ほたる(夏祭り)前 | ~From.裕~

ほたる(夏祭り)前

気付いたらベッドだった。   少し長く寝過ぎたような
練習でも味わった事の無い疲れ
傷みを身体中に感じた。
重い瞼を開けると
見慣れた俺の部屋…

『兄(にい)ちゃん入るよ!』

相変わらず元気が有り余った声で入って来た。
重い身体を起こした。

夢?
かなりリアル過ぎるけど…

『お前と待ち合わせしてたよな』
『いつの話ししてんの?
20日も前じゃん。ちゃんとプレゼント買って、帰りに買ってくれたアイスまた食べたい…兄ちゃん?』

20日前…
カレンダーを見ながら不思議な感覚になり、自然と今日が23日だと思えた。

『大丈夫?疲れてんの兄ちゃん』
ごまかしながら不安定なまま否定すると
『早く着替えなよ。お店の予約6時なんだからね』

時計を見ると午後4時

母さんの誕生日は、少し場違いじゃないかと思うレストラン。
俺達の将来を考えての場慣れだとか言ってる。

そんな事よりシャワーを浴びスッキリさせなくては
服か…ジーンズにTシャツで行ける店にしてくれたら、楽なのに
と毎年思う。                       
今年も無事、それなりに楽しく終了したのだろう。
夏祭り準備の中休みのようなこの日が終われば、後は全力投球
日頃とは違う賑やかな日々がやって来る。


ベッドに横たわりちょっと瞳(め)を閉じた。

街角の騒がしさを感じ瞳を開けた

眩しい陽射しに顔を背けた視線の先に、ゆっくり近づく白いサンダルの女性。
何故、ここに居るのか不思議に思っている俺が薄らいでいった。

『また会えたね』
心地良い声に視線を合わせると
『楓香(ふうか)…』
とっさに出た言葉に焦った。
そんな俺を優しく穏やかに笑い
『じゃー私も…裕紀(ひろき)、でいいよね』

何処へ行く訳でも無く、二人で歩き出した。
気になる店に入っては、いつもならばしない試着をしてみたり。細身で肌の白いの彼女は、軟らかい色の優しいデザインの服が良く似合った。お互い服を選び合って、自分に合う意外な服を見つけて楽しんだ。
気がつくと自然に手を繋いでいた。
二人それに気がつくと妙に照れくさくて
『嫌じゃない?』
たどたどしい言い方の彼女
『そんな事無いよ…ただ…かなり恥ずかしい、かな』
『私も…』
お互い手を握り直していた。

いつの間にか俺の話しになっていた。子供の頃からのたわいもない話しに笑顔で聞いていた。
何で知ってるのだろうと、思う事がたびたびあった。
でも、当たり前だろ子供の頃からの知り合いなんだから…

そう言い聞かせる俺がいた。

『そろそろ時間か…
楽しい時ってなぜ直ぐに過ぎてしまうのかな?』
気になる言葉だったけど、俺と居て楽しいと思ってくれた事のほうが気になり嬉しかった。

繋いでいた左手がスーッと軽くなった。
身体までが、浮いているような軽さを感じ瞳(め)を閉じた。

また同じだ。
今度は…お囃子?祭りの人混み?ゆっくり瞳を開けた。


浴衣姿の俺は、約束の歩道橋の上で彼女を待っていた。    何故か今年は人が少ないような…

慣れない浴衣で急ぎ足の楓香が、可愛いかった。
『急がなくて良いから、ゆっくり歩いて来いよ』
それでも俺の所に辿り着くと、息を切らし少し辛そうだった。
心配させまいと笑う彼女に、何も言わずに笑顔で返した。

お互い初めての浴衣姿。
照れながら誉めあい、そしてまた照れた。

落ち着くと約束した伝説を教えて欲しいと言った。

夏祭り最終日にこの歩道橋の上で出会った男女は、また出会うことが出来る。
付き合っているなら、結ばれる。そんな伝説があり、とてつもなく混むのだ。
俺の両親も伝説を作った一組

