以前、無痛分娩でいきむタイミングをどうするのか、というブログを書きました。





その中で、吸引分娩や鉗子分娩といった「器械分娩」が必要になる話が出ていたのですが、今回は器械分娩のリスクについての論文をご紹介したいと思います。










この論文では、器械分娩と母体合併症(会陰裂傷や酷い腟壁裂傷)、新生児合併症(帽状腱膜下血腫、腕神経損傷)の関係を検証しています。




対象となったのは、2013年から2019年にかけてカナダで出産した1,326,191人の妊婦さん。


そのうち、38,500(2.9%)が鉗子分娩、110,987(8.4%)が吸引分娩となっていました。




鉗子分娩では


・母体合併症: 25.3%


・新生児合併症: 0.96%



吸引分娩では、


・母体合併症: 13.2%


・新生児合併症: 0.96%


でした。



母体合併症に関しては、吸引分娩より鉗子分娩の方が1.70倍高い結果となりました。





このように、器械分娩には母体・新生児ともに一定の確率で合併症が起きる事がわかります。



鉗子分娩というのは、鉗子という金属のヘラのようなもので赤ちゃんの頭を掴んで引っ張る方法なのですが、そのヘラの厚さの分だけ赤ちゃんの頭囲が大きくなって出てくることになるため、会陰裂傷や腟壁裂傷がひどくなるリスクは上がります。





吸引分娩では、赤ちゃんの頭に強力な吸盤のような物を付けて引っ張るのですが、その圧力が強すぎて赤ちゃんの頭の中で出血を起こしてしまう「帽状腱膜下血腫」という合併症のリスクがあります。




私自身、NICUで研修していた時に、夜11時頃に「帽状腱膜下血腫」で搬送されてきた新生児の治療に関わった事があるのですが、出血の量が多いために急いで輸血をする必要があり、スタッフ総出で輸血をどんどん入れて、何とか命だけは救えた事がありました。



ひと段落した時には、もう空が白み始めていたのを今でも思い出します。



そして、治療はそこで終わりではなく、その後も頭の中に出血した後遺症が出ないか、入院中はずっと経過を診ていました。



その経験があるので、本当「帽状腱膜下血腫」というのは怖い合併症で、できることなら吸引分娩はしたくない、というのが個人的な印象です。





確率は極めて低いものの、そういったリスクが器械分娩にはあり、その器械分娩の可能性が高くなる無痛分娩というのは、個人的にはどうしても怖いな、と感じています。





もちろん、痛みが少ないというのはお母さんにとっては素晴らしい出産方法なのですが、今回説明したようなリスクもありますので、もし無痛分娩を希望される時には、主治医の先生としっかり話し合って決めるようにして下さいね。