Datopotamab Deruxtecan in Advanced or Metastatic HR+/HER2– and Triple-Negative Breast Cancer: Results From the
Phase I TROPION-PanTumor01 Study
J Clin Oncol. 2024 Apr 23:JCO2301909. doi: 10.1200/JCO.23.01909. Online ahead of print.
また新たな薬剤の登場です。
Datopotamab deruxtecan(ダトポタマブ デルクステカン)という噛み噛みになりそうな名前ですが、
デルクステカンはエンハーツの一般名T-DXd(トラスズツマブ デルクステカン)と同じです。
ショートサマリー:
Datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は流行りの抗体薬剤複合体で、
Trastuzumab deruxtecanはHER2タンパクを標的としていましたが、
これはTrophoblast cell-surface antigen 2(TROP2)というタンパクを標的とし、
ペイロード(薬剤)であるderuxtecanをばらまきます。
TROPION-PanTumor01はphase 1試験で、既治療の固形癌に対してのDato-DXdの投与量を決める試験です。
Primary endpointは安全性と忍容性。
Secondaryとして奏効と薬剤動態を見ています。
今回は乳癌についてホルモン陽性HER2陰性(luminal)とトリプルネガティブについての報告です。
85人(luminal41例、TNBC44例)が対象。
奏効率(ORR=CR+PR)はluminalで26.8%、TNBCで31.8%でした。
治療奏効期間はTNBCのみ測定されており16.8カ月と素晴らしい結果。
ただPFS中央値はそれぞれ8.3カ月、4.4カ月です。
有害事象はany gradeであれば100%、grade 3以上は4-50%で発生しています。
一番多かったのは口内炎でgrade 3以上が約1割でした。
濃厚に治療歴があるluminal, TNBCでもDato-DXdはそれなりの奏効と安全性を示しました。
現在phase 3試験が画策中です。
イントロダクションです。
TROP2について解説しましょう。
TROP2は細胞膜を貫通しているタンパクで、カルシウムの輸送に関連しています。
もともとは胎盤に細胞が付着する際に重要な役割を示すようですが、
腫瘍に発現すると癌の浸潤や転移に影響を与えます。
TORP2は正常組織では点々と存在していますが、
luminalとTNBCでは広く発現しており、過剰発現は予後不良因子となっています。
このタンパク、どこかで出てきた名前ですが、
そう何度かブログに登場しているsacituzumab govitecanと標的は同じです。
DatopotamabはTROP2に向けて飛んでいく抗体で、
抗がん剤としてエンハーツ同様deruxtecanを引っ提げています。
どうやら1抗体につき4つの抗がん剤らしく、エンハーツの7-8個に比べて控えめになっています。
Dato-DXdについてもバイスタンダー効果は証明されています。
さて、この試験では固形癌に対してのDato-DXdの試験ですが、
今回は乳癌についての報告になっています。
対象は18歳以上で転移再発のlumianl, TNBCに対して標準治療が終了している患者さんです。
Dato-DXdは21日ごとに投与されます。
Primary endpointは安全性と忍容性。
SeconaryにDato-DXd、抗TROP2抗体、MAAA-1181a(DXdペイロード)の薬物動態特性。
Dato-DXdの抗腫瘍効果とDato-DXdに対する抗薬物抗体の発現率の評価が挙がっています。
有害事象については間質性肺炎が注目されていました。
結果です。
85例がエントリーされ、luminal, TNBCがそれぞれ41例、44例。
全例が6㎎/kgで開始され、2例が8mg/kgにdose upされています。
Data cutoff時点で36例、41例が治療を終了。
終了の理由はPDになっていることが最多でした。
観察期間中央値はlumianl 13.7カ月、TNBC19.3カ月。
治療期間中央値は4.8カ月と4.3カ月でした。
Luminalは全例deruxtecan投与は初めてでしたが、TNBCでは11例がゴビテカン、2例がエンハーツ、1例がpatritumab deruxetcan(抗HER3の抗体薬剤複合体)で投与されていました。
Luminalでは中央値で5レジメンの治療がされており、
TNBCでは中央値3レジメンの治療がされていました。
Lumianlについては95%の症例でCDKが使用済み。TNBCについては93.2%でタキサン既治療です。
登録は日本とアメリカだけ。さすが第一三共。
半数以上で肝転移ありになっています。
BRCA陽性は全部で7例ですが、PARP阻害剤はそれ以上の14例で使われています…どうなってんだ…
パネルで体細胞変異見つかったんですかね?
