Association between endocrine adjuvant therapy intake timing and disease-free survival in patientswith high-risk early breast cancer: results of a sub-study of the UCBG- UNIRAD trial

EBioMedicine . 2024 May 7:104:105141. doi: 10.1016/j.ebiom.2024.105141. Online ahead of print.

 

ショートサマリー

サーカディアンリズム(概日リズム)は細胞の生理機能をコントロールしており、

乳癌における内分泌療法の有効性に影響を及ぼす可能性があります。

UNIRAD試験というphase 3試験でこの仮説を前向き検証がなされました。

 

UNIRAD試験は1278例のホルモン陽性HER2陰性(luminal)の再発高リスク患者さんを対象とした、

内分泌療法単独とエベロリムス(アフィニトール)を併用した術後治療の試験になります。

患者さんは前向きに何時くらいにホルモン剤を内服したかを報告してもらっていました。

4つあって、朝(6時~12時)、昼(12時~18時)、夕(18時~24時)、深夜(24時~6時)に分けられています。

内服のタイミングとDFSの関連をsecondary endpointとしてもともと試験に入れていたとのことで、

その結果の報告になります。

 

内服のタイミングを記載してくれていたのは855例(67.2%)。

朝が465例(54.4%)、昼が45例(5.4%)、夜が339例(39.6%)、深夜が5例(0.6%)でした。

46.7カ月のフォローアップで118のイベント(30が局所、84が遠隔転移、41が死亡)が発生しました。

全体でみるとホルモン剤の内服によってDFSは変わりませんでした。(HR = 0.77, 95% CI[0.53–1.12])

タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤に分けて、前半(6時~18時)と後半(18時~6時)で解析をすると、

タモキシフェンでは差が出ていましたが、(HR = 0.43, 95% CI [0.22–0.85])

アロマターゼ阻害剤は差がありませんでした。(HR = 1.07, 95% CI [0.68–1.69])

多変量解析をすると内服のタイミングは独立した因子となっていました。

 

再発高リスクのluminal症例においてタモキシフェンは夕方以降に内服をした方がいい可能性がありますが、

これ以外にも試験が行われているようで、その結果を待ちましょう。

 

この結果だけで夕方に飲みましょう!と強く推奨するわけではないですが、

簡単に変更できることなのでトライしてみてもいいかもしれないですね…

 

イントロダクションです。

内分泌療法がちゃんと内服できているか、いわゆる内服コンプライアンスは50-89%程度と報告されており、

あまりちゃんと飲めていないことが問題となっています。

特に術後療法ではちゃんと飲めていないと予後に強く影響を与えます。

フランスのCANTOコホートでは、設定したコンプライアンスの閾値を下回った場合、

遠隔転移が増えるという報告があります。HR 2.31; p = 0.036。

 

内服コンプライアンスを下げてしまう要因はいろいろありますが、

特に副作用の懸念が最も多いようです。

運動など生活習慣の改善や医療的な介入は、内分泌療法の副作用軽減をさせるため、

コンプライアンスを改善するために試されてきました。

ただ内服のタイミングがコンプライアンスや副作用について影響するか、

またそれが予後に影響するかを検討したデータはほとんどありません。

 

概日リズムは、薬剤の吸収、分布、代謝、排泄をコントロールしているようです。

時間薬理学(そんな学問あるのか)は抗癌剤にとっても重要で、

副作用を最小限に抑え、同時に効果を高める必要がある。

概日リズムは、細胞や器官の生理機能を調節しており15個の時間に関連する遺伝子が関与していて、

3つの転写/転写後フィードバックでそれぞれの細胞内で調整されているとのこと。

内分泌的なフィードバックについては視床下部の視交叉で調整されています。

コルチゾールやメラトニンが分泌され、休息・活動・食事のパターン、体温、自律神経の調整など概日リズムを調整し、

24時間で細胞時計をリセットしています。

これら概日リズムは細胞代謝、増殖、アポトーシス、オートファジー、薬物への反応にも影響します。

そしてこのリズムは社会生活によって変化します。つまり、夜間勤務が多ければリズムは変わってしまいます。

 

