Aspirin vs Placebo as Adjuvant Therapy for Breast Cancer The Alliance A011502 Randomized Trial
JAMA. 2024 Apr 29:e244840. doi: 10.1001/jama.2024.4840. Online ahead of print.
大腸癌の術後ではアスピリン内服していると予後が良いというデータがあります。
また乳癌でも後ろ向き研究では予後が良いというデータあり。
さて前向きにみたらどうでしょうか。
ショートサマリー:
乳癌サバイバーの観察研究と新血管系についてのアスピリンの前向き試験からは、
アスピリンユーザーは乳癌生存率が改善することが示唆されていますが、
乳癌転移を抑制するかどうかの前向き試験はデータがありません。
この試験では乳癌サバイバーの浸潤癌イベントのリスクがアスピリンで減らせるかを検討しています。
A011502試験はプラセボコントールのダブルブラインドphase 3試験です。
3020人の再発高リスク乳癌患者さんがエントリーされています。
2017年1月から2020年12月まで登録され、2023年4月までのフォローアップです。
層別因子としてホルモン受容体、BMI(30をcut off)、stageⅡ or Ⅲ、
また診断後18か月以内に300㎎のアスピリンが開始されているかです。
3020人が1510人ずつエントリーされています。
(おそらく中間解析で)無効とされるハザード比の閾値を超えてしまったため試験は途中で中止となってしまいました。
ただ人数自体は3020人エントリーされています。
33.8カ月の観察期間っで、253のイベントが発生。
アスピリン群で141人、プラセボ群で112人とHR 1.27(p=0.06)とまさかの有意差が出そうなレベルで、
アスピリン群で再発が多いという結果でした。
死亡、転移再発、新規病変はアスピリン群で顕著に多いという…ただ統計学的に有意差はなかったと。
OSはHR 1.19で副作用報告は両郡で同様でした。
毎日アスピリンを併用しても、乳癌転移や生存率は改善させませんでした。
アスピリンは有効で簡単に手に入る(海外では)薬剤ですが、乳癌の補助療法として推奨されるべきではありません。
イントロダクションです。
多くのアスピリンユーザーを対象にした乳癌患者さんの観察研究では、
アスピリンは乳癌死亡率を下げるという報告がされています。
5つの大きなランダム化試験のプール解析では、アスピリンユーザーは乳癌転移リスク、
特に腺癌の転移リスクを下げるという結果でした。(relative risk[RR], 0.52; 95% CI, 0.35-0.75)
さらに、腺癌患者で診断まで、または診断後もアスピリン投与を継続していた場合、
転移リスクが低下(RR、0.31;95%CI、0.15-0.62)、
特に乳癌死亡率が低下する可能性がありました(RR、0.16;95%CI、0.02-1.19)。
また、長期フォローをみたデータでも同様に腺癌転移リスクを下げているという結果でした(RR, 0.73; 95% CI, 0.56-0.96)。
理屈としては、抗血小板作用と抗炎症作用により腫瘍増殖を防ぐということです。
以前ブログに挙げましたが、血小板は成長因子やサイトカイン、免疫寛容など様々な機序で腫瘍増殖を助長する可能性があります。
また、炎症もサイト下院、増殖因子を放出し、腫瘍増殖、免疫不全を引き起こし得ります。
アスピリンはPI3Kを阻害し、ピロテインキナーゼB、mTOR経路を阻害することが証明されています。
そりゃアスピリンを術後に使えば治療成績良くなるよね?!として始まったのがこのA011502試験になります。
他に類を見ない試験です…とありましたが、まさかこんな結果に終わるとは…
対象は18歳から70歳のHER2陰性乳癌。
治療については特に指定されていなそうですが、標準治療が行われていることが適格基準です。
手術、化学療法が終わっていることが基準ですが、内分泌療法は併用OK。
ホルモン陽性ならリンパ節転移陽性なことが条件で、術後10年以内なら参加可能です。
ホルモン陰性ならリンパ節転移陽性、もしくは2㎝以上で診断から18カ月以内なら参加可能です。
ホルモン陽性はもともとはホルモン陰性と同様に18カ月以内としていたようですが、
途中でプロトコールの改定があり10年以内となったようです。
Nonsteroidalな抗炎症剤(ロキソニンやカロナール)もしくはアスピリンは参加の30日前までに中止。
除外基準は70歳以上や、ステロイドユーザー、ワーファリンユーザー、ヘパリンユーザー、クロピドグレルや抗血小板薬、
Xa阻害剤、腸管出血を起こしたことがあったり、脳卒中の既往がある、心房細動がある、心筋梗塞がある、Grade 4の高血圧があるなどです。
つまりは血管系の異常がありそうな人はリスクが高いので参加しないでということですね。
参加者は300mgのアスピリンかプラセボを1日1回内服します。
出血のリスクがありそうなときはアスピリン中止も許容されています。
NSAIDsの使用は推奨はされませんが、使用しても試験脱落とはなりません。
使用量については抗腫瘍効果がある量はわかっておらず、
一般的には100㎎以下なら抗血小板作用。
