Efficacy, safety, and biomarker analysis of nivolumab in combination with abemaciclib plus endocrine therapy in patients with HR-positive HER2-negative metastatic breast cancer: a phase II study (WJOG11418B NEWFLAME trial)
Journal for ImmunoTherapy of Cancer 2023;11:e007126.
doi:10.1136/ jitc-2023-007126
ショートサマリー
背景:ホルモン受容体陽性乳癌では免疫チェックポイント阻害薬の効果は証明されていない。
CDK4/6阻害薬は基礎研究ではanti-PD-1/PD-L1抗体の効果を増強させることがわかっている。
方法:非ランダム化のマルチコホートphase2試験でPD-1抗体のニボルマブ(Nivo)の2週毎投与と、
アベマシクリブ(ABM)150mg1日2回内服、内分泌療法としてフルベストラント(FUL)、
もしくはレトロゾール(LET)を、一次もしくは二次治療としてホルモン陽性転移性乳癌に対して行い、有効性と安全性について検討した。
Primary end pointは奏効率(ORR)、secondary end pointとして毒性、PFS、OSを見た。
バイオマーカー研究のため血液、組織、糞便サンプルを複数回採取している。
結果:2019年6月より開始し、安全性の観点から早期終了となったため、
2020年7月までで17例(FUL:12, LET:5)が登録された。
1例はFULの治療歴があったため除外された。
ORRはFULアームで54.5%(6/11), LETアームで40.0%(2/5)で得られていた。
Grade 3以上のAESOPはFULアームで92%、LETアームで100%に発生していた。
最も多かったのは好中球減少(FUL:7, LET:3)、続いてALT上昇(FUL:5, 41.6%, LET:4, 80.0%)。
LETアームで1例ILDによる死亡例があった。
10例でgrade3の肝機能関連障害があり、3例の肝生検ではCD8+リンパ球浸潤が有意な
局所壊死を特徴とする肝炎を認めていた。肝障害があった症例では腫瘍壊死関連のサイトカインと、
インターロイキン11の顕著な上昇を認め、Tregの減少も認められた。
このことからNivoにABMを追加することによる炎症性サイトカイン、およびTreg抑制に起因するirAEが示唆された。
イントロダクションですが、
免疫チェックポイント阻害薬は乳癌領域ではトリプルネガティブ以外で効果がなかなか得られません。
理由としてはホルモン陽性乳癌はTILs(腫瘍に浸潤してるリンパ球)も低く、腫瘍の変異が少なく、PD-L1発現も少ないと、
いわゆる免疫原性(癌が抗体産生や細胞性免疫を誘導する性質)が低いとされています。
簡単に言えば、ヒトの体は明らかに自分の細胞とかけ離れている細胞は攻撃できるのですが、
もともと持っている細胞と似たような性質のものは攻撃しにくくなっています(攻撃したら正常な組織を破壊しちゃうから)。
ホルモン陽性乳癌は変異が少なく、あんまり正常な乳管と区別がつきにくいってことになります。
免疫チェックポイント阻害薬自体は癌治療の歴史を変えた薬ではありますし、
なんとかホルモン陽性乳癌でも活用しようと色々考えられています。
そこで考えられているのが他の薬剤との併用療法です。
CDK4/6阻害薬は免疫環境の改善、制御性Tcell(Treg)の抑制、エフェクターTcellの活性化等、
基礎的に免疫を増強する薬剤と言うことがわかっています。
今回はニボルマブとベージニオを組み合わせることで治療効果が得られないかphase2試験が行われました。
名前をNEWFLAME試験と言います。
他施設合同の非ランダム化試験です。
ニボルマブとベージニオと内分泌療法の安全性についてはまだ確立していませんが、
phase1試験ではキイトルーダとベージニオの併用の安全性は確認されているようです。
そこでこの試験ではまず6例で安全性コホートを計画。
WJOGという西日本の研究グループに所属する11施設で行われました。
