Omitting Axillary Dissection in Breast Cancer with Sentinel-Node Metastases
N Engl J Med 2024;390:1163-75.DOI: 10.1056/NEJMoa2313487
ショートサマリー:
センチネルリンパ節転移陽性で腋窩リンパ節郭清省略を評価する臨床試験は、
検出力の限界や、放射線を当てる領域がちゃんと定まっていなかったり、
サブグループに関するデータが少なくて若干議論の残るところでした。
そこでT1-T3までの臨床的にリンパ節転移陰性症例で、1-2個のマクロ転移(2mmより大きい転移)があった場合で、
郭清と非郭清に1対1で割り当て非劣勢を証明する試験(SENOMAC)が行われました。
術後治療は国際的なガイドラインをもとに決定しています。
Primary endpointは全生存率(OS)ですが、
この論文は、事前に規定したseconary endpointである無再発生存期間についての解析を報告しています。
センチネルリンパ節生検のみの非劣性を示すためには、
再発または死亡のハザード比の信頼区間の上限が1.44以下である必要があります。
2766人がエントリーされ、2540人が解析対象になりました。
1335人がセンチネルリンパ節生検のみ、1205人が郭清を追加しています。
リンパ節領域をしっかり範囲にいれた照射はセンチネルリンパ節生検のみで89.9%で行われ、
郭清された場合でも88.4%で行われていました。
観察期間中央値46.8年で191例に再発もしくは脂肪のイベントがありました。
推定5年無再発生存はセンチネルリンパ節生検のみで89.7%、郭清群で88.7%。
HRは0.89(95% CI, 0.66 - 1.19, p<0.001)で非劣勢マージンを下回りました。
めでたく、郭清省略でも非劣勢であることがしっかりと証明されました。
イントロダクションです。
腋窩郭清省略の試験で一番有名なのはACOSOG Z0011試験です。
ただZ0011試験は当初4年で1900人の症例集積を計画していたが順調にいかず900人弱になってしまったこと、
想定以上にイベント発生が少なく10年を見越していたが5年で早期に試験が終了してしまったこと、
照射の範囲がしっかり規定されておらず施設によって異なる可能性があること、
術後補助療法の規定がされていなかったこと、
T1症例が多いこと(70%弱)やmicro meta症例(約4割)が多いことなど、
結構いろんな点で信頼性に欠ける点があります。
照射範囲については後に論文化され、いわゆるhigh tangent(これが郭清省略の基本のはず)が半数以上の症例で行われ、
プロトコールで禁止されているような照射が19%で行われていたようです。
想像するに鎖骨上まで含めた領域リンパ節照射でしょうか?
ただ詳細な治療記録が得られたのは856例中228例のみだったみたいです。
再発の絶対値が低かったので一気に広まったんじゃないかと思われますが、
こう見ると結構穴だらけです。
ただほかの試験結果を見ても結果は一貫していて、
EORTCが行ったAMAROS試験でも再発は少なく、郭清省略のほうがリンパ浮腫が少ない結果でした。
この試験は2015年に開始され、狙いとしては大規模に行うことと、
マクロ転移(2mm以上)に対象を絞ること。
また、さらにサブグループの範囲を拡大させることです。
具体的には乳房切除症例や節外浸潤がある症例、T3症例、男性が含まれています。
さて方法です。
OSの非劣勢試験で計画されています。
対象はT1-3で臨床的にリンパ節転移陰性。
2個までのマクロ転移は適格です。
乳癌の既往があったり、両側乳癌で片側が適応から外れているなら参加できません。
放射線が当てられない場合や全身治療ができない方も除外になります。
エコーでリンパ節転移が怪しくてもFNAで陰性なら参加は可能です。
術前治療については途中でプロトコール改定が行われ、術前治療前にセンチネルリンパ節生検をしている場合のみ許容されます。
ランダム化はなんと術中に行われる場合と、いったん手術は終了して、二期的に郭清を行う場合の2パターンがあります。
温存、乳房切除は層別因子に入っており、また断端は陰性にすることが必須です。
センチネルリンパ節の定義は染色されているリンパ節と、術中に硬く触れて転移が疑わしいリンパ節とのこと。
え、後者はノンセンチネルリンパ節なのでは…?
