トランスジェンダーの方の話題はニュースなどでよく聞くのですが、実際の治療的な側面での話はなかなか触れる機会がありません。
そこで、今回はトランスジェンダーの方の中でも、女性として生まれた方が男性ホルモンによる治療を受けた場合の生理について見ていきたいと思います。
男性ホルモンであるテストステロンの治療を受けている方にとって生理が止まる事は一つのゴールになります。
そこで、この論文ではテストステロンの投与を受けている方に起きる「破綻出血」について検証しています。
破綻出血は、卵巣の働きにより厚くなった子宮内膜が生理まで待たずに剥がれてしまう事による出血を意味します。
こう言ったテストステロンでの治療以外でも、ストレスや体調不良など様々な理由で排卵が起きない周期になると、不意に子宮内膜が剥がれてしまい、破綻出血を起こしてしまうのは、誰にでも起こり得る現象です。
対象
テストステロンの投与を1年以上受けている232人
結果
232人のうち、58人は1年以上テストステロンの投与を受けた後でも1回以上の破綻出血の経験がありました。
テストステロン開始年齢、BMI、人種、使用しているテストステロンのタイプ、生理を抑えるための他の薬の使用、血中テストステロン濃度、血中エストロゲン濃度について、破綻出血の経験の有無で比較しても、明らかな違いはありませんでした。
テストステロンの投与を受けている期間で比較すると、破綻出血の経験がある人では37.3ヶ月、破綻出血の経験がない人では28.5ヶ月と、治療期間が長いほど、破綻出血を経験する可能性が高くなる傾向がありました。
また、子宮内膜症のある方でも破綻出血を起こしやすい傾向がありました。破綻出血が起きる時期は、テストステロン投与を開始してから平均して24.3ヶ月でした。
破綻出血の原因としては、46人(79.3%)が原因不明、10人(17.2%)がテストステロン投与量不足、2人(3.4%)が生理を抑える他の薬の中止でした。
テストステロン治療そのものは早い段階で無月経にできる治療法であるものの、約4分の1の方に破綻出血が起き得ることがわかりました。
現時点で破綻出血を抑える有効な治療法というのはわかっておらず、一定の確率で起きる副作用として様子を見ていくしか手がなさそうです。
婦人科としては、破綻出血は不正出血の一つであり、その原因として子宮頸管ポリープ、子宮内膜ポリープ、子宮頸癌、子宮体癌などが考えられるため、仮にテストステロンの治療を受けていたとしても、出血があった場合には一度は診察を受けていただきたいですね。