乳癌学会も近づいていてなかなか更新できない日々…
Dose/Exposure Relationship of Exercise and Distant Recurrence in Primary Breast Cancer
J Clin Oncol. 2024 Jun 5:JCO2301959. doi: 10.1200/JCO.23.01959. Online ahead of print.
ショートサマリー
診断後の運動は乳癌の死亡リスクを下げることが分かっていますが、
遠隔転移のリスクを下げるかはまだわかっていません。
多施設共同の前向きコホート研究で10,359人の乳癌患者さんが登録されています。
フランスで2012年~2018年の間に26施設で集められ、
CANcer TOxicities studyという名前がついているようです。
フォローアップは2021年10月までフォローアップがされています。
運動はGlobal Physical Activity Questionnaire-16という評価ツールを使っています。
運動量はMET-時間/週(MET-h/wk)で定量化しています。
全患者とサブタイプ、閉経状況を層別因子として、運動が遠隔再発に対してどのように関連するか、
最近リアルワールド研究でよく用いられるIPTW法で症例のバランスをとったうえで、
多変量Coxモデルを使用してハザード比を推定しています。
全症例では、運動により遠隔転移再発は減少し、運動量が5MET-h/wk以上になると25MET-h/wkくらいまでは、
遠隔転移再発がぐぐっと減っていましたが、ここを超えた場合のリスク低下はありませんでした。
(5MET-h/wkは1週間に1時間のジョギングを続けることで達成)
5MET-h/wk未満と比較して、調整後の遠隔再発のHRは5MET-h/wk以上で0.82(95% CI, 0.61 to 1.00)でした。
サブタイプ別では、トリプルネガティブでHR 0.59 [95% CI, 0.38 to 0.92]、
HER2陽性でHR 0.37 [95% CI, 0.14 to 0.96])で特に運動が有効という結果でした。
閉経前だとよりそのベネフィットは大きくなります。
結果として運動は遠隔転移のリスクを下げていました。特にサブタイプや閉経状況によって結果は異なっていました。
イントロダクションです。
今まで運動が癌の予後と関連するという検討はたくさんされていますが、
遠隔転移との関連を見たものはあまりありません。
理由としては色々あるとは思いますが、「死亡」という絶対的な事象のほうがイベント発生の把握がしやすいんでしょう。
ただ、「死亡」については、特に高齢者だと別の原因でなくなってしまう方も多いので、
正確な把握が難しいというデメリットもあります。
再発はその点は大丈夫ですが、やはり画像検査で見つかるものを把握するのは骨が折れます。
ただ乳癌死亡の原因は9割以上が転移によるもののため、
ここに生活習慣がどの程度関わるかはやはり注目すべきです。
大事なのは乳癌のサブタイプや運動強度によってどの程度リスクを下げることができるのかという検討です。
これまでの研究は、運動強度がわかっている集団内で、乳癌死亡について検討する。という流れが一般的ですが、
今回のCANcer Toxicities(CANTO study)という前向き試験の中から、運動強度と再発について検討が行われています。
方法です。
CANTO studyはstage1-3までの乳癌患者さんの前向きコホート研究です。
患者さんに同意を得たうえで、治療が開始される前、治療開始後1年、2年、4年、6年で評価されます。
運動強度はGPAQ-16で評価されます。
遊びや移動時間も含めて、運動量を1週間あたりの運動頻度と平均時間を合わせて、
標準化されたMET値で重み付けして、1週間あたりの総MET-時間(MET-h/週)を算出しています。
11,400人が解析対象となり、うち1,041人が運動の評価がはっきりしていなかったため、
最終10,359人が解析対象となりました。
Primari endpointは遠隔転移再発までの期間(DRFI)です。
SubtypeはHR+/HER2-、HR+/HER2+、HR-/HER2+、HR-/HER2-の4つに分類されています。
患者背景はIPTW法を用いて、少なくなっている症例のところに統計学的に問題にならないように人数を加え、
両郡のバランスをとるように調整しています。
欠損値があって邪魔な症例を除外し、IPTWには全患者と同様のベースラインである9,051人の患者を割り当てました。
運動とDRFIとの関連を評価するために、未調整と調整IPTWモデルを利用。
Kaplan-Meier法でDRFIを見ており、サブタイプ別にも同様の解析を行っています。 さらに閉経前と閉経後に分けて同じ解析をしています。
感度分析として、死因がうまく分類できていない可能性があるため、
遠隔転移の有無と、あらゆる原因による死亡を競合イベントとみなしたモデルを用いて解析をしているようです。
さて、結果です。
患者さんの年齢中央値は56.3歳。
4割弱が閉経前です。
5割強が化学療法を受けており、8割強が内分泌療法を受けています。
BMIの平均は25.9と日本の平均20前後と比較し高めになっています。
喫煙者は18%で、57%がWHOの運動推奨基準を満たしていました。
…ん?WHOの運動推奨基準って一日30分以上の運動を週に5回だが…
それを半数満たしててBMI平均が25.9ってどうなんだ…?
