、子供のころ、クラス単位、学校単位で募金をしたことはなかっただろうか?貧困地域に、家にある衣類や食料などを送る活動をしたことはなかっただろうか?

時に戦争反対と声をあげたことはないだろうか?友人たちとそんな話をしたことはないだろうか?

そういう俺たちの努力は、ちょっとずつ成果を上げ続けている。
「こんな服をちょっと送ったぐらいでなんか変わるの?」
「俺が送った食糧って一食分にしかなってないけど足しになってるの?」
などと思ってむなしくなったことはないだろうか?

俺はある。
だが、成果は出ていたのだ。

ロリング氏は本書の内容を世界各地で講演していたが、その時聴衆の一人が「なんだか癒されたよ」と声をかけてきたことがあるらしい。

俺はその人の気持ちがよくわかる。

さて、この記事の本題だ。

俺は、オタクと言うほどにはアニメやマンガ、いわゆる「二次元」に関して知識はないのだが、それなりに親しんで生きてきた。

しかし、それらの作品の、少なくとも一部はこれまでのように楽しめなくなってしまった。

どういうことかと言うと、それら二次元の作品には、「世界滅亡物」と言うものがよくある。

そういうものにリアリティを感じなくなってしまった。
その手の作品は「世界はどんどん悪くなっていっているのでこのままだったら世界の滅亡は必然だ」と言う悲観的な世界観に基づいている。

しかし、現実はそうじゃない。そうじゃないから説得力を感じない

さらに、その世界滅亡の原因が戦争や陰謀で、その黒幕が「人間は愚かだ!いつまでもいつまでも同じ過ちを繰り返している!一度人間を滅ぼさねば世界の平和は実現しない!」などと言おうものなら、もうダメだ。

楽しむどころじゃなくなる。
そいつに対して「ファクトフルネス」を読ませてやりたくなる。
「勉強しろ!」と言いたくなる。

この本を読む前は、そういうキャラクターに対して一定の理解を示していた。そして、「現実的で頭がよく、改善するための具体案を出している人」という評価をすることもあった(世界滅亡に同意するかは別として)。
それを止めようとする主人公は、「優しく正義感が強いが、具体案は何もなく楽観的に考えているだけ」という見方をすることが多かった。この本で批判されている「悲観的過ぎるものの見方」をしていたからだ。

だがそうではなく、データに基づくものの見方、そして実際のデータを見た後は、むしろその類の悪役は「真実を知った風な口をきいているが、実際には悲観的な思い込みにとらわれているだけの基本的な勉強もしていないやつ」という風にしか見えなくなった。

確かに、人間は同じ過ちを繰り返している。いまだに問題は山積みで、悪くなっているところもある。だが、それを上回る進歩を繰り返している。

それが事実だ。きれいごとでも何でもない。

こんなことでは、とても作品を楽しめるはずがない。
いや、「フィクションなんだからそんなに現実に即している必要はない」とか「俺はそれでも楽しめる」と言う人もいるだろう。それを否定するつもりはない。

だが、俺はダメだ。

リアリティがなさ過ぎると興ざめだ。

よって、この本はいわゆる「ヲタク」には勧めない。あなた方が楽しんでいる作品のいくつかは楽しめなくなってしまう可能性がある。

非ヲタの人、特に、客観的事実に基づいて、世界のありのままの真実を見たい人にだけおすすめする。

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