適格はホルモン陽性HER2陰性の転移性乳癌。その他20歳以上やPSが1以下、臓器機能が保たれていることも条件です。
レトロゾールのグループは閉経後だけですが、フェソロデックスのグループは閉経前でもOKになっています。
フェソロデックスは一次内分泌療法でPD、もしくはアジュバント中の再発や治療終了後12ヶ月以内の症例。
レトロゾールは全身治療が1レジメンでも入っていた場合参加できません。
またCDK4/6阻害薬やmTOR阻害薬がすでに入っていたり、命に関わる転移や脳転移があった場合除外となります。
治療方法についてはニボルマブは2週毎240mg、ベージニオは150mgを1日2回、
フェソロデックス、レトロゾールは既知の通りです。
安全性コホートではprimary endpointはDLT(dose limiting toxicities:薬の量を制限するような重篤な副作用)で、
最初の4週間で評価します。
DLTの定義はgrade3の非血液毒性、5日以上続くgrade4の血液毒性、FN、投与中止率が50%を越えた場合。
6例中2例までDLTは許容され、有効性を検討するコホートに移ります。
有効性コホートではprimary endpointはORR。Secondaryで毒性やPFS、OSなどを見ています。
サンプルについては血液、組織、糞便を複数回とっています。
治療開始前の組織が取られています。
糞便はサイクル1と3の初日に採取されています。
有効性コホートについて症例設計数は、もともとHR+HER2-に対してFUL+ABMのORRは48.1%だったと報告されているため、
α=0.20で検出力80%を達成するのに必要な患者数は32人になり、不適格も考慮し35人をサンプルサイズとしました。
LET+CDK4/6阻害薬のORRは52.7-59.2%と報告されていて、
LETグループの閾値は55%、期待値は75%と設定し、患者数は16人。サンプルサイズを18人としています。
さて、結果です。
最終的な症例数は17例になっています。
FULが12例、LETが5例。
FULコホートはほとんどが内蔵転移ありで、閉経前と後が1:1になっていました。
PD-L1については全例が1%未満で陰性となっています。
まず安全性コホートですが、6例について検討しています。
最初の6例ではFULでgrade3の膵炎が出たようですが、それのみで試験は継続されました。
ただ途中で行われた安全性審査の時点で、17人中6人にgrade3以上の肝障害が出たため試験は一旦中断。
さらにICIとABMを併用した他の試験でも重篤なILDが報告されたことからこの試験は中止が決定してしまいました。
投与中となった症例はFULでは7例(58.3%)、LETで3例(60%)となり、肝障害が最多7例でした。
抗腫瘍効果についてみると、
FULコホートでは5例でPR、1例でCRと悪くない結果でした。
ORRとしては54.5%。
LETコホートでは2例でPRが得られORRは40%。
奏効の具合を示したwaterfall plotはこんな感じ。
とはいえ、もともとICIを載せて無くても似たようなORRは得られているので評価は難しいです。
PFSとOSは早期に中止となってしまったため評価できていません。
次に肝臓関連の有害事象について。
肝障害が出ていた10例の経過を表にしています。
肝障害は中央値215日、約7ヶ月くらいで発現し、ほとんどの症例でステロイドが使われていて、
半数で免疫抑制剤が使われていました。
8例は改善しましたが、2例では改善しないという結果でした。
ちなみに肝炎ウイルスは全例陰性です。
肝生検は必須ではなかったですが、3例で主治医が必要と感じ施行されていました。
3例とも休薬で一旦改善するも、また増悪してきてステロイドパルスや内服を始めてようやく改善。という感じの経過です。
肝生検のHEを見ると、3例とも壊死を伴う肝小葉の損傷を認めていました。
浸潤しているのは主にリンパ球で、肉芽腫はなく、胆管損傷は見られませんでした。
リンパ球はCD3、CD8+が中心であり、CD20やCD4+リンパ球は少なかったと。
FOXP3(Tregの制御遺伝子)+リンパ球はバラバラ。ただCD4とCD8の比率からは免疫関連の肝毒性であることが示唆されました。
免疫関連であることを証明するために、採血でサイトカインの解析を行いました。
