Non-surgical ablation for breast cancer: an emerging therapeutic option

Lancet Oncol. 2024 Mar;25(3):e114-e125.

 

乳がんは、局所治療で手術ではなくラジオ波焼灼療法や凍結療法が行われています。

ただエビデンスとしては十分ではありません。

しかし最近ラジオ波焼灼療法が突如として保険適応となりました。

京都大学の戸井先生がレビューを書かれていたので読みます。

 

ショートサマリー

Non-surgical ablationは初期の乳がん患者さんの局所治療のオプションであり、

経皮的に2つのデバイスがあります。ラジオ波焼灼療法と凍結療法です。

どちらの手技も腫瘍の中心を壊死させ、忍容性の試験では乳房の形態を保ったまま完全に腫瘍を焼灼できていました。

ただ、非外科的切除術と従来の外科的切除術を直接比較した臨床研究はほとんどありません。

観察研究では、局所制御率は許容範囲内で、長期生存率に悪影響はないとされています。

これらの経皮的な焼灼には、日常臨床に取り入れる前に解決しなければならない問題が残っています。

そこで、非外科的切除術の課題を議論し、臨床的なマネージメントとその適応を明確にするためにコンセンサス会議が開催されました。

このPolicy Reviewでは、免疫調的な効果や将来的な応用の可能性など、

非外科的切除術の広範な生物学的側面について述べます。

 

イントロダクションです。

ラジオ波焼灼は局所制御や遠隔転移の部分的な制御で有効であることは証明されています。

遠隔転移についてはいわゆるオリゴ転移で有効性が検討されていますが、

肝転移については特に有効ではないかといわれています。

乳がんについては手術に代わる局所制御の方法が検討されており、

興味深かったのが、吸引式切除という癌を掃除機のように吸って切り取ってしまうやり方もあるみたいです。

現在、普通の手術+センチネルリンパ節生検と吸引式切除の比較試験がされているようです。(SMALL trial (ISRCTN 12240119))

適格としては小葉癌じゃないこと、腫瘍径が15㎜以下、ちゃんと術後治療が行われることなどがあるようです。

ほえー。

 

さて、今回はラジオ波焼灼療法と凍結療法についてです。

・ラジオ波焼灼療法と病理学的や生物学的な影響

ラジオ波焼灼療法は熱による効果が大事で、腫瘍壊死は総エネルギー線量によって決まり、

この線量は適用温度と照射時間によって決まります。

中心の温度を46℃にして60分あてると非可逆的に細胞はダメージを受けます。

腫瘍の形態と血流によって効果は大きく変化するため、適切な治療計画が必要です。

一般的には高熱を短く当てるのが最も有効だそうです。

日本で行われた試験では中央値9分間の焼灼で中心温度を85℃にするやり方で、

HE染色とNADH染色(この染色法がスタンダード)で88%が完全に焼灼されたと報告されています。

焼灼範囲は3.7x2.5㎝が中央値だったみたいです。

ただ乳腺組織の密度や脂肪の量などによって変わり、その程度はまだ不明とのこと。

一方で凍結については、中央値4.5x3.1cmの範囲で有効なようです。

 

こういった焼灼や冷却は局所制御で有効な結果は出ていますが、

さらに研究レベルでは局所、全身に免疫学的な応答があって、

放射線でいうアブスコパル効果が得られているとのこと。

実際に膵臓がんに対するラジオ波焼灼療法はリモデリングを刺激し、

遠隔の免疫反応を促進して微小環境に影響を与える可能性があるというデータもあるようです。

もしこれが本当なら、乳がんに対しても検討が必要で、

それこそ免疫療法と併用して良好な成績が得られるかもしれません。

 

・早期乳がんに対してのラジオ波焼灼療法

前向きの無作為試験はまだ多くないですが、単施設での報告などで行われたメタアナリシスは報告されています。

2000年ころから試験が行われ始め、多くは100例以下の小規模な試験です。

大事なのは腫瘍径で、多くは2㎝以下を適格基準としています。

ただそれ以上の3㎝や3.5㎝を基準としているものもちらほら。

腫瘍径の中央値は1~1.5㎝くらいになっています。

 