これらの基準に当てはまらないけど摘出したリンパ節についてはセンチネルリンパ節とせず、
ノンセンチネルリンパ節と定義しています。
なんとノンセンチネルリンパ節に転移があっても、この試験には参加できるようです…
まあめったにないことだからだよね?
術後治療は国際ガイドラインに沿って行われます。
温存後の放射線は必須。
Boost照射、PMRT、領域リンパ節照射についてもガイドラインに沿って行ってよいとなっています。
また、照射についてはクオリティーが評価されているようです。
フォローアップは、5年間は年1回のマンモグラフィー、その後もマンモグラフィーで評価されます。
当初は年1回の臨床検査が義務付けられていましたが、新型コロナが流行した時期は、
遠隔受診という選択肢も許容されました。
Primary endpointはOS。
事前に規定されたsecondary endpointはRFS、無再発生存期間、乳癌特異的生存期間、患者報告のアウトカムでした。
症例設計は5年のOS非劣勢。
非劣勢マージンは2.5%として、郭清群で94%、非郭清で91.5%が想定されました。
このマージンはZ0011試験に比べ1/2で見積もられています。
というのもZ0011の頃より全身治療もさらに向上してきているという面もあるからです。
αを10%として検出力を80%とするためには、合計190例の死亡が必要で、
ハザード比の片側90%信頼区間の上限が1.44以下となるように計算されています。
安全性を担保するため、先に副次評価項目である無再発生存率が解析されています。
郭清群で5年無再発生存率が90%になるという仮定をして、サンプルサイズの計算がプロトコールに追加されました。
再発または生存のハザード比の信頼区間の上限は変更せず計算したところ、
非劣性マージンは4.1%になりそうとのことで、190件の再発または死亡イベントが発生した時点で、
非劣性の証明に十分な検出力(80%)があると結論づけています。
結果に移ります。
6637人という膨大な数のスクリーニングが行われ、最終2766人がランダム化されました。
プロトコール通りにランダム化されたのが2540人でした。
1335人はセンチネルリンパ節生検のみが行われ、
1205人は腋窩リンパ節郭清が行われました。
観察期間中央値46.8カ月で、17例が放射線治療前に試験を離脱。
領域リンパ節への照射はセンチネルリンパ節生検群で89.9%、郭清群で88.4%行われており、
26例を除いて何かしらの全身治療が行われています。
65歳以上が約4割。
約1/3が節外浸潤を伴っていました。
センチネルリンパ節の摘出個数は中央値で2個。
郭清をした場合中央値で15個摘出されています。
65%が化学療法を受けていて、内分泌療法は93%に。また抗HER2療法は約9%に投与されています。
サブタイプとしてはほとんどがホルモン陽性HER2陰性になっています。
だいたい88%が乳房もしくは胸壁にプラスして領域リンパ節に放射線照射がされていました。
照射のクオリティーは99%以上で問題なし。
センチネルリンパ節転移は2個以内ですが、微小転移を含めると49例では3個、3例では4個の転移がありました。
腋窩リンパ節郭清は930例(77.2%)が二期的に行われ、センチネルリンパ節生検と同時に行ったのは275例(22.8%)でした。
郭清群で1167人中403人(34.5%)にセンチネルリンパ節以外の転移が見つかりました。
センチネルリンパ節転移が1個の患者では31.3%にノンセンチネルリンパ節転移が認められて、
センチネルリンパ節転移が2個の患者では51.3%にノンセンチネルリンパ節転移が認められました。(そんな多いの?!)
