Final results of RIGHT Choice: Ribociclib plus endocrine therapy vs combination chemotherapy in premenopausal women with clinically aggressive HR+/HER2− advanced breast cancer
J Clin Oncol. 2024 May 21:JCO2400144. doi: 10.1200/JCO.24.00144. Online ahead of print.
まだエディット前なのでtableやfigureは読みにくいですが、興味のある論文なんで読みます。
進行再発ホルモン陽性HER2陰性乳癌(luminal)の一次治療は、
化学療法の組み合わせから内分泌療法とCDKの組み合わせに変わってきています。
どちらの方が奏効が早いのでしょうか?
という疑問から行われたのがこのRIGHT Choice試験で、
日本では使えませんが内分泌療法とリボシクリブ併用と、化学療法を比較した試験です。
最初の報告ではPFS, 奏効率は変わらず副作用は少ないという報告でした。
さて最終報告はどうでしょうか。
ショートサマリー:
Luminalに対しての内分泌療法+リボシクリブと多剤併用化学療法のhead to headガチンコ試験です。
Phase 2試験で閉経前、閉経期の患者さんがアロマターゼ阻害(AI)とゴセレリン(LHRHa)とリボシクリブの併用、
もしくは主治医選択の化学療法(ドセタキセル+カペシタビン or パクリタキセル+ゲムシタビン or カペシタビン+ビノレルビン)で、
1:1に割付されます。
Primary endpointはPFSです。
結果は222例がエントリーされ、リボシクリブ群112例、化学療法群110例でした。
150例(67.6%)が症状のある臓器転移を有し、
41例(18.5%)は主治医判断で急速進行であると判断されています。
31例(14.0%)が症状のある非臓器転移を有していました。
全体で106例(47.7%)が生命が危険な状態(life threatening)な状況であると判断されています。
観察期間37か月で、リボシクリブ群の31.3%、化学療法群の15.5%が試験治療を終了しています。
PFS中央値は21.8か月 vs 12.8か月でリボシクリブ群が有意に延長。
(HR 0.61; 95% CI, 0.43-0.87; P=0.003)
奏効率は66.1% vs 61.8%。
奏効するまでの期間は4.9か月と3.2か月で有意差はありませんでした。(HR, 0.76; 95% CI, 0.55-1.06)
副作用はリボシクリブ群で少なかったです。
結語として一次治療の内分泌療法とリボシクリブ併用はPFSで勝り、奏効率は同等で、
より忍容性のある治療でした。
先に感想ですが、閉経後入ってなかったのかということと、
多剤併用化学療法が基本的には日本でやらない治療ばかりです…
日本での化学療法第一選択はアンスラサイクリンもしくはパクリタキセル+アバスチンであることが多いように思います。(絶対ではありませんが)
PFSは日本の実臨床でもおそらく内分泌療法が上に行くかと思いますが、
奏効率についてはちょっと実臨床と乖離しているかなという感想です。
ただ結果自体は非常に参考になります。
イントロダクションです。
進行再発乳癌に対しての一次治療で症状がない場合は内分泌療法が行われますが、
life threateningな状況では化学療法が行われることも多々あります。
化学療法の多剤併用レジメンは有害事象は増えますが、効果は上昇することが知られています。
ちなみにコクランレビューでは以下のように示されています。
「全生存については併用レジメンに有利な統計学的有意差があり、異質性はなかった(HR 0.88、95%CI 0.83~0.93、p<0.00001)。
併用レジメンは生存に関してタキサン単剤よりも統計学的に有意に利益があったが(HR 0.82、95%CI 0.75~0.89、p<0.00001)、
アントラサイクリン単剤に対してはそれを上回る利益はなかった(HR 0.94.86~1.02、p=0.15)。
併用レジメンは無増悪期間(HR 0.78、95%CI 0.74~0.82、p<0.00001)、
および腫瘍縮小効果(RR 1.29、95%CI 1.14~1.45、p<0.0001)が有意に良好であったが、
両者とも異質性が統計学的に有意であり、おそらく参加者および介入の臨床的多様性によるものと思われた。