さて効果ですが、CR+PRはluminalで11例(すべてPR)、TNBCで14例(1例CR)でした。
このラインではかなりの成績といっていいでしょう。
ORRはそれぞれ26.8%、31.8%。
さらにderuxtecan初回に限ればORR40%に達します。
PD率は約2割くらい。
Waterfall plotもすごいですね。
軒並み腫瘍縮小が得られています。
非常によく効いたチャンピオンデータが以下の通りです。
Luminal
TNBC
PFSは中央値でそれぞれ8.3カ月と4.4カ月。
ただTNBCについてはderuxtecan初回に限れば7.3カ月と長いPFSを得ています。
OS中央値はluminalは未達。TNBCは13.5カ月です。
Deruxtecan初回だと14.3カ月とのこと。
安全性についてはgrade3以上が約4-50%で認められました。
減量に至ったのは約15%、中断が必要だったのは約30%、中止に至ったのは10%弱くらい。
薬剤関連の死亡例はないとのこと。
最多は口内炎でグレード3以上が10%、悪心、疲労が3-4%くらいでした。
血球減少についてはgrade 3以上は少し貧血がありますが、好中球減少はあまり認めていません。珍しい。
この試験では間質性肺炎はグレード3が1例あり中止。ただ、それ以外は認めませんでした。
他に特徴的な有害事象として目の表面の異常が報告されています。
どうやら目の表面にもTROP2が発現しているらしく、
だいたい3割ちょっとに目の症状が出ます。
ただ最多はドライアイで大体2割くらい。
角膜炎が1割。
白内障の報告もあったようですが、あまり積極的に薬剤との関連は疑われていませんでした。
多くはgrade 2以内で、grade 3は角膜炎で1例くらいのようです。
一番多くてきついのは口内炎っぽいですね。
薬剤動態については割愛します。
Discussionです。
TNBCについてはderuxtecan(というかTopo1阻害剤)の使用歴があると効果が減弱。
LuminalではDNAダメージがある化学療法歴が1-2レジメン以内だと30%以上の腫瘍縮小があって、
それ以上だと効果は減弱してくると書いてありました。
まあどの薬剤でもそうだとは思います。
副作用について口内炎は患者さんのQOLを下げる原因の1つで、
口内炎予防(歯科受診、日本では使えないけどステロイド含有うがい、アズノールうがいなど)は必須になりそうです。
次にSacituzumab govitecanとの比較がされています。
ゴビデカンはすでに海外では適応が通っていて、TROPiCS-02とASCENT試験が大規模臨床試験として行われています。
TROPiCS-02はluminalを対象としていて、ORRは21%。
PFSとOSの中央値は5.5カ月、13.9カ月でした。
こちらは下痢と嘔気がメイン。
また好中球減少が多く報告されています。
TNBCを対象としたASCENT試験では全症例がtopoⅠ阻害薬使用歴がなくて、
ORR 31%。治療奏効期間は6.3カ月、PFSとOSは4.8カ月、11.8カ月です。
こちらも血液毒性と胃腸障害がメインの有害事象。
患者背景が違うため比較はできませんが、割とDato-DXdに期待を持ってしまいます。
副作用の違いについてはDato-DXdの特性(腫瘍細胞に濃縮されたリソソームを使ってリンカーを切断)が影響している可能性があると。
この結果を元に、化学療法1レジメンが行われたluminalを対象としたTROPION-Breast 01、
TNBCにおいて1st lineとして化学療法と比較したTROPION-Breast 02(強気)が行われています。
さらにTROPION-Breast 03, 04, 05は免疫チェックポイント阻害剤と併用するような治験も検討されています。
感想ですが、ADCが繁栄を極めていますね。
特にデルクステカンをペイロードとした治療薬は軒並みよい成績。
また乳癌診療が変革を迎えそうな予感…