手術全盛の時代。
Halstedさんというバリバリの外科医が癌とその周りの乳房、筋肉、リンパ節も取ったらええねん。
と、手術範囲を大きくしても、思ったように治療成績(再発率)が改善できなかった。
そこでFisherさんは、
乳癌は、発症して浸潤巣を作った時点で微小転移をおこしており、
仮に局所の癌細胞(乳房やリンパ節)を切除しても微小転移が残っていれば、
いつしかそれが増大し遠隔転移をおこしてしまう。
ということで手術は重要ではない。と考えました。
とはいえ、大きくなればなるほど微小転移も起こしやすいということもあるし、
局所治療であるはずの放射線をちゃんと当てないと予後が悪くなったというデータもあいまって、
手術も大事だし微小転移の治療も大事。
というのが現在の乳癌治療のベースです。
ただし現時点では微小転移をおこしているかどうかの判断は誰にもつきません。あくまで理論の話です。
今は次世代シーケンサなどいい機械がたくさん開発されていますので、
微小転移があるかどうかわかる時代がくるといいですね。
そんなこんなで現在は術後補助療法が積極的に行われています。
どの治療をしたらどの程度再発率を抑えられるのか。
これを数字で出すのはなかなか難しいのですが、これをなんとか表現してみます。
色々データも出しますが基本的には私の持論が多く含まれていますので、
このブログでこんなこと言ってたなんて流布はしないでください。
まず手術のみで得られる、いわゆる「治癒」の確率です。
これが乳癌の「ベースラインリスク」になります。
Surgery Today (2019) 49:610–620
1964年から1992年までのまだ術後補助療法がなかった時代の患者さん1835人を対象に後ろ向きで見た論文です。
愛知がんセンターでのデータなので日本人のみです。
DFS(この論文では乳癌転移もしくはあらゆる原因の死亡)とOS(あらゆる原因の死亡)を見ています。
まずはリンパ節転移の個数によるDFSです。
きれいにわかれていますね。
次に腫瘍径。
これもきれいに分かれています。
次にstage。
ⅡとⅢに大きな隔たりがありますね。
そして、ERの有無です。
意外なことにDFSはほとんど差がないです。
それどころかER+のほうが下にいっています。
ER-でも再発しない人は再発しない。ER+は晩期再発がある。
という臨床イメージ通りという感じではありますが。
これを見るとsubtype関係なく純粋にstageだけでベースラインリスクを考えて良さそうです。
ただし昔のデータなので、HER2とki67がない点は注意が必要です。
多変量解析ですが、
リンパ節転移と腫瘍径が多変量で生き残っていますが、
OSに関しては腫瘍径は生き残れていません。
やはり腫瘍径よりリンパ節転移の有無の方がDFSやOSに影響しそうです。
また、晩期再発についての多変量解析もあり、
非常に興味深いことにリンパ節転移は複数個で差がついていますが、腫瘍径では差がついていません。
これは内分泌療法の10年投与の選択基準になりそうです。
てことで、乳癌手術のみのベースラインリスクは、だいたいで
Ⅰ 80%
ⅡA 75%
ⅡB 65%
ⅢA 40%
ⅢB 20%
ⅢC 10%
表現できそうです。
次にsubtype毎に治療の有無でどの程度変わってくるのかを検討してみます。
が、ここからが難しい…。