併用レジメンが投与された女性では、白血球数、脱毛症増加、悪心・嘔吐に対して統計学的に有意な有害作用がみられた。
転移性乳癌の女性に対する多剤併用化学療法レジメンは、
生存、腫瘍縮小効果、無増悪期間に統計学的に有意な利益を示すが、
より多くの毒性が引き起こされる。
併用レジメンが単剤の逐次投与よりも有効であるかどうかについては依然として疑問が残る。」
という結論でした。
さらにCDK4/6阻害剤の登場により時代は変わりました。
リボシクリブはPFSの延長と、MONALEESA-7ではOSの延長まで示されています。
ただこれらの試験は基本的にlife threatening(visceral crisis)な症例は除外されています。
この試験では症候性の転移を有する患者さんに対してどちらの治療が上回るかを検証した試験です。
試験デザインはphase 2で内分泌療法+リボシクリブと多剤併用化学療法で1:1に割り付けされます。
もし化学療法が有害事象で継続できない場合、単剤にして継続することは許容されています。
層別因子は肝転移、無病期間が2年以内か(de novoは2年以上に分類)です。
18歳ー59歳が対象で、測定可能病変が必要。
症候性の臓器転移があり、急速進行や、臓器障害待ったなし、
非臓器転移としても強い症候性の場合、主治医判断でaggressive diseaseとなります。
主にABC3のガイドラインに基づいて判定はしているようです。
採血でビリルビンが施設基準の1.5倍以上やAST, ALTが5倍以上だと試験参加は不可です。
アロマターゼ阻害剤による術後補助療法は、その後の無治療期間が12ヵ月以上であれば許容されます。
(試験治療がアロマターゼ阻害剤とリボシクリブの併用なのでアロマターゼ阻害剤の耐性は困るという理由)
Primary endpointはPFS。
Secondary endpointにTTF、3か月の治療失敗率、奏効率、臨床的有用性、奏効までの期間、OS、QOL、安全性を挙げています。
腫瘍評価は6週間ごとを2回、その後は8週間ごとを4階、その後は12週間ごととなっています。
探索的なエンドポイントは、バイオマーカー解析と医療資源につても注目しているようです。
結果です。
2019年3月から2021年12月までで、222例が内分泌療法+リボシクリブ群に112例、化学療法に110例に振り分けられました。
143例(64.4%)がde novo stegeⅣか進行、79例(35.6%)が転移再発。
150例(67.6%)が症候性の臓器転移、41例(18.5%)が急速増大、31例(14.0%)が症候性の非臓器転移です。
106例(47.7%)が主治医よりlife threateningな状態と判定されています。
多くはホルモン強陽性(86.0%)で50%以上陽性となっています。
化学療法群では10例が治療を却下しました。9例は本人が、1例は主治医が拒否しています。
みんな化学療法したくないんですね…まあそりゃそうですよね…わかってます…
化学療法のレジメンとしては24例(24%)がドセタキセル+カペシタビン、
34例(34%)がパクリタキセル+ゲムシタビン、42例(42%)がカペシタビン+ビノレルビンです。
観察期間中央値37.01カ月で、それぞれ31.3%、15.5%が治療を終えています。
治療継続困難となったのはリボシクリブ群で68.8%、化学療法群で75.5%。
最も多い理由はPDでした。治療期間は17.6カ月と10.9カ月。
PFSについては132のイベントが発生。
PFS中央値は21.8カ月 vs 12.8カ月で有意差をもってリボシクリブ群が良好な結果でした。
HR 0.61; 95% CI, 0.43-0.87; one-sided P=.003
12カ月、24カ月時点でのPFS率は68.9%と46.5% vs 54.5%と23.6%
サブグループで見てもリボシクリブ群で一貫して良好でしたが、
visceral crisisがある場合や転移再発の場合有効はやや低い(それでも同等)という結果でした。
Secondary endpointで治療失敗までの期間は18.6カ月と9.1カ月で検定はされていませんが、
こちらもリボシクリブ群で良好。HR, 0.50; 95% CI, 0.36-0.68
3カ月時点での治療失敗率は11.6カ月 vs 21.8%。
原因で最も多いのはPDで、その率は同じくらいでした。
奏効するまでの期間は4.9カ月と3.2カ月。
