ブログを始めようと思った理由。

それは、私が香港に住んでいることを知る家族や友人がまず「大丈夫?」と心配してくれることからはじまる。

実は、その問いに対しての返答は、なかなか難しいと感じている。

 

6月9日に始まった「逃亡犯条例改正案」への反対に端を発する一連のデモ。特に8月に入ってから、メディアを中心に過激な暴動や、それを封じ込める警察との軋轢が連日報道され、今にも中国から軍が越境し戒厳令が敷かれるかなどの情報も飛び交っている。

ネットやYOU TUBEなどを見ていると、それは今にも何か差し迫った危機がこの香港全体を覆っているような気持ちにさせられる。

でも、実際香港に住んでいる私には、ものすごい違和感なのだ。

「大丈夫」なのは全く「大丈夫」なのだ。

 

まあ「今のところ」というべきかも知れない。なぜならあの日、6月9日から突然それまでの香港の空気が一変したように、この先も突如として情勢が変わることもあるかもしれないからだ。

 

今ここでは、デモがなぜ起こったのか、とか政治的にどっちが正しいか、ということはあえて言及しない。

それは、表も裏も、ネットを見ていればその解説や分析がゴマンとあるので、そっちを見ればより高度な情報が得られると思う。

ただ、この「違和感」は、本当に、ここに住んでみないと感じられないと思うので、それを少しでも共有できればという意図で、このブログを発信しようと思った。

 

私は香港でも、中心部から少し離れた「葵青地区」というところに住んでいる。

郊外とはいっても、20平方キロ程度の小さなエリアに52万人が暮らす住宅密集エリアでもある。

Kwai Tsing District

この週末も、各地でデモが計画されていたが、近くのショッピングセンターに子連れで行くと、そこはいつもと変わらぬ、ショッピングを楽しみ、スタバでコーヒーを家族やカップルで楽しむお休みの光景があった。

 

もちろん、この人たちはみな、心の中にはモヤモヤとしたデモのことをひそかに持ちながら過ごしているのだろう。

それは私たちも同じだから。

 

そんなショッピングセンターを一歩外に出ると、入り口近くには、おびただしいメッセージゾーンが設置されている。

これをレノンウォールと言うそうだ。

 

ここに人々が訪れ、胸の内を文字にし、そして「声」として、貼り付ける。いわば無声の叫びを文字に託して共有しているのだ。

こららを目の当たりにすると、先ほどのスタバやショッピングシーンとは別の一面が浮き出てくる。

 

  

一つ一つのメッセージは手書きや、プリント、写真つきのものがあり、その形は様々だ。

しかしこのメッセージを誰が見てくれるのだろうか、いったいこれで何を変えられるのか、思いはどこに伝わるのか。

このレノンウォールにメッセージに思いを綴る人はそんな気持ちを抱いているのが大半だろう。

大雨が降れば雨とともに、汚れ、剥がれ落ち、風に飛ばされ、やがて紙屑となり消えていくものもある。

でも、このレノンウォールというメッセージゾーンは、日に日に拡大している。汚れて消えればまた新しいメッセージが上から上から貼りか重ねられていくのだ。

 

こういったメッセージゾーンは香港各地で自然発生的に増え続けている。こういう形の「レジスタンス」もあるんだと、私は驚いた。

しかし、このレノンウォールは同時に香港にいる人のジレンマの塊でもある、やるせない政治と歴史に翻弄されてきたこの地の人々の複雑な心境をそのまま映し出した現実を見せつけている。

 

かつての香港は心地よい都会で、ビジネスチャンスに溢れ、東洋でありながら随所に西洋が色濃く感じられ、街中がキラキラ輝いていた。

私はそれに憧れ、この地で生きる道を選んだ。

それが、今、6月9日を皮切りに大きなうねりとともに変化を感じる。その意味で、冒頭の「大丈夫?」という問いに対して、即答できない自分がいる。

私の知る香港人の友人は、皆明るく、インテリジェンスで、思慮深く、ちょっとお節介で、話し好きだ。日本(人)に対するリスペクトを持って接してくれる人ばかりだ。

そんな陽気で楽観的な香港人の表情の片隅にふと感じる影を、私はこの数ヶ月目の当たりにしてきた。

それはおそらく、今も街の中心や空港で、起きているかも知れないデモで、叩くのも叩かれるのも同じ「香港人」という現実が、癒えるどころか、まずます深化していくことに対する深い苦しみから来ているのだろう。

 

この奥深い問題がどのような着地点を得て、どのような方向性に向かうか。

ひいてはそれが、我が日本、アジアそして世界にどう影響を及ぼしていくのか。

長くこの地に身を置いてきたものとして、その動向をしっかり見続けて行きたいと思う。

 

最初はなんだかシリアスな話題でしたが、それもオープン記念ということで、興味を持ってもらえる人に伝われば嬉しい。

これから色んなジャンルを独自の視点や表現で発信できればと思う。