完全ネタバレです。

まだごらんになっていらっしゃらない方には、全然面白くないネタなので、ご注意ください。


珍しく二度も同じ映画を見ようと言った夫は、二度みたこの作品について、ふと、こう言った。


「この映画って、歌ってないキャラクターは、いらないね」


ポン!

思わず膝を叩いた。


そうなんだ。いらないキャラが多いのだ。

いや、いらないというよりも、存在の薄いというか、キャラのたたない役柄が多いのだ。


冒頭とラストに口上を述べる百姓夫妻とこれにからむ駝鳥道士(いずれもいい役者がそろってる……だって、篠井英介、市川実和子、山本太郎だよん)が、結局、「なんのためにいるのか分からなかった」とまで言われてしまったのも、歌っていないというのがでかい。

彼らが、口上にしろ、「俺は狸じゃない」にしろ、歌っていたらどうだったろう。

もう、全然印象がちがっていたんじゃないかな。


もう一人、お萩の局の分身のうち、若侍の団三郎狸というのが、印象が薄い。

美麗な若侍造りなので、オダジョーと役柄がかぶって、どっちがどっちってのもあるけど、なんのためにいたのか、てんで分からない。

あとで考えたらやっぱり、こいつは歌っていなかった。


お萩の局にはもう一人分身がいて、こいつは牢番の次郎狸というのだけれど、現在、都議選のイメージキャラクターになっている(そのせいで、どうも都議選が狸に化かされてるような気がするのは、わたしだけ?)パパイヤ鈴木が扮している。こいつはちゃんと自分一人の曲を与えられているから、とても印象が強いし、ちゃんとキャラもたっている。


腰元四人衆なんかは、大変に印象が薄くなりがちなキャラなのだが、お姫とからむ歌があるせいで、ちゃんと存在感があるのだ。(まぁ、四人目のりんこさんは、極楽蛙の歌もあって印象強いのは当然だけど、それはさておいても)


家老狸の高橋元太郎だって、ただのおとぼけギャグ・キャラかと思いきや、堂々と歌ってくれたもんね。


オペレッタなんだからあたりまえだけど。

歌わないキャラは、立たない。

そういうことなんだな、この映画においては。


そうしてみると、この歌わないがために、無駄になってしまったキャラたちは、ちょっとかわいそうだったりする。

割り当てられたキャラのせいであって、俳優たちのせいではなさそうだもんね。


まぁ、わたしは音楽にも声にもうるさいタイプなんで、余計にそう感じるのかもしれないけれど、本来そっち方面にあまりうるさくない夫がそんなふうに考えるってことは、これは劇構成上の問題なのかもしれない。



次に。

こんどはオペレッタとして考えたときに、及ばないと思われる踊りの部分について、考えてみる。

というか、ほんっとーに、及んでないよ。

振り付けはどうした、振り付けはー、という感じだよ。

踊らせてないとも言うけれど。


何も『シカゴ』のように踊れと言ってるわけではないのです。

でも振り付けについては、かなりよさげな人脈もそろっているのに、なんできちんと振り付けしなかったんだろう。

そして、なんでちゃんと踊らせなかったんだろう。


一番気になるのが、狸城でのどんちゃん騒ぎのシーン。

東京スカパラダイス・オーケストラの売りのシーンだ。カリプソなのだ。

陽気な音楽にあわせて、楽しそうな狸たちがいろいろ遊んでいる。

大道芸人のような連中がわいわいやっていて、それを「毎日」続けているという話なのだ。

牢番狸言うところの「狸姫さまのお誕生日ではない日をお祝いする日」ってやつね。

大道芸やってるところはいいんだ。

ところが群集が踊ってるシーンが、それはそれはなさけない。

男と女が組になって、ワルツを踊っている。

上半身はなんとなく組んでるんだけど、下半身がお互い退けてるから、まるで「人」の字みたいな格好で、だらだらと踊っている。

ものすごーく、だらしがない。


どうせ下品にするならってんで、女たちが蹴出しからげて男たちがそのあいだをすり抜けるシーンなんかは、それなりに振り付けもはいって、下品は下品なりにちゃんと踊りになってるから、それはまぁいいとしよう。

でも、下品だけどな。

なぜあそこで、ことさらに下品さを強調する踊りを展開しなければならないのか、ちょっと疑問。いや、だいぶん疑問。

別に下品にやっちゃいかん、というわけではない。

極楽蛙を取りにいくやつはいないか~、と家老狸が歌うときに、だれも言い出せずに右往左往するシーンなんかはきちんとストーリーに沿ってできあがっているだけに、意味もなく下品なのが解せないのだ。


せっかく、チャン・ツィイーに歌舞伎の所作までやらせたんだから、要所要所に日本舞踊の一シーンなりと取り入れて、「見立て」で見せてくれたら、と思うのよね。

せっかく、篠井英介なんていう舞踊家もいるわけだしさ。

まるごときっちり踊れというのではなく、そういう日本らしい舞踊の所作を見せることは、別に画面を損なわないと思うわけだ。

下手なワルツで画面を猥雑にすることの意味のほうが、わからんちゅーだけです。


そういうわけで、歌と踊り、勿体ないなぁってところが多々ありますな。

ストーリーに関しては、また別だてでいってみよー(まだいくのか?(爆))