HR, 0.76; 95% CI, 0.55-1.06で信頼区間は1をまたいでいますが、
化学療法のほうが奏効は若干早いという結果でした。
奏効率は66.1%と61.8%。
臨床的有用率は81.3%と74.5%でした。
OSデータはimmatureでともに中央値未到達でした。
12カ月、18カ月、24カ月、30カ月時点でのOSは
12カ月 87.9% vs 91.5%, 18カ月 85.1% vs 86.5%,
24カ月 77.3% vs 73.7%, 30か月 66.6% vs 64.6%です。
うがった見方ですが、12カ月時点でリボシクリブ群が落ちています。
化学療法を第一選択にすべき群が一定数存在するのでは…と勘ぐってしまいました…
安全性ではall gradeでいえば全例発生しています。
リボシクリブ群では血球系が、
化学療法では嘔気、嘔吐、下痢、倦怠感が多く認められました。
リボシクリブでgrade3のQT延長が2例ありましたが不整脈は発生せず。
化学療法群では3例にFNが出ています。
G-CSFがリボシクリブで4.5%(熱もないのに使うんじゃないと注意喚起がされていました)、
化学療法群で25%使用されていました。
全体として、有害事象により試験を中止した患者は6.3%対27.0%でした。
リボシクリブ群でAST上昇が4例、ビリルビン上昇が2例、
化学療法群では好中球減少が6例、手足症候群が5例、末梢神経障害が3例、肺塞栓症が2例でした。
重篤な有害事象は2例(1.8%)と8例(8.0%)で報告されていました。
リボシクリブ群で1例最初の6カ月でsepsisを起こし亡くなったようですが、
治療関連はないと判断されているようです。
Discussionです。
多剤併用化学療法の治療成績は、以前の報告より今回はよい結果だったようです。
にもかかわらずおおむねリボシクリブ群で良好な結果。
ただ奏効までの期間や最初の奏効率については化学療法のほうがやや上でした。
有害事象については身体的なものは化学療法群に多く、
患者さんとしてはリボシクリブのほうが楽でしょうと。
中止に至った症例も少なく、全体的に内分泌療法+リボシクリブ素晴らしい!という書き方がされています。
Visceral crisisという定義は非常にあいまいになっています。
ABC3の時点ではふわっとしていたようですが、
ABC5の時にはある程度具体的な数値が示されているようです。
ただ今回の試験では肝機能上昇は除外としていたため新しい定義でのviseral crisisの検討はできていません。
ただ一応viseral crisis状態でも有害事象の発現はリボシクリブ群のほうが少なかったとのこと。
Limitationとしてはサンプルサイズが小さいこと。
ブラインド試験ですが10例ほどばれてしまっていること。
臨床で実際に使用されているすべてのレジメンを網羅できていないこと。
アンスラサイクリンベースの治療が心毒性の面から除外されていること。
ホルモン感受性が高い群が多く含まれていること。
大部分がde novo stageⅣで、再発患者では検討が不十分なことが挙げられていました。
Limitationにも挙げられていましたが、若干実臨床と違うところもあって、
この結果をもって一次治療は全例内分泌療法にするかと言われるとそんなことはないように思います。
ベージニオについてnetwork metaanlysisをしたところ、
奏効率を除いて化学療法に劣らないと報告した論文もあります。
(しかも劣るとするレジメンはパクリタキセル+アバスチンのみ)
Lancet Oncol. 2019 Oct;20(10):1360-1369. doi: 10.1016/S1470-2045(19)30420-6. Epub 2019 Sep 4.
なので、個人的にはこの結果の前からよほどvisceral crisisじゃない限り化学療法を第一選択にしてません。
とはいえ強い裏付けにはなりました。
あとはviseral crisisの見極めですね。
途中にも書きましたがリボシクリブを選択することによってOSが低下している層が存在しているかもしれません。
そこをいかに拾い上げて(化学療法でも拾い上げられないかもしれませんが…)治療選択をしていくかですね。
この内容からは転移再発のviseral crisisはもしかしたらbenefitが少ないかもという感じです。
基本的に定期的にフォローして転移再発を割と早期に見つけることが多いので、
この状況は少ないかもしれませんが1つ臨床の参考にしてみようかなと思います。