HMzukiのひと言日記

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日々の記録と読書の備忘録

北沢陶『をんごく』(角川ホラー文庫)を読了。

 

大正末期の大阪を舞台にした哀しく切ないホラー。

初めて読む作家だったが、横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞><読者賞><カクヨム賞>をトリプル受賞した作品ということで、期待大で臨んだ。

個人的に、恒川光太郎『夜市』を読んだときに似た感動を覚える読書となった。

 

愛する妻を若くして亡くすもその死を受け入れられず、巫女のもとを訪れた壮一郎だったが、なぜか降霊は失敗してしまう。巫女は「奥さんな、去んではらへんかもしれへん、気をつけなはれな」と壮一郎に警告する。すると家の中に異形となった亡き妻の気配を感じ始め、その姿を探る最中、死んだことに気づかない霊だけを喰う顔のない男エリマキと出会う。壮一郎はエリマキとともに妻の霊を追うことに。

 

異形の者と対峙するホラー小説としての恐怖はもちろんあるのだが、それ以上に、「愛する者の死とどう向き合っていくのか」という哀しく切ないストーリー展開が非常に良かった。そして、妻が異形となってしまったのにはある忌まわしい原因が絡んでいたことが明らかとなる、いわゆる因習ホラー的な要素もあり、しかも因習ホラーの大半を占める田舎などの限界集落ではなく大阪の商人の町の秘密というところがまた素晴らしい。

壮一郎と行動を共にするエリマキの存在もまた魅力的。人の魂を喰う化け物ではあるが壮一郎の協力者として、掴みどころのないようで人情味も垣間見えるキャラクター。そして彼にも、彼自身忘れていた秘密があり、その正体は一体何なのかを予想しながら読むのも楽しかった。

 

アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』(光文社古典新訳文庫/廣野由美子訳)を読了。

約十数年ぶりの再読となり、大まかなストーリー以外はすべて忘れていたので新鮮な気持ちで楽しめた。

ただし、前回はハヤカワ文庫(中村妙子訳)版で、今回読んだのは先月光文社から出たばかりの新訳版である。

 

愛する夫と立派に育った三人の子供に恵まれ、良き妻、良き母として幸せな人生を歩んできたと自負する主人公のジョーン。

しかし、一人旅の途中、自分の人生を振り返り、家族とのやり取りを思い返すたびに、その自己像は果たして正しかったのか疑問に感じ始める。

以上のあらすじはしっかりと覚えていたが、その考えに至った末にジョーンがどのような決断をしたのかについては全く覚えておらず、「おぉ、こんな結末だったか」と心理サスペンスものとして非常に恐ろしく楽しんで読めた。

 

今回、新訳版を購入して良かったと思ったのは、訳者による注釈と解説の存在。

今まではミステリ、エンタメ小説として楽しむだけだったが、訳者解説のおかげで本書を文学作品の視点から様々な発見をすることができて非常にありがたかった。恥かしながら、タイトルの『春にして君を離れ』というのがシェイクスピア『ソネット』からの引用というのを初めて知りました。

 

 

宮部みゆき『人質カノン』(文春文庫)を読了。

 

「人質カノン」

「十年計画」

「過去のない手帳」

「八月の雪」

「過ぎたこと」

「生者の特権」

「漏れる心」

 

思えば、宮部みゆきの単著を読むのは初めてかもしれない。

これまで読まなかったことの理由はこれと言ってないが、強いて言えば代表作が『模倣犯』『火車』『理由』などの大長編でなかなか手が伸びなかったということくらいか。

そこで今回の『人質カノン』は300頁ほどの短編集ということで、“宮部みゆき気になるけど長編なかなか読み切れない人間”にとってはもってこいの一冊であった。

 

さて、内容はというと文芸寄りのミステリ短編といったところか。

「人質カノン」ではコンビニ強盗の犯人の正体について一人の男の名が噂されるのだが、地域社会の繋がりの有無によって起こりうる事件とその後の社会の動きというものを考えさせられる。

「いじめ」が関わる作品が「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」の3編あった。いずれも被害者側からの描写になるが、それぞれ違ったアプローチの仕方で「いじめ」被害者たちへの応援を込めた作品群としても読める。決して明るくはないが重すぎず、読後には何か光が見える結末になるところも良かった。

三津田信三 編著『七人怪談』角川ホラー文庫を読了。

 

澤村伊智 霊能者怪談「サヤさん」

加門七海 実話系怪談「貝田川」

名梁和泉 異界系怪談「燃頭のいた町」

菊地秀行 時代劇怪談「旅の武士」

霜島ケイ 民俗学怪談「魔々」

福澤徹三 会社系怪談「会社奇譚」

三津田信三 建物系怪談「何も無い家」

 

自分がその場にいるようなリアルな恐怖を味わえたのは「何も無い家」。

雑誌の投稿を発端とし、そこからじわじわと何十年も伝播してゆく単なる霊能者怪談とは言えない「サヤさん」も怖くて面白かった。

初めて読んだ作家では菊地秀行「旅の武士」が不条理さと時代物特有の味わい深さがマッチしていて面白かった。幽剣抄シリーズというのが気になる。

この手のアンソロジーは一つか二つは好みから外れるものもあるけれど、今回はすべて怪談小説として面白かった。