300㎎以上なら抗炎症作用があるとされています。
3群比較も検討されましたが、症例登録数がけた違いになるため、
色々な作用機序が検討できる高容量で開始することが決定したようです。
内服がきちんとされているかは服薬日記と錠数カウントで管理されており、
80%以上がきちんと内服できていると定義されています。
Primary endpointはiDFS。SecondaryはOSなど。
症例設計は同様の対象を見ているECOG-ACRIN E5103試験を参考に、
プラセボの5年iDFSを77%と想定して、2936例を目標サンプルサイズとしています。
このサイズだとアスピリン群の5年iDFS率が82.2%に改善したことを検出する検出力が80%あり、
有意水準を0.03とするとHR 0.75となります。
解析は381のイベントが発生したときに行われる計画となりました。
有効性がない場合の早期中止を考慮して、3回の中間解析が計画されました。
最初の中間解析は、推定されたイベント数の50%が発生した時点で行われます。
結果です。
3020例が登録されました。
年齢中央値は53歳。
BMI中央値29とお国柄。
2割弱が閉経前です。
9割近くがリンパ節転移陽性で、9割がホルモン陽性。
また83%で化学療法が行われていました。
診断からの期間は中央値13か月でした。
191のイベントが発生した状況で中間解析が行われました。
HRは1.27…
事前に規定した無益であるとされるボーダーライン1.03を超えてしまいました。
てころで試験は中止。治療期間中央値は19.5ヵ月(アスピリン)、19.6ヵ月(プラセボ)でした。
観察期間33.8カ月で253のイベントが発生。
141がアスピリン群、112がプラセボ群です。
HR 1.27; 95%CI, 0.99-1.63; P=0.06
対側乳癌の発生を除き、すべてアスピリン群で多いという結果でした。
統計学的な差はありません。(data not shown)
サブグループで見ても一貫しています。
SecondaryのOSについても有意差はありませんが、HR 1.19; 95%CI,0.82-1.72;P=0.36と若干悪い結果でした。
多くは(70.4%)乳癌による死亡でした。
内服アドヒアランスはだいたい90%前後。
アドヒアランスで調整しても結果は変わらなかったとのことです。
アスピリン以外の抗炎症剤の使用は1割ちょっとでした。
有害事象についてはアスピリン、プラセボともに10%前後。
アスピリン群でグレード5の心臓有害事象が2例(心筋梗塞、心停止)、
グレード4の血管有害事象が1例(血栓塞栓症)認められるという皮肉。
プラセボ群ではグレード4以上の血液学的、心臓、血管、消化器系の有害事象は認めませんでした。
Discussionです。
冒頭にいきなりこの結果となった考察が。
観察研究ではアスピリン内服は非常に癌に対して有益な効果を示していそうですが、
もしかしたらアスピリンを続けていた人はもともと健康的な人が多かった、
もしくはアスピリンを中止してしまう人は不健康な人が多かった可能性があるとありました。
現在アメリカでは60歳以上に心血管疾患一次予防に低用量アスピリンを使用しないことを推奨しているようです。
同様の試験でASPREE試験というのが現在進行中のようですが、
こちらはすでに報告がされていて、この試験と同様の結果だったようです。
こちらは70歳以上で低用量法アスピリンを使用する試験で、
アスピリン群で死亡リスクの増加(HR、1.14;95%CI、1.01-1.29)が示され、
主に癌による死亡リスクの増加(HR、1.31;95%CI、1.10-1.56)と関連していました。
一応JPADという試験では、65歳以上のアスピリンユーザーの大腸癌罹患率について、
65歳未満だとHR 0.41とリスクを低下させたと報告しています。
大腸癌については割といい結果がいくつか報告されていて、
リンチ症候群を対象とした前向き試験では600㎎のアスピリン(多っ)は、
大腸癌罹患リスクを低下させたと報告されているようです。
基礎的な側面からは、慢性炎症は加齢とリンクしていて、
高齢者には抗炎症を目的としたアプローチは有効でないかもしれないとありました。
? 高齢者は慢性炎症があるからむしろいいのでは…?
また抗腫瘍効果による炎症を阻害することで悪影響が出てしまっている可能性もあるとのこと。
? これもいまいちピンとこない…
300㎎のアスピリンは比較的緩やかな抗炎症作用となるようで、
量的な問題はあるのかもしれません。
血液と尿のサンプルもこの研究では取られているようですので、
そちらの解析も行われているようです。
Limitationとしては、検出力が不十分だったこと。
ホルモン陰性が11%と少なかったこと。
ホルモン陽性では診断からの期間がばらばらで、内分泌療法がどのように行われているかもかなり影響しているのでは、
ということが書かれていました。
いやー、基礎データ、観察研究のデータ、後ろ向き研究のデータがいかに信頼性が低いかが理解できました。
前向き試験だとこうも結果が違うとは…しかもどうやら一貫性がありそうです。
やっぱり前向き試験をちゃんとやらなきゃいけないんだなーと思いました。
コロナに対するイベルメクチンとかも同じですね。
皆様、巷にある変な治療に惑わされないように…