天海、襲名おめでとう。



今日の襲名は、千之助にとっては子供の成人式のような感じですかね。"親"をやめるわけではないけど今日で"子育て"は終わり。千之助はそう考えていました。


千之助にとってもそんな感慨深い襲名披露の場で、一平が父・初代天海の想いに気付いたと語り出したことに驚き、そして安堵し、法要のエピソードをで溢れる懐かしさにあったあったと一平と笑い合う千之助。その後も自分の言葉でええカッコせずに真摯に思いをすべて吐き出す一平が逞しく、そして愛しいと、千之助はそう感じました。



息子のおかげで役者を続けることになった父、

その父のおかげで役者を続けることになった息子。

その息子が、父が役者を続けたことで無くならなかった"天海"という名を継ぐ。



因果応報というか、因縁というか。

本当に素敵なコトで。



きっとあの場の、客席の奥の通路のその奥、誰からも見えない場所に、誰も気付かずひっそりと母の夕さんの姿があったのだと思います。そしてそれに気付いたたった二人の人間、舞台上の千之助そして、客席のハナはんの二人とは目で喋った、私はそう考えています。




で、一平が千代を隣に座らせようとした時に、"こんな神聖な場で何をするねん!"とばかりに座員たちが大騒ぎし止めました。その座員たちにブチ切れ、千代にはよ来い!と促し隣に座らせる千之助。

これは当然です。一平、いや、二代目・天海天海が始めた一世一代の"にわか"いわゆるアドリブを邪魔するのか、と。こういう堅苦しい場やからこそおもろいんだと。喜劇役者の端くれのくせに、なにを、しきたりやら常識やらの"しょうもないもん"のために、お客さんが「何が起こるのか」とワクワクしているであろう座長のにわかを潰そうとしてるんだと。

オマエら長々と舞台に立ってきたけどいったい"どっち向いて"今まで芝居をしてきたんやボケェ!と。



そして何より千之助は結婚の発表だと察したからです。客席にいる"親"のシズはんや宗助はんが千代の結婚をどれだけ喜んでくれるか。一平の''母"のハナはんも。そして福富を始め道頓堀の皆さんも。だからこそ自分も親として"息子"の、天海として夫としての門出を邪魔する者は容赦しない、と。




怒りではらわたが煮えくりかえり立ち上がってひとりひとり殴り飛ばしたい気持ちを、千之助は必死でこらえました。



ちなみに私にことわりなく千之助が勝手にブチ切れたのはこれで2回目です。



1回目は、以前、舞台袖への通路で千代が千之助に座長の座をかけて挑んで来て対峙してる時に、間から何かゴチャゴチャ千代に言おうとした百久利を一喝した時。


そして今回。



…まぁ、キレられた方は台本通りにやっただけなんですけどね😁




で、めでたく襲名と結婚発表が終わりました。

お気付きになった方もいらっしゃるかも知れませんが「今までコイツのことありがとうございました」

「これからもコイツらをよろしくお願いします」

という"親"としての心からの想いで、会の間じゅう誰よりも深くお辞儀をするように千之助はしました。


ハナはんに。シズはん宗助はん、福富はじめ道頓堀の皆さんに。役者として育ててくれたお客さん、そしてテレビの前のたくさんのご贔屓さんたちに。



…そして「コイツを生んでくれておおきに、ほんまおおきに」「いろいろすまなんだ」と夕さんに。



関係者揃っての記念写真撮影では、照れ隠しなのか不機嫌に早よせえや!とカメラマンに言い放つ千之助。




こうして襲名披露公演は終わりました。


「ただ、一平と千代、勘違いすんなよ。役者生活も結婚生活もこれで幕ちゃうぞ!今から幕開くんやからな!」


と、千之助からのお言葉です。






………で、実は、今日のこの回の台本には、

千之助にはたった一言の台詞もト書きもありませんでした。



だから今日の回は、私があれこれ何かを覚えて言うことも一切なく、すべて千之助がそこに生きて勝手に考え、感じ、勝手に笑って、勝手に口を開き、勝手に怒鳴って、勝手に動いたので、実は私にとっても千之助から"子離れ"した日でありました☺️




そしてちなみにちなみに、

襲名披露に関するわれわれの所作は、大山社長役の中村鴈治郎さんが現場でいろいろ教えてくださいました。贅沢!