先日、50th AnniversaryのSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandが発売されて、公式で聴けるアウトテイクが一気に増えた。

 

 この公式のアウトテイクの歴史を振り返る上で、

起点となる重要なアルバムとして、GET BACK と SESSIONS がある。

 

 これ、どっちも未発表アルバムとなった。

この2つのプロジェクトを起点とするアウトテイクの一部は、1995、1996年のTHE BEATLES ANTHOLOGYとして日の目をみるんですけど、もしSESSIONSのプロジェクトがなかったら、THE BEATLES ANTHOLOGYはなかったかもしれない。

 

 ということで、SESSIONSについて、まとめてみたい。

 

 1980年。EMIにJohn Barrettって人がいた。この人は、1960年代後半にEMIに入社して、1981年のThe Beatles E.P.s collectionのボーナスEP収録のThe Inner Lightのステレオミキシング・セッションにも参加したした人です。

 

 彼が、癌に罹患しちゃって、エンジニア職を離れなきゃいけないって時に、当時、Abbey Road Studiosゼネラル・マネージャーだったKen Townsendが、Barrettでもできる仕事として、ビートルズのマスターテープの整理を命じたんです。

 いい話だね。

 ちなみにKen Townsendは、Rubber SoulからSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandの時期にビートルズのバランスエンジニア、テープオペレータ、また技術的な問題の解決なんかをやっていた。

 有名なADT(人工ダブルトラッキング)を開発したのも彼。

これは、WavesのReel ADTというプラグイン。Ken TownsendのADTをモデリングしたもの。

 

 John Barrettの仕事は、膨大なビートルズのマスターテープを聴いて、その内容を記録することだったんだけど、彼は、発表できそうな音源集を独自に編集して、カセットテープに記録していったわけ。

 

 しかし、このテープは日の目を見ない。

 その頃のアップル・コア(ビートルズ)とEMIの関係は冷え切っていて、John Barrettがまとめたデータを元に未発表曲集なんて発売できる状態でなかった。

 アップル・コアとEMIが揉めてたのは印税の支払いに関することだったので。

 

 同じ頃、Abbey Road Studiosでは、改装をやっていて、その完成披露として、一般公開するって企画が持ち上がっており、その目玉として、John Barrettがまとめたテープを元にしたThe Beatles Live At Abbey Roadというフィルムを制作して、公開しようってことになった。

 

 これは実現して、1983年7月から9月の間、フィルムが公開されて、そのサウンドトラックがまとめられたわけです。

 

内容は、

 

  1. Love Me Do (Take 18)
  2. How Do You Do It? (Take 2)
  3. I Saw Her Standing There (Takes 2, 11 & 12)
  4. Twist And Shout (Take 1 RS1)
  5. One After 909 (Take 4)
  6. Don't Bother Me (Takes 11 & 12)
  7. A Hard Day's Night (Takes 2, 3 & Take 9 RS2)
  8. Leave My Kitten Alone (Take 5)
  9. I'm A Loser (Take 8)
  10. She's A Woman (Take 1)
  11. Ticket To Ride (Take 2)
  12. Help! (Take 5)
  13. Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (Take 1)
  14. I'm Looking Through You (Take 1)
  15. Paperback Writer (Take 2 RS3)
  16. Rain (Take 7 RS1)
  17. Penny Lane (Take 9 RS1)
  18. Strawberry Fields Forever (Take 1, Takes 7 & 26, Take 26)
  19. A Day In The Life (with count-in)
  20. Hello, Goodbye (Take 22 RS2)
  21. Lady Madonna (Take 4)
  22. Hey Jude (Take 9)
  23. While My Gutar Gently Weeps (Take 1)
  24. Because (Take 7)
  25. #9 Dream - John Lennon (with spoken intro by Ringo Starr)

この時に、曲間にナレーションが入っているのだが、それを担当したのが、Roger Scottって人で、この時にも流出した音源があるってことになってるけど、その話は、今回は割愛。

 

 このThe Beatles At Abbey Roadは非常に話題になって、Paul、George & Ringoも驚いたよう。

 これで、EMI側が気をよくして、先走って、後にSESSIONSになるプロジェクトが立ち上がる。

 

 EMIは、John Barrettのテープを元にして、アルバム制作をしようとするわけだけど、癌を患っていたJohn Barrett自身は1984年に他界。

 そして、このリミックス作業をGeoff Emerickに依頼する。

 Geoff EmerickはRevolver以降のビートルズのメインのバランスエンジニアです。

 

 EmerickはBarrettが残したレコーディング記録を元にしてリミックス作業をして、アルバム SESSIONSを完成させる。

 

内容は、

 

Side A

Come And Get It

Leave My Kitten Alone

Not Guilty

I'm Looking Through You

What's The New Mary Jane?