観察期間中央値5.4年で502の遠隔転移と395の死亡(284が乳癌死)を認めました。
全患者さん対象だと、遠隔転移と運動に非線形の関連を認めました。
つまりは運動すればするほどリスクが低下するわけではないということです。
だいたい5MET-h/wkくらいまではリスク低下が認められて、25MET-h/wkまではリスク低下がありますが、
それ以上では関連がなくなるという結果でした。
運動強度を5MET-h/wk未満を「運動なし」(n=4205, 40.6%))、
5MET-h/wk以上を「運動あり」(6154, 59.4%))と定義しています。
IPTW法を使って、5年のDRFIは運動なしで95.1%、運動ありで95.7%と、
絶対で0.6%の改善を認めました。
HRでいうと0.82(95% CI, 0.67 to 1.00)でギリギリさが出ていそうな感じ。
ただほんとに微妙な差です。
サブタイプに分けてみてみます。
(1) hormone receptor+/HER2– (n=7,846; 302events)
(2) hormone receptor+/HER2+ (n=1,061; 57events)
(3) hormone receptor–/HER2+ (n=392; 26events)
(4) hormone receptor–/HER2– (n=984; 114events)
HR+/HER2-、いわゆるluminalでは
DRFIが運動なしで96.2%、運動ありで96.3%でした。HR 0.89 (95% CI, 0.69 to 1.15)
HR-/HER2-、いわゆるトリプルネガティブでは
DRFIが運動なしで86.6%、運動ありで91.6%でした。HR 0.60 (95% CI, 0.38 to 0.92)
HR-/HER2+、いわゆるpure HER2では
DRFIが運動なしで90.0%、運動ありで96.2%でした。HR 0.37 (95% CI, 0.14 to 0.96)
HR+/HER2+では特に統計学的に言えることがなく解析はこれ以上していないとのこと。
さらに閉経前で見てっ見ると、3602例の閉経前乳がんで39.8%、209のDRFIイベントが発生。
閉経後では5449例で60.2%、219のDRFIイベントが発生しています。
全体でみると5年のDRFIは運動なしで93.1%、運動ありで95.4%で絶対値で2.3%の改善でした。
HRだと0.64 (95% CI, 0.48 to 0.86)と差が出ていそうです。
サブタイプごとで見ても、全症例と同じ傾向でトリプルネガティブについてはより強い傾向が見られたとのこと。
閉経後では全症例、全サブタイプともに差が見られませんでした。
また、運動量が変化することによって、DRFIを防げるかも検討しているようですが、
ここには差が見られなかったようです。HR 0.97(95%CI 0.72 to 1.30)
感度分析をしても同様の結果だったようです。
Discussionです。
結果を見る限り、閉経前でpure HER2, トリプルネガティブは非常に良い結果でした。
ただ運動しまくればいいというわけではなく、25MET-h/wk以上ではあまり変わらないという結果でした。
25MET-h/wkはやや息切れする運動を週に5時間になります。
今までの報告では、乳癌死亡率は下げることはあっても、
再発率を下げるという報告はありませんでした。
今回が初めての報告で、理由としては再発イベントが多いのと、運動のに関してのデータがしっかりと取れているからなんじゃないかということでした。
また乳癌死亡率の低下は主にluminalで観察されていました。
この研究ではluminalではあまりその傾向がなかったですが、
もしかしたらluminalは晩期再発が問題となることも多いため、観察期間の短さが影響しているのかもしれません。
さらに今回閉経前でその傾向が顕著でした。
これまでの研究では閉経後でもベネフィットが得られていましたが、
今回は運動強度の設定が異なっていた可能性もあるのと、多くの閉経後乳がんはluminalであることから生じたかもしれません。
この研究では運動量の変化はDRFIに影響を与えませんでした。
過去の報告では運動量が上がると再発が減るという結果でしたが、
今回この運動量の変化にはフォーカスしていないため、症例数が少なかったのが原因ではないかとしています。
Limitationですが、こういった運動系の研究には、
「もともと健康的な人が運動する」という選択バイアスや、
「後から思い出して回答する」ことの不安定さを含む想起バイアス問題が出てきます。
運動は疲労軽減や身体機能の維持、QOLのために推奨されていますが、最終的な再発に影響がするかの結論は出ていません。
前向きな臨床試験が必要ですが、やっぱりなかなか生活習慣に関与する試験は難しく、
また自己報告のスタイルでは、自分の運動量を過大評価してしまう可能性が示唆されています。
あとは観察期間の短さは、luminalに対してのlimitationになっていそうです。
診断時にGPAQ-16に答えていない群はこの研究には参加できないようで、
答えていないのは高齢者だったり収入が低い人だったりするのでその集団は少なくなっています。
まあそういったいろいろなバイアスはあるにしても、
少なくとも運動が悪さすることはなさそうです。
乳癌死亡の低下が言われているluminalには積極的に推奨と思っていましたが、
どのサブタイプにも積極的に推奨していいんだなということが再確認できました。
(もとより自分は全員に運動推奨していますが)