Anthracycline-containing and taxane-containing chemotherapy for early-stage operable breast cancer:a patient-level meta-analysis of 100 000 women from 86 randomised trials
Lancet 2023; 401: 1277–92
ショートサマリー
背景:
術後のアンスラサイクリン→タキサンは化学療法なしに比べて明らかに予後を改善させました。
しかしアンスラサイクリンは短期、長期の有害事象がありタキサン単独のレジメンが使われるようになりましたが、有効性は劣る可能性があります。そこでメタ解析をしてみました。
方法:
アンスラサイクリンとタキサンレジメンとアンスラサイクリン省略レジメンを比較。
もともとあったアンスラサイクリンとタキサンを比較した前回のメタ解析を更新して44の試験を追加。術後、もしくは術前化学療法で2012年1月1日以前に開始した者は全て対象としています。Primary outcomeは乳癌再発と原因別の死亡です。
結果:
28の試験が該当し、23が適格。15の試験の18103人が追加されました。
15件の試験をみると、アンスラサイクリン+タキサンはタキサン単独に比べ再発は14%低いという結果でした。(RR 0·86, 95% CI 0·79–0·93; p=0·0004)
乳癌死亡以外は特に増えませんでしたが、アンスラサイクリンが入っていると急性骨髄性白血病が700人に1人の割合で出てしまっていました。
再発を明らかに減らしていたのは、TC療法に比べてアンスラサイクリンがTCに加えられたとき(つまりはTAC)でした。(10-year recurrence risk 12·3% vs 21·0%; risk difference 8·7%, 95% CI 4·5–12·9; RR 0·58, 0·47–0·73; p<0·0001)
このグループでは10年の乳がん死亡率が4.2%低下(0·4–8·1; p=0·0034)。
タキサンとアンスラサイクリンの順次投与はTC療法に比べて再発リスクの有意な低下は認めませんでした。(RR 0-94, 0.83-1.06; p=0.30)
アンスラサイクリンレジメンにタキサンレジメンを加えるかどうかについては35の試験、52976人が解析に追加されました。アンスラサイクリンにタキサンを加えると、アンスラサイクリンの累積投与量が同じである場合差が出ましたが(RR 0·87, 0·82-0·93;p<0·0001;n=11 167)、タキサン単独に比べて2倍のタキサン以外のレジメン(主にアンスラサイクリンの投与量が2倍)であれば差が出ませんでした(RR 0·96, 0·90–1·03; p=0·27; n=14 620)。
アンスラサイクリンとタキサンの直接比較では累積投与量が多く、dose intensityが高い場合はより有効だったという結果でした。タキサン+アンスラサイクリンはホルモン陽性乳癌でもホルモン陰性乳癌でも同様で、年齢やリンパ節転移、腫瘍径やグレードによる差はありませんでした。
解釈:
アンスラサイクリンとタキサン療法使うことは有効です。
累積投与量が多いレジメンが特に有効で、現在の臨床やガイドラインでトレンドであるTC4サイクルに反する結果でした。
困った。このままではTC療法が使えなくなってしまう。
しっかり読み込んでTC療法の活路を見いだそう。
イントロダクションです。
CMFやAC療法は化学療法なしに比べて乳癌死亡リスクを20-25%程度下げてくれます。
そこにタキサンを追加するとさらに10-15%死亡リスクを下げることがわかっています。
さらにdose intensity、つまりはdose denseのやり方は追加でリスク低下をしてくれます。
メタアナリシスからはA-Tをやると診断後10年間の死亡率を約40%下げるとされ、
これは患者さんの年齢や腫瘍の性質によらずということがわかっています。
