Efficacy and Safety of Trastuzumab Deruxtecan in Patients With HER2-Expressing Solid Tumors: Primary Results From the DESTINY-PanTumor02 Phase II Trial

J Clin Oncol 42:47-58

 

エンハーツは理論的にHER2が陽性であれば、どの癌であっても効果が得られます。

今回HER2過剰発現の固形癌に対するエンハーツの試験です。

 

ショートサマリー

エンハーツはHER2陽性の乳癌、胃癌と、HER2変異のある非小細胞性肺癌で適応を得ています。

他のHER2発現の癌での効果はまだはっきりしていません。

 

Phase2試験です。固形癌でHER2 3+か2+(FISHはいらない)となっていることが条件です。

局所進行もしくは転移性で、1レジメン全身治療が入っているか、他の治療方法がない場合が対象になっています。

Primary endpointは奏効率(ORR)。

Secondary endpointは安全性、奏効期間、PFS、OSです。

 

267例で7つの腫瘍のコホートが作られました。

子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、胆道癌、膵臓癌、その他。

結果ですが、12.75ヶ月の観察期間でORRは37.1%(n=99; [95% CI, 31.3 to 43.2])、

奏効期間中央値は11.3ヶ月(95% CI, 9.6 to 17.8)、

PFS中央値は6.9ヶ月(95% CI, 5.6 to 8.0),

OS中央値は13.4ヶ月(95% CI, 11.9 to 15.5)でした。

 

HER2 3+(75例)だと成績は爆上がりで、

ORRは61.3%(95% CI, 49.4 to 72.4)、

奏効期間中央値22.1ヶ月(95% CI, 9.6 to not reached)

PFS中央値11.9ヶ月(95% CI, 8.2 to 13.0)

OS中央値21.1ヶ月(95% CI, 15.3 to 29.6)です。

 

Grade 3以上の有害事象は40.8%に認め、10.5%が間質性肺炎を経験し、3例で死亡がありました。

 

この試験では前治療歴のあるHER2発現癌で臨床的な有効性、異議のある全生存期間、安全性が得られました。

HER2発現固形癌患者に対しての新たな治療になるポテンシャルを秘めています。

 

イントロダクションです。

最初にも書きましたがHER2は固形癌であれば発現する可能性があります。

結局癌というのは正常な細胞のどこかに異常を来して癌化することにより発症します。

その中でHER2を作る遺伝子が異常に増えればHER2陽性癌となります。

領域で言えば乳癌、胃癌、胆道癌、膀胱癌、膵癌、婦人科癌あたりです。

HER2発現は基本的には増殖能が高く予後不良で、化学療法の効果も限定的であるとされています。

 

HER2に対する治療は乳がん、胃がん、大腸癌、胃食道接合部癌、非小細胞性肺癌で行われていますが、

他の癌でHER2陽性でも標準治療では予後不良であり、その他の治療についても限られた物しかありません。

この試験ではHER2陽性の固形癌に対しての治療効果を検討しています。

 

多施設共同のphase 2試験です。

エンハーツの投与方法は乳癌と同じ3週間毎になります。

適格基準は18歳以上で、すでに適応が通っている乳癌、大腸癌、胃癌、非小細胞性肺癌以外の転移・切除不能癌があること。

また1レジメン以上の治療がされていて進行している、もしくは他の治療選択肢がないことが条件です。

全身状態は良好で、HER2は免疫染色でHER2 3+, 2+。

もともとステロイドを必要とするような間質性肺炎があるとエントリーできず、

疑わしい病変があればしっかりと間質性肺炎が除外されている必要があります。

HER2はDAKOのHercepTestが使われてて、乳がんの診断薬とは違っています。

 

エンハーツはこれも乳がんと同じで3週間毎。

6週間毎に画像評価でPDとなるか、継続できない有害事象が起こる、または患者さんの同意撤回があるまで試験は継続します。

 

Primary endpointは奏効率です。

Secondaryに安全性、奏効期間、PFS、OSを置いています。

SDの評価は乳癌では6週間の病状安定とされることがほとんどですが、

それよりやや甘く5週間で病状安定としています。

探索的な解析としてHER2が3+ or 2+で行われています。

 

結果です。

2020年7月から2022年7月で268例がエントリーされました。

1例だけ治療開始前に同意撤回があり267例が治療を受けています。

年齢中央値62歳。

中央値で2レジメンの治療を受けていました。多い人では12レジメン治療を受けています。

4割が3レジメン以上治療されており、

抗HER2療法は14.2%に使用されていました。

Zanidatamabという見たことない抗HER2薬も…

 