 

Side B

How Do You Do IT?

Besame Mucho

One After 909

If You've Got Trouble

That Means A Lot

While My Guitar Gently Weeps

Mailman, Bring Me No More Blues

Christmas Time (Is Here Again)

 

完成したマスターテープは、発売するために世界中にコピーが送付された。

もちろん、東芝EMIにも。

 

この時期は、ちょうど20th Annversaryの企画が盛んな時期で、

 

  • 日本で初めてのオリジナルアルバムのMono盤(この頃、MAGICAL MYSTERY TOURはオリジナル扱いじゃないので、発売されていない)
  • 映画使用曲のコンピレーションアルバム Reel Music
  • Stars On 45に触発されたマッシュアップシングル The Beatles' Movie Medley
  • The Beatles E.P.s collection
  • 原則20年前と同じ日付で発売する新しいカラースリーブのオリジナルシングル
  • それのピクチャー盤
  • 英米のヒット曲集、THE BEATLES • 20 GREATEST HITS(英米で収録曲は違う)
  • 12"シングル Love Me Do / P.S. I Love You c/w Love Me Do (original single version)
  • Mobile Fidelity Sound LabのOriginal Master Recordingシリーズのボックスセット

 

さらに日本では、青盤赤盤のカラーVinylや、血迷ったか単なるベスト盤Beatle In Italyなんてのも発売された。

 

 そして、SESSIONSに関しても、発売予告が東芝EMIからあった。

当時の販促資料を見ると、

 

「12月1日にはいよいよザ・ビートルズの未発表ナンバーを発売することになるかもしれない。100曲以上残されているという噂のあるビートルズの未発表作(レコーディングを完了しながら、結局アルバム等に収録しなかった作品)の中でイギリスEMIは次の3曲を年末ごろには発売できるであろうと発表している。1曲は「If You Get Trouble」この曲はアルバム『ラバー・ソウル』に収録される予定だったナンバー。もう1曲はジョージ・ハリスンの作品「Leave My Kid Alone」この曲は1963〜4年頃のレコーディング・ナンバー。そしてもう1曲は「ワン・アフター909」のスロー・ヴァージョン。この曲はジョン・レノンが青年時代、初めて作曲したナンバーで、ビートルズの最も古いオリジナル作品。ロックン・ロール・スタイルのものはアルバム『レット・イット・ビー』に収録されている。」(原文ママ)

 

 とんでもない説明。曲名含めて、すべての曲で間違いがあるね。笑。

 

 こんな感じで、盛り上がりを見せていたんだけど、元々、このSESSIONSの企画はEMIの先走り。アップル・コア側は発売差し止めをEMIに要求して、発売中止となった。

 

 中止になったとはいえ、マスターのコピーを全世界に送付してしまっているので、それを元にしたBootlegが流通するということになった。

 

 

一方で、アップル・コア側では、1969年頃から、Neil Aspinallを中心にしてビートルズの映像をまとめて「The Long And Winding Road」という映像作品を完成させるというプロジェクトが始まっていた。

90年代に入って、このプロジェクトが、ANTHOLOGYプロジェクトに変わっていく。

 少なくとも、1992、3年頃には「The Long And Winding Road」は完成間近というような情報が度々、The Beatles Cine ClubのInternational Clubの会報なんかに登場していましたね。

 

  • EMI側のJohn Barrettの記録及びテープ、SESSIONS
  • アップル・コア側の「The Long And Winding Road」

これが、時を経て和解して、ANTHOLOGYプロジェクトになったということです。

 

ANTHOLOGYプロジェクトは、

  • TVドキュメンタリー
  • 大型本の発言集
  • CD/LPと付帯するシングル盤及びEP。
  • のちに発売されるVHS/DVD
こういう資産になったということです。
 
さらに、John Barrettの記録は、Mark Lewisohnのthe complete BEATLES Recording Sessionsの重要な資料になりました。