デリケートゾーンの痛みがあり、婦人科を受診したけれども、特に検査をしても何も見つからない、という事があります。

これは、

Vulvodynia

という状態の可能性があり、デリケートゾーンの慢性的な痛みを意味します。

日本語では腟前庭炎症候群というような名前になります。


性行為の時の痛みだったり、座る時の痛みだったり、様々な条件で引き起こされるのですが、少し触るだけのように一見痛みを引き起こさないような条件でも痛みを覚えるのが特徴です。

痛みの性状も刺すような痛みだったり、ジンジンするような痛みだったり、人によって様々で、年単位で続く事があります。


はっきりとした原因はわかっておらず、カンジダやヘルペスのような感染症、アレルギー、外傷など、多くの可能性があるのですが、一通り調べても原因がはっきりしないこともあります。


治療がうまく行かないと年単位で症状が続く事があり、顎の痛みや過敏性腸症候群の痛みなど、他の痛みを伴っている事もあります。


確実に効く治療法というのが定まっていないのですが、一つの治療法として、マインドフルネスという心理療法が有効な事があります。


方法としては、まず日頃から痛みも何もないニュートラルな状態の時に、静かな環境で目を閉じ、腹式呼吸をして自分の呼吸に集中しておきます。

そして、痛みを感じた時に、腹式呼吸を再度意識して、ニュートラルな自分を再確認し、その自分からの振れ幅として客観的に痛みをとらえるという方法です。

私自身も、このマインドフルネスをしっかりとマスターしている訳ではないので、なかなか説明するのが難しいのですが。。。

この方法は痛みに限らず、悲しみや苦しみなど様々な悩みが出てきたときにも有効と言われていて、何らかの出来事に対してネガティブな印象を持ったときに、その出来事をネガティブなものにしているのは、出来事そのものではなく、自分自身の頭の中の「価値観」である、と客観的に認識することで、心を落ち着ける事が出来ると言われています。

そういった心の動きをダメなものとして否定するのではなく、あくまで「そういう心の動き」をしているんだ、と客観的に捉える事が大切です。

自分の中にニュートラルな状態の芯を作り出し、そこを日頃の腹式呼吸で意識する事で、心の振れ幅を客観的に捉える、という感じですね。




私自身もこちらの本を読んで勉強した分野になるので、もし興味のある方は是非一度読んでみることをお勧めします。


このような方法で、デリケートゾーンの痛みが軽減すればいいのですが、それでも痛みが残る事もあります。

他にできる事といえば、石鹸で洗うことを辞めたり、キツいズボンや下着を避ける事も試して見る価値はあるでしょう。

また、ヨガやストレッチも役に立つかもしれません。保険で処方することはできないのですが、キシロカインゼリーと言って、麻酔成分が入っているゼリーを使うのも一時的に症状改善に役立つ事もあります。


そして、筋肉を小さくする作用のあるボトックス注射というのも効果があるかも知れません。

それを検証したのがこちらの論文になります。


こちらの論文では、慢性的なデリケートゾーンの痛みに対して、50単位のボトックス注射を3ヶ月おきに2回打つことによる効果を検証しています。

まず、球海綿体筋(腟の周りを囲む筋肉)というデリケートゾーンの筋肉に、50単位のボトックスを3か月おきに2回打つ群と、プラセボ(何の効果もない液体)を打つ群に分かれてもらいました。


デリケートゾーンの慢性的な痛みや、タンポンを入れる時の痛みを100段階で評価してもらいました。無痛を0、考えうる最悪の痛みを100としています。

また、腟内の圧力を測るメーターを使って、骨盤底筋の緊張状態がどの程度改善したかや、副作用、性機能障害についても評価しました。


対象となったのは、腟前庭炎症候群のある88人の患者さん。44人はボトックス注射、44人はプラセボ注射の群に分かれてもらいました。


その結果、慢性的な痛みやタンポン挿入時の痛みは、ボトックス群で100段階中7だけ下がるという結果で、統計的に明らかな低下とまではいえませんでした。


ただ、1週間単位でのタンポン挿入時の痛みは100段階中11の低下があり、腟内の圧力も7mmHg低下していました。これは、やや効果があったものと評価されています。


性機能障害に関して変化はありませんでしたが、ボトックス注射することで、性行為に積極的になる割合は明らかに増えていました。重い副作用は報告されませんでした。


以上のことから、痛みを数値化した場合の改善度は劇的なものではなかったのですが、実際に痛みから性行為を避けてしまう状況に対しては、ある程度の改善効果があったと言えそうです。


このように、デリケートゾーンの痛みに関しては様々なアプローチ方法がある事がわかります。逆に言えば、これさえすれば絶対解決できる、という確定的な方法がないとも言えます。


マインドフルネスに関しては、ご紹介した書籍である程度は学ぶことが出来ますし、デリケートゾーンの痛み以外にも、様々な悩み事への応用は効きそうなのでオススメです。

ボトックス注射に関しては、保険が効かないので自費になりますが、お近くに対応してくれるクリニックがあれば、相談してみて下さいね。