その他の癌には唾液腺癌、原発不明癌、乳房外パジェット、メラノーマ、口腔内癌、腺様嚢胞癌、

頭頚部癌、口唇癌、食道癌、腸腺癌、虫垂癌、精巣癌、外陰部癌が含まれていました。

 

202人が各病院でHER2陽性と診断され、65例は中央判定でHER2陽性と診断。

各病院でのHER2評価はIHC 3+が111例、2+が151例、1+が5例。

中央判定では3+が75例、2+が125例、1+が25例、0がなんと30例。

これは固定条件とかで差が出ちゃったんですかね…

 

観察期間中央値12.75か月で235例が治療終了。

167例62.5%がPD、32例12%が有害事象、18例6.7%が死亡。

32例12%は治療継続中。

治療サイクル中央値は8でした。

 

267例中99例で37.1%で奏効が得られていました。

それぞれの癌種では、

子宮体癌で57.5%、頸癌で50%、卵巣癌で45%、膀胱癌で39%、その他で30%、胆道癌で22%、膵臓癌では残念ながら4%でした。

IHC 3+では概ね良い成績で、膵臓癌は0%でした。

膵臓癌コホートでは、最初の15例で奏効率が得られなかったため、

事前の規定に従い募集締め切り。その時点で25例が登録されていました。

 

奏効は抗HER2療法の使用歴あるなしに関わらず得られていました。

使用歴ありで36.8%、なしで37.4%。

 

治療奏効期間中央値は11.3ヵ月(95%CI、9.6~17.8)で、

膵臓で5.7ヵ月、その他で22.1ヵ月でした。

子宮体癌では中央値未到達。やはりIHC 3+だと22.1ヵ月と治療奏効期間は長くなるという結果でした。

 

PFSは中央値6.9か月。

IHC 3+だと11.9か月でした。

Aから順に子宮体癌、頸癌、卵巣癌、膀胱癌、その他の癌、胆道癌、膵臓癌になります。

青がIHC3+, 赤がIHC 2+, 緑が全体になります。

 

OSについては中央値13.4か月。

IHC 3+では21.1か月でした。

 

Waterfall plotはこんな感じ。

非常によさそうですね。

 

有害事象についてはAny gradeで84.6%に出現しました。

乳癌と同様に多いのは悪心。

グレード3以上は40.8%で出現。

多かったのは好中球減少と貧血でともに10.9%でした。

重篤なものは13.5%で中止したのが8.6%。減量したのは20.2%。

死亡に至った例が4例の1.5%でした。

 

Discussionです。

婦人科系癌で良好な成績が得られていますが、どうやらこの研究が婦人科系で初めての報告になるようです。

いまいち婦人科系の治療成績はわかりませんが、

これだけのheavily treated症例でこの成績はなかなかじゃないでしょうか。

 

膵臓癌では残念な結果になってしまいましたが、late lineでも奏効率が12%という結果は期待が持てるかもしれません。

症例数が少ないしIHC 3+が2例のみだったので結論はまだ出せない状況…

 

ただ胆道癌については希望が持てる結果です。

IHC 3+だと奏効率56.3%、OS12.4か月。

胆道癌では有効な治療法が少ないため普通に標準治療になってくるんじゃないでしょうか。

 

腫瘍診断バイオマーカーによるアプローチでFADが承認したのは以下の6つ

MSI high, ミスマッチ修復欠損(dMMR), TMB highに対するキイトルーダ

dMMRに対するdostarlimab

NTRK融合遺伝子陽性腫瘍に対するlarotrectinib, entrectinib

BRAFV600E変異陽性腫瘍に対するdabrafenib + trametinib

RET融合遺伝子陽性腫瘍に対するselpercatinibです。

これらの承認は、腫瘍によらず「遺伝子変異があるときに行われる治験」で奏効が得られていたため、

承認が得られています。

この方法は非常に有効な方法なのですが、プラセボ群を置くことが難しいという欠点があります。

またIHC 1+が数名入っていましたが、

どうやらIHC 3+か2+で15例中3例の奏効を認めた時点で1+のエントリーを許容していたようです。

ただ多くのコホートで15例の奏効を確認する前にすでに登録が完了していたようで、(殺到したんだろうなぁ)

IHC 1+いわゆるlow HER2に対する効果はこの試験からは確認できませんでした。

ただ後ろ向き試験ではHER2 1+/0でも奏効が得られていたようで、

これからもエンハーツは無双は続くでしょう。

 

乳癌で同じセッティングなのはdestiniy breast 01で、このPFSは16.4か月です。

ここと比較すると若干物足りなく感じてしまいますが、

癌種やIHC 3+を選べば相当いい成績になりそう。

これからはエンハーツの適応が「HER2陽性と診断された進行、転移固形癌」になっていきそうな感じです。

このHER2陽性の線引きをどこでするかが焦点ですかね。