『もしかしてさ…知ってたろ?』
『何で?』
『待ち合わせに選んだ時の楓香の態度と、今の顔。
俺に、教えてくれたのカナ姉だし…その人、母さんの担当看護師。好きそうだろ?仕事に追われる看護師さん達って』
『…』
『…だよな…まあ良いけど、会えたし。
でも、俺で良かったのかよ』
『もちろん!
伝説はまた一つ実証されたの。
信じていて良かった…』

実証されたって…俺達ここで会った事無いよな…?
これから?…
               どうでも良くなった。
彼女の嬉しそうな横顔に光る雫を見た時。
長い間信じて待って居た想い。
その想いが伝わって来るようで、せつなく愛おしく感じ右腕で抱き寄せていた。

『逢えて良かった…』
『俺も…』


お囃子が賑やかになってきた。
人も増えてきた。
何年かぶりの祭りの雰囲気や、屋台に少し、かなり興奮気味の彼女を止めながら歩き出した。

定番だけど、金魚すくい。
お互い初めてで、なかなか難しく失敗。
寂しそうな彼女を見て、スイッチが入った。
そして何度かチャレンジ。
逃げられ、穴が開き、まただめ?
『きっと出来るから。諦めないで』
『たかが金魚すくい、そんなに真剣にならなくても』
『一番真剣になっているくせに。負けず嫌いの裕紀君としては…だから頑張れ』

見抜かれていた。
残った部分で…
赤い小さな金魚がポロッと、器に入った。
『やったー!』
思わずガッツポーズ。
クスッと笑ったのをごまかし
『やったね!』

『一匹じゃ淋しいだろうから。
お兄ちゃんの頑張りと、お姉ちゃんの笑顔に。
おまけだ』
少し大きい一匹の黒い金魚を入れ彼女に渡した。
『ありがとう!』
小さなビニールの袋に入った屋台の金魚。
高級品を手にしたかのような笑顔で俺に見せる楓香。幼い子供のようなあどけなさに自然に笑顔になった。
『良かったじゃん』
『ありがとう。裕紀と私…かな』

その後も、ヨーヨー釣り、射的、俺の隣で楽しそうに笑っていた
型抜き?四角い小さな…板ガムを半分にした位で固くした物に溝があり、釘のような先端の尖った物で溝の通りに抜く物だ。
何度かチャレンジするが、半分迄が限界。
『そろそろ次に行こう…』
『お兄ちゃん、待ってやりなよ。もう少しだからよ…良い顔してるじゃねぇか』
確かに。
今までと違う真剣な顔。
でもやっぱり、子供が夢中になっているようで…可愛いかった。
まずい。俺、顔ニヤケてた…

『出来た~。ほら、見て裕紀』
『本当だ。人が変わるくらいの
スゲー集中力。俺なんか』
自分の事を隠すように話しを続けようとすると        『私…そんなに変な顔してたの』
落ち込む楓香。
周りのおやじ達までが味方するような目で、俺を見る。
妙に焦る俺。
どうすんだ…視線が焦らせる。

『…真剣な顔が……いかった』
『顔が?…』
『かわ…可愛かった』
『お姉ちゃん、あんまりイジメんなよ。お兄ちゃん紅くなってんぞ』

隠そうとする俺の顔を覗き込むと
『許してあげよう。
裕紀の意外な可愛さに免じて…

『可愛いってなん…だ…ょ…』
言い返す俺の10㎝位まで顔を近づけ
『言葉にしないと伝わらないんだよ。話すのが苦手でも、特に女の子にはきちんと言葉をあげなくちゃダメだからね』
『はッ…は、はい…』、
満足そうな顔が、店のおやじから貰ったぬいぐるみで一段と笑顔が輝いた。

綿菓子、タコ焼き、かき氷…
お互い気になる屋台に立ち寄って楽しんだ。
いつの間にか左手はぬいぐるみを抱え、右手は彼女の左手をとり人の波を避けながら歩いていた。
不思議だった。
ちょっとは想像した事はあるけど考えるとかなり照れ臭い状況