また、一部は高齢の患者さんのみに絞っていたりしていますが、

乳房内再発が起きやすい40歳以下でも適格にしているものもあります。

さらに麻酔についても全身麻酔でやるものもあれば局所麻酔でやるものもあると、

結構適格基準や施行方法がばらばらなようです。

 

また、後ろ向き試験ですが、

386人の5年局所制限率は1㎝以下で97%、1.1-2.0㎝で94%、2.1㎝以上で87%と報告しているものもあるようです。

後ろ向き試験とはいえ、成績としてはなかなかですね。

 

ラジオ波焼灼を計画するときに大事になるのが乳管内進展です。

基本的にはMRIは必須で、マンモグラフィーとエコーを合わせて進展がないことを前提としています。

エコーガイド下に針を刺入して焼灼を行い、マンモグラフィーとMRIで焼灼がちゃんとできたか判定します。

 

放射線照射は基本併用になるようで、基本的に温存術と同じような感じであてるようです。

焼灼もだいたい最低5㎜のマージンを取って行います。

腫瘍が残っているかどうかはMRIで判断しますが、肉芽組織なのか腫瘍残存なのかの見極めは難しい様子。

ただ焼灼跡3-4週間後に造影MRIを取るとある程度判断がつくようで、

イレギュラーな造影効果がある場合腫瘍残存を疑う必要があるようです。

 

そもそも放射線いるのかという話を、温存術後の放射線省略の試験結果(PRIME II試験)をもとに論じていました。

PRIMEⅡ試験自体は、放射線療法なし9.5% vs 放射線療法あり0.9%;HR 10.4[95%CI 4-1-26-1];p<0.001で、

有意に放射線照射群が局所再発が少ないという結果でした。

しかし遠隔再発(1.6% vs 3.0%)、全生存率(80.8% vs 80.7%)には影響しないということで放射線いらんのではないかと。

 

また内分泌療法省略についても、60歳以上で低悪性度、リンパ節転移陰性で10㎜以下ならほぼ予後が変わらないという結果があるようです。

ただこれは前向き研究ではないので注意が必要。

まだ手技として確立したものでもないので、この議論は時期尚早ではないかなと思います。

 

次に凍結療法です。

これも2000年前後くらいから報告が出始めました。

やはり小規模な前向き試験が散見しています。

ただこちらは1-2㎝に限っている症例が多く、ラジオ波焼灼より症例を絞っています。

個人的には賢明だと思います。

こちらは局所麻酔で行われることがほとんどです。

ただスタンダードなやり方というものは存在せず、治療効果についてラジオ波焼灼療法同様に画像診断は行っていますが、

凍結させた後にバックアップで手術をして、治療効果を判定するという方法もあまりとられていません。

 

Phase 2のICE3という試験では、60歳以上でグレードが低く、ホルモン陽性HER2陰性、15㎜以下の194例が登録され、

中央値35ヶ月のフォローアップで局所再発率は2.1%だったと報告しています。

外科的切除と比較しても凍結療法後の局所再発の明らかな差はないとしています。

 

・合併症と整容性

焼灼、凍結の合併症で最も多いのは皮膚障害です。

ただ全体では5%未満と低い様子。

先ほどの焼灼療法の後ろ向きの386例では、皮膚熱傷が3.9%、局所痛が2.3%、乳頭の引き連れが1.8%と報告していて、

腫瘍のサイズとこれらの合併症は関連がないと報告しています。

凍結療法では194例で打撲(?)、局所浮腫・血腫、皮膚の軽度凍傷、発疹、硬結、痛みの症状などが報告されていて、

装置に関連した有害事象のほとんどは軽度か中等度レベル。

 

両手技ともに重篤な有害事象は報告されていないようで、

基本的に普通の針生検と同じくらいの有害事象を想像してもらったらいいみたいです。

焼灼についての皮膚熱傷は、皮膚冷却を併用する方法が検討されているようです。

 

整容性については評価方法が難しいですが、まず患者満足度としては90%を超えているようです。

放射線が死亡壊死の部分に線維化を引き起こすようですので、長期成績結果も大事そうです。

同様に局所再発の長期成績についてもまだデータ不十分です。

今後ガイドラインの制定が必要で、症例選択、施行方法、術後管理など専門的に身につける必要があるでしょう。

もし行う場合は、最低症例数の研修を受けないとダメみたいです。

 