サイトカインは不慣れなもので・・・ちょっとコピペで・・・
sCD30/TNFRSF8、胸腺間質リンパポエチン(TSLP)、IL-11、IL-12(p40)、ペントラキシン-3、sTNF-R2、sTNF-R1、IL-34、インターフェロン-βが治療前と比較して有意に上昇し、肝毒性発現時のTWEAK/TNFSF12およびオステオカルシンが有意に低下していました。
また胃腸障害がでた患者さんについてはsCD30/TNFRSF8、IL-11、ペントラキシン-3が上昇し、TWEAK/TNFSF12は低下していました。
さらに最も悪いAEが発生した後の採血では、sCD30/TNFRSF8、TSLP、IL-11、IL-12(p405)、IL-12(p406)、IL-11(p407)、IL-12(p408)、IL-11(p408)、IL-12(p409)、IL-12(p40)、pentraxin-3、 sTNF-R2、sTNF-R1は有意に上昇し、TWEAK/TNFSF12は治療前と比較して有意に低下していたとのこと。
申し訳ないですが、これが何を示唆するかは不明・・・
一応figureは載せときます・・・
採血で末梢血のTreg数をフローサイトメトリーで確認すると、肝障害や胃腸障害がおこった患者さんからは、
有意にPD-1 positive effector Treg(Tregの中で最も抑制が強いクラス)が治療前に比べて減少していたと。
さて、次に腸内細菌叢です。
ここも不勉強で・・・てか腸内細菌叢なんて億どころか兆単位でいるのでよくわからないです・・・
一応治療後に最も増えていた細菌はEggerthella、Dorea、Bifidobacteriumでしたと。
その他genotypingやRNA sequenceをして免疫のタイプを患者さん毎でわけて解析をしていますが,
あまりぱっとしたデータは無かったようです。(失礼)
Disucssionになります。
試験自体は肝障害が多すぎて中止になってしまいましたが、
ICIとABMの併用は肝臓に起こった免疫関連障害、サイトカイン、末梢血のフローサイトメトリーから、
免疫に関しての反応を強める可能性が示唆されました。
免疫関連の肝障害は、薬物を中止しても繰り返すことがICIの特徴のようです。
どうやらICIとCDK4/6阻害薬の併用は肝障害を起こすという報告が相次いでいるようです。
試験開始のタイミングが似たような時期だと思うので、報告が相次ぐのは仕方ないですが、
今後は併用されなくなるでしょう。
肝障害によるサイトカインの動きはTNF関連サイトカインとIL-11が関わっているようです。
それならサイトカインを抑制する薬剤を併用したら・・・?とありましたが、
どうやらTNF-α阻害薬であるインフリキシマブはそれ自体が肝障害を伴い、
免疫抑制剤であるMMF(セルセプト)はマウスモデルではTNF-αを阻害することがわかっているらしく、
一応可能性がある薬剤として挙げられていました。
末梢血でPD-1陽性エフェクターTregが減少していたことは注目なようで、
このPD-1陽性エフェクターTregの増加はICIの耐性に関わっているようです。
また、CDK4/6阻害薬はエフェクターTregを減少させることがわかっており、
ABMによるTregの抑制がICIのさらなる効果を生み出し、
これが重篤な肝障害をおこしているメカニズムであるとしていました。
ならばもうちょっと効いてほしいなぁ・・・
腸内細菌叢については増えていた3種類が肝障害の発生に関わっている可能性が示唆されました。
食物繊維を食べるとICIの有効性が上がるというデータがあるようで、今後腸内細菌叢を調べることも重要になってくるかもしれません。
限界としてはやはり中止になってしまったこともあり症例数の少なさや、
irAEが起こったときのサイトカインは調べていますがそれが抗腫瘍効果と結びついているかは検討出来ていない点などを挙げていました。
手を出した論文が想像以上に難しかったときの絶望感・・・ああ疲れた・・・
色々勉強にはなりました。
今後ICIを生かすような治療戦略は増えてきそうですね。
正直ホルモン陽性にICIを無理してまで加える必要があるかなーとちょっと思ってしまいます。
使うなら周術期に使って再発を減らせるようになったら良いなーとは思いますね。