最終的にN1だったのがほとんどですが、郭清した群ではN2(リンパ節転移4つ以上)が116例(9.9%)、
N3(リンパ節転移10個以上)が35例(3.0%)ありました。
191例にイベント発生がありました。
死亡例は131例ですが、ほとんどがランダム化から5年以内に発生。
50例が乳癌が原因です。
5年の全生存は92.9%と92%でセンチネル群で絶対値がほんの少し良い結果。
領域リンパ節再発は6例ずつあって、
同側腋窩3例、同側腋窩と鎖骨下リンパ節2例、鎖骨上または鎖骨下、乳房内、胸骨傍で各1例。
そのほかは詳細不明と。
5年の無再発生存率は89.7% vs 88.7%でした。
調整因子で調整を行った後のHRは0.89(95% CI, 0.66 to 1.19), p<0.001で非劣勢マージンを有意に下回っていました。
サブグループで見ても両群に差は認めませんでした。
Luminal HER2だけセンチネルリンパ節のみでなぜかベターですがここについての言及はなし…
まあ症例数さほど多くないのでby chanceでしょうか。
Discussionです。
Z0011の登録は1999-2004、AMAROSは2001-2010でこの試験は新しい。
IBCSG23-01で微小転移の意義が判明(郭清いらない)ことから微小転移は参加できないようにしています。
どちらの試験も40%ほど微小転移が入っているため、ここの差は大きいでしょう。
またT3症例や節外浸潤も許容しています。
さらに乳房切除も1000例弱ほど登録されており、こちらも信頼できるデータになっています。
2つの郭清省略の試験を引き合いに出しています。
OTOASOR試験では3㎝までの乳癌を対象に郭清と非郭清で比較しています。
結果、DFSに差は認めませんでした。
しかしこの試験では1/3以上が微小転移もしくはITC(0.2mm以下の転移)でした。
また節外浸潤については記載がなく、乳房切除の症例は少数でした。
SINODAR-ONE試験ではT1-T2でセンチネルリンパ節のマクロ転移があるときの試験。
結果はRFSに差を認めませんでした。
サブグループで218例の乳房切除でも同様の結果でした。
ここに挙げた試験はどれもlow riskが多いというバイアスが含まれていそうで、
結果の解釈に影響を与えています。
年齢についてもこの試験は適応を広くとっています。
他の試験では年齢中央値が54-56歳と閉経後乳癌が多い海外にしてはやや若年集団を対象としています。
全身治療に耐えうる年齢層を取っているためと思われますが、
今回の試験では65歳以上もそれなりに含まれています。
さらにそもそも腋窩リンパ節を触らないという試験もあります。
ドイツではセンチネルリンパ節すらしないというINSEMA試験走らせていますが、
2019年時点で目標登録数に達していなかったようです。
イギリスのPOSNOC試験ではT1~T2, N0の1900人を、
腋窩治療(腋窩リンパ節郭清または腋窩放射線療法)vs 腋窩治療なしで比較しているようで、
結果が待たれるとしていました。確かに興味あります。
この試験のlimitationとしては、1つ目が領域リンパ節照射がかなりの割合で行われていた点。
これはスウェーデンとデンマークでは基本的に領域リンパ節照射がスタンダードであり、
基本的に国の方針に従って照射範囲が決められていたためです。
AMAROSやOTOASORはこの照射範囲だったため、その結果と同等になると考えられます。
2つ目は男性乳癌は10例と少ない点。
3つ目は多くがluminalだったため晩期再発が見れていない点です。
4つ目は他の試験と同様で、事前に規定された症例数に届かなかった点。
ただこれは検出力自体は十分得られているためさほど問題ではなさそうと。
5点目は郭清を避けたいという気持ちからか、郭清群で試験参加拒否がやや目立ったことです。
まあ仕方ないでしょうね…ただ2群の患者背景はさほど差がないことからここの影響も少ないでしょうと。
感想ですが、乳房切除は今のところリンパ節転移があれば郭清を行っていますが、
この結果からは郭清を省略して放射線という流れをとるべきなのではと思ってしまいます。
ただ放射線照射もかなり混んでいるため、マンパワー的に全例を郭清省略にして治療が回るのかという点も不安。
乳房切除の郭清省略について一度カンファレンスで本格的に話し合う必要がありそう…
Luminalはいらん気がするなぁ…HER2, TNBCはまだ必要かなぁ…(個人の意見です)