Neoadjuvant eribulin in HER2-negative early-stage breast cancer (SOLTI-1007-NeoEribulin): a multicenter, two-cohort, non-randomized phase II trial
npj Breast Cancer (2021) 7:145 ; https://doi.org/10.1038/s41523-021-00351-4
ショートサマリー:
エリブリンは、前治療歴のある進行乳癌患者の全生存期間を延長します。
ただ、この薬剤が最も有効であるバイオマーカーは存在しません。(ALC, NLR, PLRあたりはありますが)
SOLTI-1007-NeoEribulinは、NACでエリブリン単剤を受けるステージ1-2のHER2陰性乳がん患者を対象とした、
第2相非盲検探索的薬理ゲノム試験です。
Primary outcomeは、ベースラインの腫瘍遺伝子発現と、手術時の病理学的完全奏効(pCR)との関連を検討することです。
主なsocondaryは、全患者とホルモン受容体の状態によるpCR率、治療中の遺伝子発現の変化、安全性。
ホルモン受容体陽性(HR+)111人とトリプルネガティブ(TNBC)73人がリクルート。
pCR率は全患者で6.4%、HR+で4.9%、TNBCで8.2%。
TNBCコホートはPDが30.1%と圧倒的に高く中止。
pCR rateはHER2 enrichで28.6%、Normal-likeで11.1%、Luminal Bで7.9%、Basal-likeで5.9%、Luminal Aで0%。
(HER2 enrich vs その他でodds ration 7.05, 95%CI 1.80-42.14, p=0.032)。
※このHER2 enrichは遺伝子プロファイルによるもので免疫染色はHER2陰性
手術時のサブタイプの変化は33.3%の症例に認められ、その大部分(49.0%)はLuminal BからLuminal Aへの変化、
またはBasal-likeからNormal-likeへの変化でした。
ベースラインの腫瘍浸潤リンパ球(TILs)はpCRと有意に関連していました。
安全性については周知のとおり安全でしたが、奏効率およびpCR rateは低いという結果。
HER2 enrichでエリブリンが最も有効である可能性があって、
Luminal BおよびBasal-likeサブタイプではサブタイプの変化をもたらす可能性があります。
基礎的な研究を伴った試験です。
備忘録なのでざっといきます。
試験デザインはこんな感じ。
Phase 2とはいえこんな試験が許されるのか…
日本だと考えられないけど…
術後治療をちゃんと主治医が行うことで許容されているのでしょう。
患者背景はこんな感じ。
あまり参考にはならないですが。
pCRの他、residual cancer burdenも検討されています。
Residual cancer burdenはMDアンダーソンが開発したもので、
NAC後の病理で残存腫瘍量の程度を大まかに測定して予後不良症例を予測するモデルです。
①浸潤癌の最大径②浸潤癌の細胞密度③転移リンパ節個数④リンパ節転移の最大径の4項目から計算されます。
それらの結果は以下の通り。
LuminalはもともとpCR率は低いですがエリブリン単剤でも治療効果は乏しいです。
RCBの0-1についてはpCRより症例数増えますがそれでも1割程度になります。
アンスラータキサンやってもさほど変わらないのでここは良いでしょう。
TNBCについてはPD 30%とまずい結果。
TNBCに対してはwPTXだけでも20%くらいがpCRになります。
PTX+CBCDA+PEM - EC+PEMは60%以上なのでパワーを感じます。
臨床病理学的因子(年齢、ホルモンstatus、腫瘍径、閉経状態、リンパ節転移状況、ki67、HG)でpCRと相関する物はありませんでした。
さて大事なのはここから。
Primary outcomeである遺伝子発現とpCRの関係です。
540の遺伝子が調べられていて、HR+群では19の遺伝子がpCRと有意に相関していました。
そのうち高発現で相関していたのはMELK, BLM, DENPN, E2F1。
逆にS100A14は非奏効と相関していました。
TNBCでは相関する遺伝子はなし。
Intrinsic subtypeとpCRとの相関について
HR+ではluminal Bが最多、次いでluminal A, basal-like, normal-like, HER2 enrichedでした。
TNBCでは86.2%がbasal-like、次いでnormal-like, HER2 enriched。
最もpCRが多かったのはHER2 enrichedで28.6%。
次いでnormal like, luminal B, basal likeでluminal Aは0例でした。
PDになってしまった症例はbasal likeが83.3%とほとんどでした。
まさかのluminal Aで2例PDが。
Luminal Aにはほんと抗がん剤効かないんでしょうね。
次にPAM 50を用いたリスク分類ROR scoreや、chemo-endocrine score(CES)、
hypoxia, claudin-low signatureとの関連を見ています。
先のHER2 enrichedはpCRと相関。一方でnormal likeは逆相関しています。
ROR-subtypeはpCRと相関が得られていていますが、その他のスコアは有意差なしです。
TILsは多くが10%未満で中央値が5%。
中央値をcut offとしてTILsはHR+に比べてTNBCで有意に高かったと。そりゃそうだ。
Intrinsic subtypeで見るとbasal-likeが最も高く、次いでHER2 enriched, luminal B like, normal-like, luminal Aです。
pCRとTILsは有意に相関していました。(OR = 1.04; 95% CI 1.01–1.08; p = 0.042)
さて2サイクル目で生検を行った症例の遺伝子についてです。
30の遺伝子がpCRと関連していました。
