Vol.16 「虎の穴とクリームソーダ」 | ノムラ證券残酷物語

Vol.16 「虎の穴とクリームソーダ」

当時、虎ノ門支店はほとんど恐怖政治統治下にあったと思います。漫画のタイガーマスクが育てられたという「虎の穴」をもじって、虎ノ門支店は虎の穴支店と影で呼ばれていました。


顧客の意思など全て無視し、コントロールすることを強制され、まして自分達で銘柄を研究し、顧客に勧めるなどと言うことは当時の支店では一切ありませんでした。他の銘柄も全て支店長、次長、課長等が決めた銘柄をひたすら推奨する(そんな生易しいものではなく、ハメ込むことでした)こと以外我々若手には一切の権限など無い、まさに「虎の穴」支店でした。そんな我々でも、入社半年後の秋、先輩の若手社員が言い出し、そして若手全員で話し合って、自分達が決めた銘柄を顧客に推奨したいと上司に申し出たことがありました。


「こんな状況(日本曹達(4041)ばっかりはめ込まされて、そして一切勝手に売れない、そして最終的には行き詰まり、株価は値上がりしない状況に追い込まれつつありました)では、全ての顧客が死んで(ノムラでは顧客が損をして文句を言って一切の取引資産を引上げることを「死ぬ」と表現していました)仕舞う状況を何とか打破したい!と切実な思いでの上申でした。その結末は、また別の機会に…


つまり自分の顧客の全ての資産が、日本曹達だらけ…でした。この日本曹達がこのまま値上がりせず顧客が儲かってくれないと、初めての顧客全ての信頼を無くすことになることは明白でした。顧客の買った値段の平均単価を100円も下回った時期が数ヶ月続き、新規で顧客を作ってくるとまた日本曹達を売り込まなければなりませんでした。とても憂鬱な日々の連続でした。同期のT中もN野も皆同じで、支店の営業マンの顧客の全ての預かりも、全て日本曹達になっていました。


ある土曜日(当時は第2土曜以外は半ドンで営業でした)の食事の後、後場が無いので土曜日は比較的ゆったりした日もありました。先輩と同期で、喫茶店に行って飲み物を注文しようとしたところ、先輩のT岡店内主任が「クリームソーダ」を注文しました。同期のT中が、T岡さんに向かって「T岡さん、おもろいもん頼むんですなぁ~」と言うと「これだけお客全部の株が日本曹達だぜぇ~~もうソーダ水しか飲めへんだろう~」って…全員唖然で…普段何も考えてないと思われるT岡さんですら、そんな気の重い、そして縁起担ぎでもしたくなる日々の連続でした。(続く)