備忘録

Breast Cancer Metastasis: Mechanisms and Therapeutic Implications

Int. J. Mol. Sci. 2022, 23(12), 6806; https://doi.org/10.3390/ijms23126806

 

上皮間葉転換((Epithelial Mesenchymal Transition)はもともと上皮細胞である乳がん細胞が、

極性や結合性を失い転移ができるような状態になる現象です。

EMTを防ぐためのトランスクリプトーム(細胞に存在するmRNA、ノンコーディングも含む)因子には
SNAIL, TWIST, zinc finger E-box-binding(ZEB)が重要とされています。

GATA3の発現低下や機能不全が、ZEB2によってリクルートされるG9Aやmetastitic tumor antigen(MTA)ファミリータンパクを制御し、乳がんの転移を促進することが示されています。

 

IL6は転移に関連する重要な炎症性サイトカインです。

IL6とgp130複合体はJanus kinase(JAK)を活性化し、

signal transducers and activators of transcription 3(STAT3)を活性化します。

IL-6/STAT3のシグナル伝達はERαを抑制し転移を促進します。

 

さらに細胞表面のタンパクも転移には欠かせない存在です。

がん細胞と細胞表面の相互作用が、細胞接着と浸潤を媒介して転移を引き起こしています。

例えばmetaherinの過剰発現は40%以上の乳がんで起こっていて、

細胞外ドメインのC-terminal segmentを介して肺血管系へ結合し転移を引き起こします。

 

癌微小環境も大事です。

乳癌では主要関連のマクロファージはM2というサブタイプが担っています。

CD4+T cell(すなわちヘルパーTcell)から分泌されるIL-4で活性化します。

そのマクロファージから分泌されるケモカイン、炎症因子、成長因子は

細胞外マトリクスへの接着を増加させ、これまた転移と強く関連しています。

これらの免疫細胞や分泌因子は転移性乳がん治療の標的となりうるといえます。

 

EMTを起こした細胞は性質的に幹細胞と似たような性質を持ちます。

つまりは治療への抵抗性を持つためやっかい。

ここを標的とした治療法も検討されています。

 

さて、乳がんにおけるトランスクリプトームです。

EMTの関連するトランスクリプトーム因子はE-カドヘリンの阻害を持つかどうかによって異なります。

E-カドヘリンは上皮細胞接着に関するタンパクで、よく乳管がんと小葉がんの鑑別で出てきます。

E-カドヘリンの消失はがん細胞の浸潤を可能にし、結果、腫瘍転移に関与しています。

小葉がんが広がりやすく、変な転移を起こしやすいことも納得です。

 

E-カドヘリンの消失は、TGFβ, 活性酸素, アポトーシスシグナル伝達経路の変化に関連する遺伝子の増幅と関連しています。

E-カドヘリン阻害はN-カドヘリンやビメンチンを含む間葉系マーカーを上昇させます。

TWIST1, SLUG, SNAIL, ZEB1(TCF8/dEF1), ZEB2(SIP1), FOXファミリーは、

トランスクリプトームのE-カドヘリン転写阻害因子であることがわかっています。

もちろんこれらの因子だけでなく、いろいろな因子の組み合わせで治療抵抗性や進行、浸潤、転移が起こっています。

 

これらの因子は予後不良因子ということもわかっています。

TWIST1はTWIST1とMi2/nucleosome remodeling and deacetylase(Mi2/NuRD)タンパクの複合体を誘導し、

E-カドヘリンのプロモーター領域のメチル化や低アセチル化と関連しています。

SNAILもE-カドヘリンのプロモーター領域に結合してE-カドヘリンの発現を阻害。

ビメンチンの発現を増加させ、EMTを誘導しています。

SNAILはH3K9me3を担う主要なメチルトランスフェラーゼであるSuv39H1(repressor of variant 3-9homologue 1)と相互作用し、

エピジェネティックな制御を通じて乳がんの転移を起こすことがわかっています。(自分にはよくわからない)

 

ZEBファミリーはE-カドヘリンの発現を抑制し、他のクロマチン調節因子をリクルートして、

ビメンチンとN-カドヘリンの発現を促しています。

全ゲノム解析では、ZEB1はactivating protein-1(AP-1)とYes1 Associated Transcription Regulator(YAP1)は、

腫瘍促進遺伝子を活性化させ、悪性度の高い形質を作り出していることがわかっています。

 

乳がん幹細胞化について

Aldehyde dehydrogenase 1(ALDH1)は幹細胞化するときに発現します。

CD44+/CD24- and ALDH1はbreast cancer stem cells(BCSCs)のマーカーとされています。

同マーカーが高いと、同時に間葉系マーカーも上がっています。

SLUG, TWIST1, FOXF2あたり。

SLUGはTNFαとIL-8の発現を誘導して、細胞質-βカテニンの安定性を改善させます。

その結果、β-カテニンに結合したmiR-221は、Rad51とERを減少させ、

BCSCにおける炎症性表現型を維持したとのこと 。

 

またTWIST1の発現は、幹細胞の特徴を誘導することが示されています。

TWIST1はCD24とトランスクリプトームのCD24発現調整因子を調整し乳癌の幹細胞能を維持します。

 

なんか研究できるかな…