・生検による病理検査

完全焼灼できたかの証明には病理学的な検査が必要です。

京都のコンセンサス会議では、4本の生検をVABで行うべきだと。

根拠となっているのは論文化はされていないようですが、

4本とるといわゆるlumianl A likeとB likeの生検と手術検体での変化が最も少なかったからとのこと。

St gallenでも生検検体で基本的には術前治療を決めていいとコンセンサスが得られています。

まあ基本的には術前診断をしっかりした上で、臨床的にlow riskな群にしぼってやりなさいとのことです。

 

・焼灼、凍結への提案

先ほど出てきた京都のコンセンサス会議での話し合いです。

提案としては、

1cm以下、低悪性度、画像上限局、臨床的にリンパ節転移陰性、luminal A like

この症例がよい適応でしょうと。

ちなみに下記が京都のコンセンサス会議の結果です。

 

DCIS、とくにlow grade DCISは範囲の同定が難しいため非外科的手術は適応できないとありました。

各種臨床試験も広範囲に広がるような乳がんは適応外にしています。

また、小葉癌は多発することが多いことから、適格から外すことが推奨されています。

 

2019年にPMDA(医療機器や薬剤の適応を決定する機構)はRAFAELO試験の結果から適応を確定しました。

凍結療法についてはまだガイドライン不十分とのことで適応が見送られています。

RAFAELO試験では適応が1.5㎝以下としていますが、京都コンセンサス会議では1㎝以下にして、

データが蓄積してきたら拡大していくという計画を立てているようです。

年齢は適格基準に入っていませんが、27%は60歳以上に限定するべきだと言っています。

ただ現時点ではそのあたりのコンセンサスを得るのは困難です。

 

・今後の展望

今後こういったnon-surgical ablationは技術や評価、合併症予防などが進めばさらに発展していくでしょう。

おそらく臨床的な最大径が1.5-2.0cmとあまり大きくない腫瘤に限って適応となるんじゃないでしょうか。

以前このブログでも取り上げた、センチネルリンパ節生検を省略するSOUND試験の結果から、

腫瘍径が小さいならセンチネルリンパ節生検も省略することも視野に入るのではないでしょうか。

 

完全に焼灼できたかについては慎重に検討する必要があると。

MRIやエコーはもちろんで、それ以外の方法がないかも検討が必要でしょう。

可能性の1つとして乳房PETが挙げられていました。

Db-PETという方法で、Dbの取り込みがなければ完全焼灼ができていると考えることも検討できると。

あとは、血管構造を可視化して、局所の酸素飽和度をモニタリングできる技術があるようです。

 

現時点でluminal A likeに絞ってやることが推奨されていますが、

例えばHER2陽性やトリプルネガティブのNeo adjuvant chemotherapy後にもいいんじゃないかと。

現時点で非切除という臨床試験が行われているくらいですので、

そのエスカレーション治療としてアブレーションを選択するのはいいかもしれません。

化学療法が完全に効ききらなかった症例はアブレーションで、

ほとんど聞いていなければ手術、という提案をしていました。

それはリスキーで普通の手術のほうがいい気がしますが…局所制御はどんどん縮小していくんですかね…

 

あとは組み合わせの治療の発展です。

焼灼や凍結はマウスモデルではCD8陽性細胞の腫瘍浸潤、

エフェクターメモリーT細胞の誘導、

血中Treg細胞の低下など免疫反応を誘導するようです。

いわゆる免疫環境をcold→hotにしてくれる可能性があるため、遠隔制御に役立つ可能性があります。

 

先行研究では、手術可能な乳癌患者19人に術前凍結療法もしくはイピリムマブの単回投与、あるいは併用が行われて、

凍結療法とイピリムマブの併用は、Th1サイトカイン産生の増加、末梢T細胞の増殖と活性化、

腫瘍内CD8陽性T細胞とTreg細胞の比率の上昇と関連していたそうです。

ラジオ波焼灼療法もまた、全身性免疫応答を誘導することが報告されています。

 

読んでみて俄然興味は沸いてきたなー

むやみやたらにやるのはよくないけど、適応を絞ればいい治療になるんではないかという印象を受けました。

どの病院も手術待ちがかなり多いので、一部の患者さんがこの治療に切り替えられれば、

そういった問題も解決できるかもしれません。