3-year invasive disease-free survival with chemotherapy de-escalation using an ¹⁸F-FDG-PET-based, pathological complete response-adapted strategy in HER2-positive early breast cancer (PHERGain): a randomised, open-label, phase 2 trial

Lancet. 2024 Apr 3:S0140-6736(24)00054-0. 

 

PHERGain Lancet載りましたか。すごいー。

 

ショートサマリー:

PHERGain試験は早期HER2陽性乳がんに対して、

抗HER2薬であるハーセプチンとパージェタの併用を化学療法との併用なしで行い、

安全性や効果を確認するphase 2試験です。

治療効果の確認はPETベースで行い、pCRを目指します。

 

患者は1:4という珍しい比率で分けられています。

HER2陽性でstage1~3A。

最低1か所PETで評価できる部位が必要で、

Group Aはドセタキセル、カルボプラチン、ハーセプチン、パージェタ(TCb+HP)が投与されます。

一方でgroup Bはハーセプチンとパージェタのみで、ホルモン陽性の場合内分泌療法が併用されます。

ホルモン受容体が層別因子になります。

治療が2コースはいった時点でPETが行われ、その結果によりgroup Bはそのままの治療で継続するかを決めます。

PETで奏効と判断された場合、追加で6コース同じ治療を、

非奏効と判断された場合6コースのTCb+HPに切り替えます。

手術後、PETで奏効した群だけどpCRでなかった場合、追加でTCb+HPが6サイクル投与され、

ハーセプチンとパージェタは最大18サイクル投与されています。

主要評価項目は、group BのPET奏効群の2サイクル後のpCR rate(結果はすでに報告済み)と、

group Bの3年無浸潤生存期間(iDFS)です。

 

356例がエントリーされ、71例がgroup A, 25例がgroup Bです。

それぞれ63例と267例が手術まで到達しています。

今回2時解析で観察期間中央値43.3カ月になっています。

Group Bの3年iDFSは94.8%(95% CI 91.4–97.1; p=0·001)とprimary endpointを達成していました。

Serious adverse events(SAEs)はgroup Aで圧倒的に多く(grade ≥3 62% vs 33%; SAEs 28% vs 14%)、

pCRを示したgroup BのPET奏効群では、グレード3以上の有害事象が最も少なく(1%)、SAEは認められない結果でした。

 

PETベースで評価をしつつpCRを目指す治療方法は素晴らしい3年iDFSを記録しました。

このストラテジーを用いると1/3の患者さんが安全に化学療法を避けられます。

 

アブストラクトの最後の1行のインパクトたるや。

イントロダクションです。

HER2陽性乳がんについてはある程度pCRが予後の代わりの因子(サロゲートマーカー)になることが分かっています。

奏効を予測するマーカーとして、非侵襲的なツールが期待されていましたが、今回FDG-PETが注目されました。

FDGの取り込みが効果と奏効するというデータがNACと転移性乳がんですでに報告されているようです。

そこでこの試験ではPETで治療効果を評価しつつ、化学療法なしの術前治療について検討しています。

最初の解析では、第一のprimary endpointを達成していました。

第一のendpointは化学療法なしでハーセプチンとパージェタのみで治療を行ったgroup Bで、

285例中227例(80%)がPETに反応を示していました。

このPET奏効群から86例がpCRを達成していました。(38% [95% CI 31-6-44-5]; p<0.0001、有意差は過去の奏効率と比較)

ただ化学療法なしのpCRは、そのままiDFSやOSに直結するかはまだわかりません。

今回はgroup Bの3年iDFSの報告になります。

 

試験デザインですが、phase 2のランダム化試験です。

18歳以上でHER2陽性乳がんのstageⅠ~ⅢAまでが適格(腫瘍径15㎜以上)。

PET-で集積を認める部位が1か所必要です。

取り込みの基準はSUVmaxが肝臓の平均標準取り込み値に標準偏差を加えたものを1.5倍以上であれば有意な取り込みと定義されています。

両側乳癌や局所再発の場合は参加できません。

 

層別因子はホルモン受容体の陽性、陰性です。

さて治療のやり方は以下。

非常に複雑です。

さらに実はgroup Cも存在しています。

遠隔転移がPETで分かった場合のグループみたいで今回は解析対象に入っていません。

 

文章は最初に書いた通りで、付け加えると内分泌療法は閉経後ならレトロゾール、

閉経前、閉経期はタモキシフェンが使用されます。

Group Bの中でSUV maxが40%以上の減少となった場合HER+PERを継続します。

もし40%以下ならTCb+HPに切り替えることになります。

手術の仕方は各主治医にゆだねられますが、最終投与から2-6週間以内に行うような規定になっています。

 

Group Bの奏効群にもかかわらず手術でpCRが得られていなかった場合、

TCb+HPの術後治療が行われ、基本的にHPは18サイクル行います。

 

