帝王切開の時に子宮の壁を縫うのですが、その縫った部分が薄くなってしまう「帝王切開瘢痕症候群」について、先日ブログで説明しました。





そこで、今回は帝王切開瘢痕症候群の壁が薄くなった子宮に対して、手術で修復した後に妊娠した場合と、修復せずにそのまま妊娠した場合について比較した論文を見ていきたいと思います。






この論文では、内視鏡で帝王切開瘢痕症候群を治療した場合と、治療しなかった場合で、妊娠中に子宮の壁の厚さがどのように変化するかを調べています。



対象となった100人のうち、61人は子宮の壁の厚さが3mm未満で、瘢痕症候群による症状があり内視鏡手術をした群、39人は症状がほとんどない、もしくは子宮のの壁の厚さが3mm以上あり手術をしなかった群でした。



いずれの群も、妊娠12週、20週、30週に超音波検査を行い、子宮の壁の厚さを評価しました。手術群では、術前と比べて妊娠後期には壁の厚さが2.0mm厚くなっていました。一方で、手術をしない群では、1.6mm薄くなっていました。いずれの群でも、妊娠週数が進むにつれて壁の厚さは薄くなっていきました。



手術群の方が術前の壁の厚さは薄いものの、妊娠中どの時期でも壁の厚さが厚くなっており、妊娠初期には3.2mm、妊娠中期には2.5mm、妊娠後期には1.8mmの差がありました。、



不全子宮破裂(子宮の壁が非常に薄くなっているものの、子宮破裂は起きていない状況)は、手術群: 2%(50人のうち1人)、非手術群: 19%(36人のうち7人)と、非手術群の方が多いものの、子宮破裂を起こした人は、いずれの群にもいませんでした。




いずれの群でも、多くの人が予定帝王切開を受けており、手術群の方が帝王切開時の出血量が多くなっていました。




以上のことから、瘢痕部に対する内視鏡手術により、妊娠中の子宮の壁の厚さは、より厚くなる事が予想され、それによって不全子宮破裂という状況は、より起きにくくなると言えそうです。





手術群の方が帝王切開時の出血が多くなる原因としては、帝王切開の時に切開する子宮の壁が厚い方が、切開されて露出する壁の面積が大きく、その分だけそこから出血する量が増えるためだと思われます。


だからといって輸血するほどの出血の多さにつながるとは考えにくく、あまりデメリットとして捉える必要はないと思います。



現時点では、帝王切開瘢痕症候群が原因となる不正出血など、様々な症状で困っている場合には内視鏡手術の適応になる事が多いのですが、今後もより多くのデータが集まってくると、次回の妊娠に備えて、前もって内視鏡手術をして、子宮の壁を厚くしておく、という選択肢が出てくるかも知れません。




そのあたりは、まだ日本国内でも統一した見解がないため、帝王切開瘢痕症候群で壁が薄く、次回妊娠を考えている方は、主治医の先生とよく相談してみてくださいね。