Sacituzumab Govitecan in Metastatic Triple-Negative Breast Cancer
N Engl J Med 2021;384:1529-41.
ついにきました。
転移再発トリプルネガティブ乳癌に対して新たな治療薬です。
サシツズマブ ゴビテカンという噛み噛みになりそうな薬剤名ですが、
これはカドサイラやエンハーツのようなantibody-drug conjugate(ADC)薬です。
つまりは抗体に薬剤をくっつけて、その抗体が発現している部分に特異的に入り込んで、
癌のみに薬剤をばらまくというものです。
カドサイラやエンハーツはHER2めがけてとんでいき、
HER2を発現している癌細胞に薬剤をばらまいていましたが、
今回のサシツズマブゴビテカンはantitrophoblast cell-surface antigen 2(Trop-2)というところを標的としています。
またくっつけている薬剤ですが、これはイリノテカンというトポイソメラーゼ阻害剤です。
乳癌領域ではむかーし使っていましたが、最近ではめっぽう使われなくなった薬剤で、
再発治療で使う薬剤がなくなったら使うかもくらいです。
Trop-2は乳癌を含め、癌の9割以上に発現しているタンパクで、
細胞内にイリノテカンがばらまかれ、
さらに近くにいる癌細胞まで攻撃してくれる可能性(バイスタンダー効果)も示唆されています。
最初に行われた試験では、
バスケット試験といい、乳癌ではなく癌全体に対してこの治療薬が使われました。
以前に書いた癌に対してではなく、癌の原因に対しての治療の1つです。
癌のほとんどに発現しているタンパクなので乳癌に限らず効果が期待できます。
そのうち乳癌は108例含まれており、33%の奏効率とPFS5.5ヶ月、OS13ヶ月という成績でした。
そこで行われたのがこの試験。
ASCENT試験という名前がついていて、
主治医選択の化学療法(ハラヴェン、ナベルビン、ゼローダ、ジェムザールより選択)と対決しています。
対象は転移再発のトリプルネガティブ乳癌患者さん。
2レジメン以上の標準的な抗癌剤が使われていて、タキサン系が使用されていることが条件です。
脳転移でもOKですが、primary endpointの解析対象からは外されているみたいです。
予後が悪い症例が多いからとのこと。
1:1で割り付けられ、
層別因子は転移に対しての治療レジメン数、脳転移の有無、地域です。
ゴビデカンのクロスオーバー(対象群に入った後治療で使われること)は許容されていません。
イリノテカンという薬剤はUGT1A1という遺伝子があるタイプだと下痢や骨髄抑制の頻度が増えることがわかっているので、
そこは注意して行っていました。
Primary endpointはPFS
脳転移のスクリーニングは必須ではなかったですが、
先の通り脳転移がある症例は別途解析されています。
SecondaryはOS、ORR、安全性です。
529人がエントリーされました。結構多い。
15%の61人に脳転移がありPFS解析は別で行われています。
235人がゴビデカン、233人が主治医選択となり、治療内訳は半数以上がハラヴェン。
次いでナベルビン、ゼローダ、ジェムザールの順です。
化学療法に割り付けられた患者さんのうち26人が規定された化学療法以外を使用していて、6人は同意撤回したようです。
年齢中央値は54歳。
事前に入っている治療薬はタキサンが100%、アンスラサイクリンが82%、カルボプラチンが66%でした。
カルボ多いな。
PD-L1は1/4で陽性、PARP阻害剤は7%で使われていました。
有害事象での中止は3%と少なかったとのこと。
なんと30%の症例が初診時にNBCでなかった?!
どうやら原発巣はTNBCでも転移巣がTNBCでなかったとのことです。
その症例も一緒に解析しているのかな・・・
さて、まず脳転移以外の症例で解析です。
中央値17.7ヶ月の観察期間。
PFSは5.6ヶ月 vs 1.7ヶ月でHR 0.41, p<0.001と有意差を持ってゴビデカンが勝っていました。
OS中央値は12.1ヶ月 vs 6.7ヶ月でHR0.48 p<0.001とこちらも良好。
サブグループでみてもゴビデカンが軒並み有効です。
すごい。
載せてませんがOSでも同様の結果だったみたいです。
ORRは35% vs 5%と大差。
3rd line以降でORRは35%とは立派。
反応が得られるまでは1.5ヶ月くらいかかるみたいです。
脳転移を含めた全症例でみても傾向はかわらずです。
安全性ですが、多かった有害事象は好中球減少、下痢、吐き気、脱毛、疲労、貧血です。
G3以上は好中球減少が約半数。下痢が10%。貧血が8%
発熱性好中球減少は5%。
G-CSFがゴビデカンの半数で使われてました。
ただ治療中止は5%程度で少なく、有害事象出なくなったのは3名ですが直接的な因果関係は不明とのことです。
好中球減少と下痢のマネージメントができればある程度使いやすいのかなという印象。
嘔気が半数に出ているのはやや気がかり。(対象群は26%)
Discussion内容ですが、
PD-L1抗体であるペンブロリズマブの試験、KEYNOTE-119ではこの試験より前治療歴が少ない人が対象で、
2次もしくは3次治療の比較でしたが、PFS3.3ヶ月、OS10.8ヶ月。
また似たような患者群で行われたハラヴェンのEMBRACE試験と301試験の結果ではPFS2.8ヶ月、OS12.9ヶ月。
この試験では対象群でハラヴェンが半数に使われててOSがこの差なので、かなりいい成績というアピールですかね。
この試験の限界としては、化学療法群に割り付けられた患者さんのうち、
同意撤回や治療しないと決めた人が32人にいるということ。
また治療内容が主治医選択なのでばらばらであること(しょうがないけど)。
そして試験開始前の生検は義務づけてなかったので、30%でTNBCじゃなかったこと。
このあたりが挙げられていました。
まあそれでも結果出ているので、いい薬なのは間違いなさそうですね。
さっそくですが、術前術後治療でも試験が走っているようです。
NeoATAR, GBG126-SASCIA試験。
また免疫療法との併用でどうなるかのSaci-IO TNBC。
PARP阻害薬との併用でどうなるか。
TNBCだけでなくHR+/HER2-乳癌での試験TROPいCS-02なども走っているようです。
免疫療法より若干期待できそうなので、今後の試験結果にも注目です。