Comparative effectiveness of first-line palbociclib plus letrozole versus letrozole alone for HR+/HER2− metastatic breast cancer in US real-world clinical practice

 

Breast Cancer Research (2021) 23:37

 

今注目のリアルワールドデータです。

いわゆるビッグデータ。

最近大きな企業などでは色々なデータを取って、解析して、

次の商品開発や販売戦略などを行っています。

 

医学について得られるデータは多くは臨床試験によるものです。

背景因子、つまり患者さんの年齢や再発部位、治療をどの程度しているかなどを合わせて、

極力偏りのない状況で標準治療と新薬などを検討しています。

その人をコピーして、2人にして比較できたら一番いいんですけどね。

ダメです。技術的にも倫理的にも。

 

しかし臨床試験をするのはとーっても手間とお金がかかります。

そこで実臨床で得られるデータをまとめて、

解析方法をうまくして偏りをなくして薬剤の比較をする。

これがリアルワールドエビデンスになります。

今回はルミナール乳癌の再発一次イブランスとフェマーラの併用療法の結果です。

 

背景として書かれていたのが、イブランスは有効な薬剤であることは間違いないですが、

なかなかOSの改善につながらなかったことが書かれていました。

今までも実臨床で使用してまとめた報告はあったけど、

症例数が少なかったりでイマイチ信頼がおけなかったですが、

今回大規模にデータ集積をしたという流れです。

 

方法ですが、もちろん後ろ向き研究です。

Flatiron Health Analytic Databaseという280以上の癌診療病院が使用しているもので、

240万人が登録されているようです。

今回の解析対象は、18歳以上で再発一次治療としてイブランス+フェマーラもしくはフェマーラ単独が選ばれている症例です。

他の治療薬が入っていた場合や、臨床試験でCDKが使われていたような症例は除外しています。

 

評価項目はreal-world PFS(rwPFS)がprimary endpoint。

増悪したタイミングについては臨床医判断になってます。

OSがsecondary endpointで入っています。

 

統計的手法に関してはかなり複雑です。

なので割愛します。

一応sIPTW法という偏りをなくす方法をとっているようです。

簡単に書くと症例数が偏っている項目については、

それぞれの項目の重要度を計算し、重み付けをして症例数を増やしてバランスを取る方法のようです。

まあ正直ようわからんです。

Web講演でも質問があったのですが、統計の専門家がやらないとまず無理みたいです。

 

患者背景になりますが、1430人が抽出され、うちイブランス+フェマーラは772人です。

調整前だとイブランス+フェマーラ群は若くて、元気で、臓器転移があって、転移臓器数が多いという結果でした。

そりゃ年寄りで元気ないならイブランス乗せることに躊躇するでしょうし、

臓器転移があって、その個数が多ければイブランスを積極的に乗せるでしょう。

逆にこれがリアルワールドエビデンスの弱点です。

さて、これを調整するとどうなるでしょうか。

 

 

それぞれ症例数が67例、40例増えています。

その代わりバランスがとれています。

この増やした症例は、実際に症例数が増えているのではなく、

それぞれ症例数に重要度に合わせてかけ算をしているだけです。

うーん、これでも成り立つのが不思議。

 

観察期間中央値はだいたい2年になります。

 

さて結果です。

まずrwPFSですが、

調整前でもHR0.59, p<0.0001で有意差を持ってイブランスが有効です。

調整後でもHR0.58, p<0.0001とかわらず。

もう一つは症例数を増やすのではなく、減らしてバランスを調整するpropensity score matching(PSM)という方法ですが、

これでもHR 0.54, p<00001でイブランスが有効でした。

 

サブグループを見ても一貫してイブランスが有効です。

年齢、臓器転移にかかわらず一貫してます。

脳転移は症例数が少ないですね。

 

 

次にOSですが、これは臨床試験結果がまだ発表されていません。

rwOSではイブランス併用が有意差をもって改善がみられます。

 

これも調整前でもHR0.63, p<0.0001

調整後HR0.66, p=0.0002

PSM後HR0.58, p<0.0001でした。

 

二次治療後のデータではありますが、PALOMA-3ではOSのカーブが最初はぺたーっとくっついてるんですが、

real worldだと最初から離れています。

これは臨床試験だと全身状態が悪すぎる人は入れないため、どちらかと言えば元気な人がエントリーされています。

なのでどちらの群に入ってもすぐに命を落とすことは少なく、最初は離れていない。

ただreal worldでは全身状態が悪い人も含まれているため最初から開く。

って偉い人が言ってました。

ただそう考えると、全身状態悪くてもイブランス入れるべきなんですね。

 

またサブグループで見てみると、

調整前では若年者や高齢者、臓器転移のある人や転移部位によって差が開いていたのですが、

調整するとこんな感じ。

ちょっとした誤差はあるにしても、一貫してイブランスがよいと言えそうです。

 

さて次注目。

イブランスが効かなくなった後にどんな治療が行っていたかです。

 

日本じゃあり得ませんが、二次治療をしなかった人がイブランス群で半分以上。

ホルモン単独でも1/3以上です。

二次治療が入っている入っていないでOSにはもちろん差が出てくると思います。

 

注目した理由は、自分はCDK4/6阻害剤は必ず一次治療から使うのではなく、

二次治療までに使えば予後に差は出てこないと考えています。

理由としては今出ているCDKについての各種臨床試験ではOSに差が付いていますが、

これはCDKのクロスオーバーを許容していないからです。

つまり、ホルモン単独群に入ったら一生CDKが使えないってことです。(こっそり使っている症例はあるかもしれないですが)

どこかでCDKを使えば、少なくとも二次治療までに使えば差が出ないんではないかなと。

 

しかしこのテーブルを見ると、

ホルモン単独で二次治療にCDKが6割使われていますが、

OSで差が出ています。

 

そうなると一次治療から使わないと差が出てしまうのか…と悩んでいます。

いや、結局二次治療すらしなかった症例がこれだけたくさんいるのだから、参考にはならない…

うん、参考にはならない。

 

DiscussionではPFSについては試験結果もこのreal worldの結果もそれぞれHR0.58、0.56とほぼ変わらず、

同様の結果が得られていたと。

全体的にはreal worldのほうが年齢層が高くて、骨転移単独が多かったみたいです。

 

OSについてもサブグループ含め良好な成績でしたが、

まだ臨床試験の結果が出ていないためなんとも言えないと書いてました。

また1/3以上がまだ治療を継続していたり、

二次治療としてCDKが使われている症例が多いことにも言及されており、

さらにデータが得られた患者さんが限られていたこともあって解析としては不十分なようです。

とりあえずよかった。

 

まあとはいえ、イブランスふくむCDKは有効な薬剤であることに疑いはないです。

今後こういうRWEの論文増えてきそうな印象。