(ただホルモン陽性のほんとに大人しいやつは再発率5%以下なので、そこのリスクを40%下げるって言っても絶対値で2%下げるくらいでリスクベネフィットのバランスが崩れます)
ただアンスラサイクリンは心筋毒性や白血病を来す可能性があり、
タキサンには末梢神経障害のリスクがあります。
その面でも全例にやるということは間違っています。
この解析ではそこら辺を検討しています。
おびただしい量の研究、症例数が対象となっています。
主要評価項目は乳癌転移(遠隔、局所、対側乳癌)、乳癌死亡率、転移無しの死亡(副作用の面を評価)、また全死亡率です。
その他フォローアップ期間や、転移部位、年齢、BMI、ホルモンレセプター、リンパ節転移、腫瘍径、グレード、乳管癌か小葉癌か、HER2、ki67なども見ています。
結果ですが、細かいとこまで見るとめちゃめちゃややこしくなるためざっくりと。
アンスラサイクリンはタキサンと同時投与の試験もあります。
その場合は毒性の面やサイクル数から、タキサン単独に比べて同時投与はタキサンの総投与量が少なくなり、
アンスラサイクリンの総投与量も一般的な量よりは少なくなります。
それを総合したのが次のデータです。
結論だけ言えばアンスラサイクリンを追加することで乳癌再発が14%のリスク減。
10年の絶対リスクが2.6%減。
乳癌死亡は12%減の10年絶対値で1.6%リスク減。
乳癌以外の死亡は変わらず、全死亡率も有意差はなし。
試験の間で結果のばらつきは認められていて、
タキサンとC(シクロフォスファミド)の総投与量が同じであれば、
アンスラ追加のベネフィットが一番大きくなりました。
同時投与により10年再発リスクは絶対値8.7%減。死亡率も4.2%減。(下図A, B)
ただし順次投与では特に差がなかったという結果でした。(下図C, D)
全体的に順次投与では、TC療法6サイクルに比べても、
アンスラサイクリン上乗せのメリットが少なかったという結果になっているようです。
全ての中で最もよかったのはアンスラ、タキサン、シクロフォスファミドの同時投与でした。その中で再発についてサブグループ解析です。
一番再発で差が付いたのは遠隔転移再発です。
再発リスクの減少は9年目まで継続して認められ、10年目以降のデータはほとんどなし。
その他年齢、サブループ、リンパ節転移などによらず基本的にはA+Tが有効でした。
ER陰性だと早期再発のリスクを下げてくれるという結果でした。(下図A, B)
リンパ節転移は陽性でも陰性でもともにA-Tは有効でした。(下図C, D)
リンパ節転移陰性ではベネフィットが少なくなりそうなものですが、
実はリンパ節転移陰性の方がER陰性である割合が高かった(61%がER陰性)ため、
10年の再発率や絶対的な利益はリンパ節転移の有無にかかわらず同様でした。
HER2陽性乳癌は数が少ないためなんとも言えませんが、
比較できる中では差がなかったようです。
急性骨髄性白血病についてはやはりアンスラありの方が多かったようです。
ただ数としては多くなく、アンスラ後は6768人中12人。
非アンスラでは6783人中2人でした。
グレード3以上の副作用はアンスラありでもさほど頻度は変わらなかったようです。
疲労がやや多く、末梢神経障害は低く出たようです。
多分末梢神経障害は同時投与があるとタキサンの総投与量が減るからでしょう。
次にA-Tとアンスラ単独の比較です。
タキサンの追加により再発リスクは13%低下し、10年の絶対リスクは3.3%減。
乳房死亡率の減少は5-9年目も続いており、
10年死亡率の絶対リスクは3.6%の減少でした。(下図A, B)
対照群で非タキサン(ほとんどの試験がアンスラ)の総投与量が多く、かつ2倍以内だった場合、絶対的なベネフィットが少なくなり、(下図C, D)
非タキサンの総投与量が2倍以上だと差がなくなります。(下図E, F)
ドセタキセルとパクリタキセルの比較を見てみると、
3週間毎の投与ではドセタキセルで有意にリスク減少が見られていて、
毎週のドセタキセルとパクリタキセルではややパクリタキセルのほうが上ですが、
明らかな差はありませんでした。
2-3週毎のタキサンは1週間に1回のスケジュールよりリスク低下が明らかで、
全体的にスケジュールに関係なくドセタキセルの方が成績が上だったようです。