Primary endpointはgroup Bの奏効群におけるpCR rate。

また各グループの3年iDFSを報告しています。

Primary endpointのpCRが達成できた場合はα=0.05、達成できなかった場合はα=0.025と事前に規定されています。

3年iDFSは、手術を受けたB群に割り付けられた患者の3年iDFS率が89%以下である。という帰無仮説で計画されています。

また対立仮説は、3年iDFS発生率が95%以上であることとして、

B群に284人の患者を登録すれば、25%の脱落率を仮定して片側α=0.025で80%の検出力が得られると推定。

症例設計は355人をエントリーし、1:4の割合で無作為に割り付け71人をA群に、284人をB群に割り付ける計画となっていました。

 

結果です。

376人がエントリーされ、21人に転移を認めていたため、

356人がgroup Aに71人(19%)、group Bに285人(76%)振り分けられました。

患者背景はこんな感じ。

ホルモン陽性HER2陽性が6割、pure HER2が4割くらいです。

 

pCRに至らなかったgroup BでPETで非奏効と判定された3例でT-DM1が行われ、

pCRに至らなかったgroup Bの奏効例11例ではプロトコールで定められた術後補助化学療法、

つまりはTCb+HPがおこなわれませんでした。

 

Group Bの267例中14例(5%)でイベントが発生。

3年iDFSは94.8%でsecond primary endpointを達成しています。(p=0.001)

14例中8例は遠隔転移再発です。

そのうち7例はpCRが達成できず、5例がPET反応群でした。

8例のうち6例はリンパ節転移陽性でした。残り2例はリンパ節転移陰性のstageⅡです。

他のiDFSイベントは体側乳癌、領域リンパ節再発、卵巣がん、自殺など…

3年iDFSはホルモン受容体はリンパ節転移、HER2の発現でも差はありませんでした。

非遠隔転移生存は96.5%になります。

 

Group BでpCRが得られ、治療期間中化学療法を受けていない群である86例では、

3年iDFSが96.4%と非常に高い数値で、そのイベントも局所再発と卵巣がんでした。

遠隔転移は認めていません。

対象となるgroup Aでは3年iDFSが98.3%、非遠隔転移再発も98.3%でした。

Group Aとgroup B全体を比較すると3年無イベント生存は98.4% vs 93.5%で、

group Bのほうが若干数字が低い結果でした。

 

Group Aでは68例中6例(9%)、group Bでは283例中6例(2%)が有害事象で治療を中止しています。

Grade 3以上の有害事象はgroup Aのほうが多くかったですが、

(grade ≥3, 42 [62%]of 68 patients vs 93 [33%] of 283 patients, 

serious adverse events, 19 [28%] of 68 patients vs 39 [14%] of 283 patients).

化学療法が入らなかったgroup Bではgrade 3の有害事象は1例のみでした。

 

Discussionです。

術前にHER+PERだけを使っている試験は他にもあります。

NeoSphere試験やTRYPHAENA試験がそれにあたります。

それぞれ3年DFSが92%, 88%。

KRISTINE試験でも3年iDFS 92%でした。

ただこれらはHER+PERだけで行った試験ではなく、最後にアンスラサイクリンを使用したりしています。

 

この試験の注目点の1つに、治療の方法にかかわらずpCRは成績が良好だったとありました。

個人的には「化学療法を使用した上でのpCR」が予後と相関すると考えていたので、

この結果でその考えを変える必要があるかもしれません。

ただ心配しているのは晩期再発とか起きないかなぁというところ。

まあもともと全身治療がさほどされていない時代でもHER2とTNBCは5年以降の再発は少ないはずなので大丈夫だとは思いますが。

 

De-escalationがここ最近注目されていますが、ついにHER2陽性乳がんでは化学療法が不要。

というところまで近づいています。

ただ評価は慎重に行う必要があって、しばらくは実臨床では使えない(PET-CT何回も撮らなきゃいけないし)でしょうね。

この試験を大規模にしたPHERGain-2試験というのも走っているようです。

Escalation治療としてエンハーツを使う試験も走っているし、これからHER2陽性の治療戦略はまた複雑になっていきそうですね…

 

この試験のlimitaionはサンプルサイズが少ないことと、観察期間が短いことを挙げていました。

通常の第3相非劣性デザインでこれを検証するには数千人の患者と十分な観察期間が必要みたいです。

観察期間に関してはHER2陽性とTNBCは3年までの再発が特に多いことから、

他の試験も3年無再発をendpointにしていることが多いので問題ないかもしれませんが、

サンプルサイズを大きくするにはかなりのパワーがいります。

 

ただこの試験の時点で素晴らしい取り組みと、素晴らしい試験デザインがされていると感じました。

まずはPET-CTの保険収載に「HER2陽性初期乳がんの治療戦略を立てる場合」という文言をいれるところからだなー