昨今、新聞紙上等で香港から日本への金の密輸団の摘発が大きく取り上げられております。香港で金を売買する私達にとっては耳の痛い話ではあります。

 勿論、私は密輸はやっておりませんので悪しからず(笑)。私達は主に香港では中国向けに金を販売しております。中には日本人のお客様がいらっしゃったりする事もありますが。

 そこで折角話題になっているので、今回は金の販売の話ではなく、金密輸の経済学と言う事で密輸の収支計算をして何でそんなに密輸が流行っているのか?という話をしたいと思います。

そもそもこの内容を読まれる方は消費税がポイントになっている事は良く知っていると思いますが、私が言いたいのは正直な所、金密輸目的での金の購入はリスクの割にはあまり実入りは良くないですよと言う話です。だから密輸目的の金の買い付けは止めておいた方が賢明だと思います。

 これを実例に則って説明しますね。

 

 金の売買にかかわる価格は何種類かあります。まずは売値と買値になりますがこれらには当然ながら価格差があります。これは為替と同じようで少し意味合いが違います。為替の場合は単純な手数料なのでしょうが、金の場合は(消費者から見て)買う時は商品価格となり、売る時はマテリアル価格(原材料価格)となります。これは一般的には売る時は金の延べ棒等に製錬して売ります。その時にメーカーがマテリアルを再溶解して再製錬した後、品質検査してその品質を保証するために刻印を押します。これをホールマークと言います。

これですね。これにはブランド名、品質(999.9は99.9%を意味します)、重量、シリアルナンバーが振られています。この場合、ブランドはヘリオスの純度99.99%、1000gでシリアルナンバーはHH01764となっています。その為、購入価格にはこの精錬費等の手間賃が含まれており高くなっています。特に重量が小さいほど、そのコストの割合は一般的に高くなり、結果的に1グラム当たりの単価は非常に割高となります。例えば香港での売買価格で言えば、香港のHSBCレート(1JPY=0.07041HKD 電信扱い)を用いて、

2018年1月24日の価格では

   バータイプ

   価格(HKD , 1g当たり)

 日本円換算

1kg

             341.79

     4,854

500g

             343.73

     4,882

100g

             347.47

     4,935

50g

             360.04

     5,113

10g

             404.25

     5,741

1g

             509.57

     7,237

となります。大きく価格差がありますね。故に実際に私達が取り扱うのは一番大きな1kgバーのみとなります。それ以下の特に100g以下の小さなバー(というかプレートですね)はスーベニアパックと言われていて要は記念品扱いなんです。その為パッケージもそんな感じでしっかりと包まれております。こんな感じです。

 一方、買取の時は一般的にはどんな商品の状態で持って行ってもマテリアル価格となります。マテリアル価格とは要は純粋の金の材質としての価格となります。但し、これも注意点があります。日本においてはK24,K22等によって買取価格は異なります。K24やK22は金の含有率になりまして、24分の数字分の含有率になります。即ち、K24(24金)は即ち24/24なので100%の純金です。実際には99.99%以上の物を純金と呼びます。よく聞きなれた18Kは18/24なので含有率を75%にしたものです。これは純金だと強度が弱いため、他の金属を添加する事により、強度を増すと共に入れ込む金属によって色を変える事が出来ます。入れ込む金属によって呼ばれる金が所謂、ピンクゴールドであったり、ホワイトゴールドであったりイエローゴールドであったりします。入れる金属と比率によってはグリーンゴールドとかレッドゴールドなんて言うのも作る事が出来るのです。なので、ピンクゴールドとかいう特別な金の種類がある訳ではありません。金はあくまで金色した金だけです。

 但し、日本における買取価格はこれに「インゴッド」と言う不思議な区分があります。これって24Kと何が違うの?と思われると思います。要は、インゴッドとはホールマークの付いた製錬された金です。これは少し買取価格が高くなります。具体的に言えば2018年1月24日の値では

インゴッド

5,093円

24K

4,941円

となります。1gあたり152円も違いますから相当違いますね。即ち、製錬された金なら再製錬が必要ありません(但し、品質の保証が難しいのでそれに関してはまた後日ご説明します)。従ってこれだけ高く買い取りしてもらえるのです。要はこの152円が精錬費と言うイメージですかね。あくまでイメージですけど。。。これ結構大きいです。1kg当たりで買取価格が15万2千円も違うんです!!!