ただ結局タキサンの総投与量が同じであれば成績に差はありませんが、
パクリタキセルでは週1投与の方がやはり成績はいいようです。
逆にドセタキセルでは週1投与のほうが成績が悪い。
毒性については3週間に1回がもっとも毒性が高かったとのことです。
A-Tでアンスラを先に投与するのかタキサンを先に投与するのかでは、
再発に差を認めませんでした。
個人的にこの論文…全体的にデータ量が多すぎてあんまり把握しきれませんでした…。
Discussionに移っていきます。
一番差が出たのはTC療法に対するTAC療法の8.7%リスク減ですが、
これはアンスラとタキサンの累積投与量がA-Tに比べて1/3程度しかないことに起因しているのではとありました。
以前のメタアナリシスでは順次投与のほうが同時投与の方が成績が下で、
最強レジメンは順次投与という結論でしたが、
同時投与だと有害事象の面から投与サイクルや累積投与量が異なることが問題とありました。
例えばNSANP B-30ではA-T合計8サイクルはTAC4サイクルと比較されていたため、
累積投与量としてはかなり少なくなっていました。
一方でBCIRG-005ではA-T8サイクルはTAC6サイクルと比較し成績は同等くらいでした。
これからdose intensityと同じくらい累積投与量も大事ということがわかります。
タキサンとアンスラの順次投与は2週投与も可能で、3週投与に比して成績は良好でした。
累積投与量が同じであればdose denseレジメンは同時投与で3週回しと同様の成績になるはずです。
NSABP B-38ではA-Tの順次投与を2週に1回で8サイクルと、
TAC3週回しを6サイクルと同様の成績でした。
うーん、結局累積投与量も大事ということがわかってきて、
TC4サイクルの立場は危うくなりました。
ただ6サイクルと4サイクルを比較した試験はありません。
またドセタキセルとパクリタキセルの比較については、
ドセタキセルは3週、パクリタキセルは1週が成績が良く、
その理由の1つとしてパクリタキセル1週投与の方が3週投与より累積投与量が多くて、
dose intensityも高いからではないかという推測ができます。
一方でドセタキセルは3週投与より1週の方が成績悪かったのですが、
実は4つの試験で1つだけだったようなので偶然だったのかもしれません。
サブタイプやステージによって治療効果が変わることはありませんでした。
ER陰性の場合は0-4年で絶対リスク減少がありました。
あと、閉経前と閉経後で化学療法のメリットは異なるというデータが多遺伝子アッセイができてから報告されていますが、
この解析では閉経後であろう55歳以上でもメリットを示していました。
有害事象については非アンスラで1000人中1-2人の白血病があったと報告されていました。
これは過去の報告より少ないのですが、これはシクロフォスファミドとの併用で多く報告されており、今回の解析では相対的にシクロフォスファミドの総量が少なかったのが原因かもしれませんと。
心毒性については、各報告ではアンスラ使用群で増えていますが、
それにより死亡率が増えたという報告はありません。
最後にまとめられていたのは、再発中等度リスクくらいの群へはTC4サイクルが主流になってきていますが、
そのトレンドへは反する結果ということが書いてありました。
さてどう解釈したら良い物か…
最大のリスク低下が見えるTACとTCの比較は、TACが実臨床でやっているレジメンではなく、
あんまり気にしなくてよさそうだなと思いました。
ただ全体的に累積投与量が多ければベネフィットが得られるという事実は間違いなさそうな印象です。
今後TC4コースの出番は…正直今後ないんじゃないか…
TC6コースならいいけど…
この論文からはTC4コースがA-Tに非劣勢であるグループはありませんでした…
閉経前でT2とかHG 3とかki67 30%以上で、ちょっと化学療法検討したいなという症例に対して、
閉経させるためにTCするくらいなんじゃないか…
いやそれもだめか…
TCは今後有害事象の面でアンスラサイクリンが使用できない症例だけになるかも…