遺伝子発現が多かったTWIST1/2, CAV1, FABP2, ZEB1/2はpCRと関連。
一方で上皮系を示唆するEPCAM, GRIHL1, CLDN4の上昇はnon-pCRと相関していました。
HR+群で2サイクル時点でのintrinsic subtypeはluminal A, luminal B, normal-like, basal-likeの順。
Luminal Bが減ってnormal-likeが増えています。
TNBCについては多くがBasal likeであまり変わらずですがnormal-likeは増えています。
手術時になると
手術時にpCRになっていたのは、2サイクル時点でnormal-likeだった場合やや多く29例中5例(17.24%)。
2サイクル時点でnormal-likeじゃなかった場合、135例中5例(3.70%)でした。
2サイクル時点でnormal-likeに切り替わったのは、早期に反応したことで正常乳房組織の割合が増加したことを反映している可能性が高いと。
一方で2サイクルにおける上皮系を示唆する遺伝子の発現低下は、間葉系遺伝子の増加を示唆している可能性があります。
各遺伝子の2サイクル目とベースラインとの比を用いると、同じシグナル分布が観察されていました。
つまりは、間葉系遺伝子の増加および上皮系遺伝子の減少は、手術時のpCRと関連していたとうことになります。
TILsの変化について見てみると、134検体(77.0%)がペアで解析可能で、
ベースライン検体と比較して、2サイクル目におけるTILsレベルは有意に高くなっていました。
(平均差+3.18%、95%CI 0.76-5.60、p = 0.014)
Basal-likeとluminal B有意に上昇していました。
ただこの変化量とpCRには相関がありませんでした。
最後に手術時の検体での検討です。
手術時、90例中44例(48.8%)がベースラインからサブタイプの変化がありました。
Luminal A, luminal B, normal-like, basal-likeの順です。
TNBCでは、42人中5人(11.9%)が2サイクル目よりサブタイプの変化がありました。
手術時には、42人中10人(48.8%)がベースラインからサブタイプの変化があり、
Basall-like, Normal-like, HER2-enrichの順は変わらず。
Luminal Aとnormal-likeは、2サイクル目と手術時に増加しましたが、
増殖関連遺伝子を含む他のPAM50サブタイプとシグネチャーは、エリブリン治療中に発現が低下していました。
間葉系は…やっぱり上がってますね…
最後に、ベースライン検体と手術検体との間で発現が変化した遺伝子を同定するために、
対になっている検体でSAM解析なるものを行っています。
ベースライン検体と比較して、手術検体では73(13.5%)と145(26.8%)の遺伝子がそれぞれ過剰と過小になっていました(FDR<1%)
その中で、luminal関連遺伝子(ESR1、NAT1)
アポトーシスの抑制(BCL2、IL6)
血管新生(ANGPTL4、HIF1Aなど)
細胞周期関連遺伝子(CCNB1、RAD17、MKI67など)
微小管細胞骨格組織関連遺伝子(AURKA、CENPA、KIF23など)の発現が減少していました。
安全性については割愛します。
Disucssionです。
エリブリンは遺伝子の変化の他、遺伝子発現が変化してintrinsic subtypeが変わり、
エリブリンに対する反応に関連していることが示唆されました。
NACでエリブリン/シクロホスファミドとドセタキセル/シクロホスファミドを比較した研究があるようですがpCR率は同等。
HOPE試験では、TNBCにおいてNACでアンスラタキサン後にエリブリンを投与しましたが、pCR rateはさほど良い結果は出せず。
さらにアンスラタキサンをベースとしたNAC後にnon-pCRだった場合にエリブリンを追加する試験でも、
primary endpointであるDFSを達成できなかったとエリブリンの試験は苦しんでいます。
今回評価した540のmRNAのうち、pCRと有意に関連する18遺伝子の発現を同定しています。
その中でMELKやBLMのような増殖遺伝子、CENPNやE2F1のような細胞周期遺伝子はpCRと関連していました。
これらの転写産物のうち8つ(MYBL2、E2F1、UBE2C、SPAG5、MELK、TAP1、RRM2、BLM)はp53の下流に位置していて、
これらの下流因子はp53-DREAM経路によって制御されています。
p53-DREAM複合体は250以上の遺伝子を制御しており、そのほとんどが細胞周期に関連しています。
これと一致して、p53の欠損はNACにおけるパクリタキセルに対する効果と関連しているとのこと。
一方、S100A14の発現はエリブリン投与後の手術時の残存病変と関連していました。
S100A14ファミリーのタンパク質は、腫瘍によって役割が異なっていて、
乳癌ではS100A14の発現が予後不良因子とされています。
そのメカニズムの一つはアクチンとの相互作用で、
この細胞骨格動態との相互作用がエリブリンに対する抵抗性に関連しているのかもしれません。
エリブリンは血管のリモデリング、上皮間葉転換、がん細胞の遊走、浸潤、転移の抑制などの非有糸分裂活性も示してます。
その効果の一つは、より攻撃性の低いsubtypeを誘導することになります。
この研究では他の研究同様、手術残存検体のほとんどがLuminal AまたはNormal-likeになっていました。
Luminal Bの44.44%がluminal Aに変化しています。
これは内分泌感受性遺伝子の発現増加と増殖関連遺伝子の発現減少と合致してます。
ただしこれがベースラインでの腫瘍細胞の生物学的変化によるものか、
エリブリンによるクローンの選択によるものかは不明です。
将来的な示唆として、エリブリン治療がluminal Bにおけるホルモン感受性の亢進の引き金となっていそうなので、
エリブリンとホルモン療法を併用するREVERT試験(NCT03795012)で検討されているようです。
間葉系発現って…上昇するんですね…
化学療法奏効すると間質増える感じはありますが…
EMTとの関連は示しにくいのかしら…