 ここで注意しないといけないのはホールマーク付いた全てがインゴッドとして日本では買取はしてくれません。いわゆる公式国際ブランドの物だけです。これ重要です。インゴッドを独自に打つにはそれなりに大変な資格でして取得するためには莫大な費用がかかるのですが、公式国際ブランドとなるとまた格が1つ違います。私が普段取り扱いしているのは主にヘリオスのインゴッドなのですが、これは公式国際ブランドではありません。不思議な事にヘリオスは公式国際ブランドの「アルゴー」と「アルゴーヘリオス」と言う公式国際ブランドを合弁で持っています。なので、私達も公式国際ブランドを指定された時はアルゴーヘリオスを用意する事が多いですね。とは言っても、中国ではどうせ溶かして加工用に使うのでこのホールマークの違いによって私の所では価格差はありません。同じ売値で売っています。ただ、公式国際ブランドを指定されると在庫の中から探してくるので面倒なんですけどね。価格は一緒です。

 

 因みにこの日のマテリアル価格は香港価格では概ね337.74HKD。日本円換算すると4,797円となります。一応、条件はありますが、私の所ではこの価格に近い値で売っています。これは企業秘密になるので言えないのですがこれでも儲けの秘密はあるのです。但し、金は正直薄利多売ですけどね。。。

あれ?何かおかしいですね?確か、この密輸って消費税分儲かるって聞いてましたよね?皆さん。ここからが本題です。

 仮に私達の所から金をお買い上げ頂いて日本で売るとなると8%儲かるはずなので5,180円で買い取って貰わないと困るんだけど。。。そうです。そこまで甘くはないです。まずは為替手数料がかかりますから。それと、そもそもこの価格で香港で金を買う事が出来る所はほぼありません。だってマテリアル価格ですから。。。

じゃ、どれ位儲かるのか?実際にこの日のケースで計算してみましょう!

但し、条件として一般的な香港での金銀業貿易場の資格を持ったお店で予約して購入し(ハンセン銀行とかで買うより安いですよ)、為替レートもHSBCの電信扱いでの価格で購入(これはかなり理想的な価格で実際にはなかなかこのレートでやるのは難しいです)、日本のマテリアル価格で売却。当然、密輸なので消費税は払わないと言う前提で計算してみますね。

 

購入金額 4,854円

売却金額 5,093円

差益    239円

 

となります。当然1g当たりです。これに対して旅費がかかります。仮にツアーとかで頼んだとして旅費に10万円かかったとしましょう。するとどうでしょう?

 

 元手が1億円とかあって1度に20kgとか密輸するならまだ話は分からないでもないですが、現実問題、20kgの密輸は難しいでしょうね。重すぎて。まぁ、せいぜい5kgとしてそれでも元手は約2,500万円必要になります。それで1kgあたり239,000円の利益となります。5kgで経費除いて概ね110万円。消費税分の8%には遠く及びません。4.9%ってところですね。これをどう考えるかですね。

 しかもこれは理想的に購入・売却出来た場合です。どうもそう簡単にはいかないらしいのですよね。。。日本での買取は金塊に傷があるとかで24K扱いにされたり、購入価格を値切られたりするらしいのです。万一24K扱いにされてしまったらkg当たり87,000円の利益ですからね。それに為替だってそう簡単にこの計算通りのレートで交換できる所を知っている人も少ないと思います。割に合わないですね。

 

 確かに2泊3日で旅行して来るだけで110万円ってのは凄いですけど、見つかった時のリスクとか、インゴッドで買取してもらえなかった時のリスクや為替のリスクを考えるとちょっと出来ないですよね。。。

 まぁ、よくやりますわと思う毎日です。

 

 因みに何故か私は年に数十回日本の通関を通りますが、過去10数年、1度も止められた事ありません。何ででしょうね???