Topical Diclofenac for Prevention of Capecitabine-Associated Hand-Foot Syndrome: A Double-Blind Randomized Controlled Trial
J Clin Oncol. 2024 Feb
https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO.23.01730
手足症候群は経口FU薬の特徴的な副作用です。
現時点での対策はとにかく保湿。
増悪した時にはステロイド含有軟膏が使われますが、実はここはエビデンス不十分です。
乳がん領域では最近TS-1を使うことが増え、TS-1の手足症候群もまずまず経験しています。
有効な予防法はないのでしょうか。
ショートサマリー
手足症候群はゼローダのdose downにつながってしまう副作用です。
セレコックスは炎症に関連するCOX2を阻害することで手足症候群の予防をしてくれます。
しかし副作用もあるためルーチンには使用されません。
局所のジクロフェナクはCOX2を局所的に阻害し、副作用も最小限にしてくれます。
この試験では局所のジクロフェナクがゼローダによる手足症候群を予防できるかを検討しています。
単施設の二重盲検ランダム化phase 3です。
乳がんもしくは消化器がんでゼローダベースの治療を計画している患者さんが対象です。
1:1に振り分けられ、ジクロフェナクゲルとプラセボゲルを12週間、
もしくは手足症候群が発症するまでどちらか早いほうまで継続します。
Primary end pointはgrade 2, 3の手足症候群の発生で、
ロジスティック解析で比較を行います。
264人エントリーし、ジクロフェナクゲルが131人、プラセボが133人。
grade 2 or 3の手足症候群はジクロフェナクゲル群で3.8%、
プラセボ群で15.0%と絶対値11.2%; 95% CI, 4.3 to 18.1; P =0.003で、
有意差をもってジクロフェナクゲル群が手足症候群の発生を抑えていました。
Grade 1を含めても6.1% vs 18.1%(11.9%, 95% CI, 4.1 to 19.6)でした。
手足症候群による減量もジクロフェナクゲル群が3.8% vs 13.5%と、
絶対値9.7%; 95% CI, 3.0 to 16.4で少ないという結果でした。
結語として局所のジクロフェナクゲル投与はゼローダによる手足症候群の発生を予防してくれます。
イントロダクションで勉強になった点です。
ソラフェニブによる手足症候群には尿素ベースのクリーム(ウレパール)が有効なのがわかっているようです。
ただゼローダによる手足症候群には今のところ効果が証明されていません。
セレコックスは手足症候群の予防に有効なことが証明されていて、
grade2, 3の発生を29.6%から14.7%まで下げてくれたようです。
さて、ジクロフェナクゲルではどうでしょうか。
方法ですがインドで行われた試験です。
適格基準は乳がんか消化器がんでゼローダを使う予定の患者さんです。
層別因子は性別、ゼローダ単剤か併用かです。(以前の報告では女性、併用で手足症候群が多かったとのこと)
治療方法としては1%の局所ジクロフェナクゲルかプラセボゲルかを、
本人、医師ともにわからないようにして二重盲検で渡します。
ジクロフェナクゲルは変形性関節症で使われていて、
変形性関節症では2gを1日4回までという用法なので、
今回の予防ではやや少なく1gを1日2回という設定にしています。
第一関節までゲルを出すと約0.5gになるので、それを手のひら、甲にそれぞれ塗るように指導されています。
12週間までと設定しているのは、変形性関節症では12週以降の安全性が確立していないため、
かつ12週までにはまず手足症候群は発生するため、12週までと設定したようです。
評価方法はCTCAEの手足症候群に準じています。
Grade 2,3はQOLに支障をきたす可能性があるとしてprimary endpointに設定しています。
Secondaryにgrade 1-3の手足症候群の発生、ゼローダ減量との関連、手足症候群発生までの期間、
使用についてのセルフレポート、有害事象などを挙げています。
症例設計数ですが、80%の検出力でαエラーを0.05とし、
Grade 2, 3の発生差が15%と想定(30% vs 15%)して264例としています。
結果です。
131例のジクロフェナクゲル群と133例のプラセボゲル群に振り分けられました。
1例のロストがあり263例で評価されています。
女性が7割で、乳がんが半数以上を占めています。
消化器がんでは結腸がんが最多でした。
6割弱が化学療法と併用。併用薬はオキサリプラチンが最多でした。
さて、結果ですが25例(9.5%)でgrade 2, 3の手足症候群が発生し、
ジクロフェナクゲル群では5例(3.8%)、プラセボゲル群では20例(15.0%)でした。
絶対リスク減少は11.2%。性別や治療法で調整をしても11.3%の絶対リスク減少がありました。
Grade 2, 3ともにジクロフェナクゲル群が少なかったと。
Grade 1-3だと、ジクロフェナクゲル群で8例(6.1%)、プラセボゲル群で24例(18.1%)でした。
ゼローダの減量もジクロフェナクゲル群で明らかに少なかったと(3.8% vs 13.5%)。
観察機関中央値は12週間で、手足症候群発症までの期間中央値は両群とも未到達でした。
Grade 2-3の手足症候群が発生するまでの期間は、ジクロフェナクゲル群で6週間、プラセボゲル群で9週間。
アドヒアランスは両群とも90%以上でした。
QOLについても3.5 vs 12.4ポイント(高いほどQOL悪い)でジクロフェナクゲル群で良好でした。
探索的研究で、女性での発生は4.4% vs 15.6%と若干数値が上がります。
単剤治療では3.6% vs 19.2%、併用療法では4.0% vs 12.3%。
その他いろいろなサブグループでみてもジクロフェナクゲル群で有効でした。
有害事象は50.2%で報告があり、ジクロフェナクゲル群で49.2%、プラセボゲル群で51.1%でした。
Grade 3の有害事象は11.5%と13.5%で、
最も多かったのは口内炎、grade 3以上では下痢が最多になりました。
病気の進行や死亡例もいくつか報告されていますが、ジクロフェナクゲルとは関連がなさそうです。
Discussionです。
ジクロフェナクゲルで約9人に1人手足症候群を減らせることになります。
セレコックスでも15%くらいで9人に1人くらいですので似たような数字になります。
セレコックスは心臓、胃腸障害があるため臨床で積極的な推奨になっていません。
ゼローダとチロシンキナーゼ阻害剤の手足症候群は機序が違っているため、
チロシンキナーゼ阻害剤の手足症候群はこれらの薬剤では予防できないでしょうとありました。
ただ減量せずゼローダを投与できることは、結果的に良好な生存につながるかもしれません。
乳がんではトリプルネガティブのnon-pCR(保険適応外ですが)、
再発治療の2nd line以降で出番があるかもしれません。
この研究の限界として、単施設の報告であること。
用法容量については変形性関節症をもとに経験則で決定していること。
1例解析ができず試験デザイン通りできていないこと(1例くらい大丈夫じゃんとは思いましたが…)。
12週以降は評価できていないことを挙げていました。
我々が使えるのはボルタレンゲルですね。
ジクロフェナクゲルやクリームで市販もされているようです。
ただ、注意してほしいのはデータは少なく、さらに保険適応外使用です。
あくまで私から推奨はできません。
ああ、実名を出してのブログだとこのあたりのコンプライアンスが難しい…