きよのの母の口癖は
「3人はわたしの天使、誰よりも可愛い、本当に可愛い」だった。
母が満面の笑顔を向け誇らしげな目で3人の我が子を見つめそう言うときよのはとても幸せな気分になった。
実際、母の贔屓目ではなく三人ともに周りから容姿を褒められる事が多かった。
きよのが最後に可愛いと言われたのは小3の終わり。
小4に上がると母はなぜかきよのに冷たい目を向ける様になったが双子には変わらず、可愛い、と言い続けていた。
おかあさんはなんできよのにだけ、かわいい、て言ってくれなくなったんだろう?
なんできよのにはこわいかおして笑ってくれないんだろう?
考えると悲しい。
弟たちが変わらずなついてくるのがせめてもの救いだった。
近くのショッピングモールに買い物に出掛けると少しでも母に褒められたいと願いどんなに荷物が重くなってもすべてきよのが持った。
荷物の重みで早く歩けないきよのを背に母は双子の手を引きスタスタ歩いた。
食品の買い出しが終わると双子が何か飲みたいと暴れだしたのでフードコートに入った。
少し混んでいたが双子は空いてるテーブルを見つけると母の手を引っ張り走って席を取った。
その座を狙っていた年配のマダムがチッと舌打ちし双子を睨んででっぷりとした体をもてあまし立ち尽くしている。
おねえちゃんも、早く早く、と急かされ
きよのも慌てて3人の前に座った。きよのは舌打ちしたマダムに、ここ空いてるよ、どうぞとすすめた。
マダムはにっこり笑ってきよのの隣に腰かけた。
「あんたはべっぴんさんやな」
マダムがそう言うと、母が小さな声でどこがよ、と言った。
その声はたぶんきよのの耳にしか届いていない。
四人が座った真横のテーブル席に暗い瞳の男が一人座っている。
その男は目深に被ったフードの奥からじっと双子を見つめていた。それに気づかず、双子はドーナツ、ドーナツと母にねだり騒いでいた。
わかったわかったと母は笑った。
きよのは荷物の重みに疲れ少し剥れて言った。母に褒めてほしい。
「おかあさん、重かったよ。きよのがんばったよ」
母は冷たい目で答えた
「勝手に自分で持ったんでしょ。恩着せがましい子ね。」
きよの=ふたごのおねえちゃん
みつき=ふたごのあにのほう
そうた=ふたごのおとうとのほう
きよののおかあさん=べっぴんさん
マダム=舌打ち上手
フードコートのフードの男=フードに被せてみた