Luminal症例でホルモン剤を飲むタイミングの影響に関するデータが乏しいため、

大規模な前向きランダム化比較試験に内服のタイミングと治療効果の関連に関する付随研究を組み込みました。

それがUNIRAD臨床試験で、この試験に2年間参加する間、前向きにホルモン剤の摂取時期を日誌に記録するよう規定されました。その解析の結果になります。

 

方法です。

2013年から2020年までで1278人の再発高リスクlumianl症例を、

2年間のアフィニトール併用とプラセボ併用で1対1に割りつけられました。

適格基準は18歳以上でluminalであること、

またリンパ節転移が4つ以上、または術前化学療法がされていて1個以上、

または1-3個の転移でEndoPredict(Oncotype DXみたいなやつ)が3.3以上だとエントリーできます。

 

内服のタイミングは上記の通り4つです。

内服したら日誌に記載します。

試験期間中に7日以上内服のタイミングを変えた場合、タイミングを変更したとみなされています。

DFSに関する解析では症例数が少ないカテゴリーを統合し、2つのカテゴリー(6時~18時/18時~6時)に分類されました。

 

エンドポイントはDFSで、OSの結果も報告されています。

層別因子はNAC vs 術後化学療法、PgR、ランダム化前の内分泌療法期間、リンパ節転移です。

 

これらの層別因子毎にホルモン剤内服のタイミングで効果が異なるのではという仮説も検証しています。

交互作用の解析には統計的検出力が不足しているため、p値0.10以下を統計的に有意とみなしています。

 

結果です。

1274例中855例が内服のタイミングを記載していました。(アフィニトール401例、プラセボ454例)

こんな流れです。

記載をしてくれなかったのは、若干高齢で、閉経後、腫瘍径が小さいという傾向がありました。

ただバランスは取れていたとのことです。

 

内服のタイミングは上記の通りですが、

朝が465例(54.4%)、昼が45例(5.4%)、夕が339例(39.6%)、深夜が5例(0.6%)

10例が内服のタイミングを試験中に変更していました。

朝と昼に内服する群は若干高齢(56.4歳 vs 58.4歳)で、

夕または深夜に内服をする群は若干若年でした(53.1歳 vs 50.8歳)。

多くが閉経前で、タモキシフェンを使用していました。

4群比較なので結構有意差はでちゃいますね。

ただ一時的な休薬や、内分泌療法を中止してしまった人(これがかなり効果に影響を与えそうですが)、

については差はありませんでした。

 

イベントは118例で発生しています。

全体ではホルモン剤内服のタイミングで予後に影響は与えませんでした。

DFS (HR = 0.77, 95% CI [0.53–1.12])

ちなみにDFSはタイミングを報告していなかった人たちと変わりありませんでした。

(HR = 1.01, 95% CI[0.70–1.41])

 

サブグループ解析はMultiplicative scaleとAdditive scaleというやり方があるようで、

両方示していますが、見慣れているのはaの方です。

夕方内服のメリットがありそうなのはタモキシフェンとリンパ節転移1-3個転移陽性でした。

タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤にフォーカスを当てると、

タモキシフェンは夕方内服で(HR = 0.43, 95% CI [0.22–0.85], p=0.012)

アロマターゼ阻害剤は夕方内服で(HR = 1.07, 95% CI [0.68–1.7], p=0.76)でした。

注目すべきは、タモキシフェン内服は閉経後でも行いますが、

特に閉経前の患者において差が顕著で(HR = 0.32、95% CI [0.14-0.74])、

閉経後の患者では大きな差はありませんでした(HR = 0.65、95% CI [2.17-0.5])。

 

また、リンパ節転移が1-3個と多くない群で差が見られ(HR = 0.23, 95% CI [0.07–0.77])、

それ以上の群では差が見られませんでした(HR = 0.95, 95% CI [0.63–1.43])。

 

多変量解析では年齢、腫瘍径(T2vs T3-T4)、リンパ節転移(1-3個 vs 4個またはNAC後リンパ節転移陽性)、

タモキシフェン、内服のタイミングが独立したDFSの因子となりました。

内服のタイミングとリンパ節転移は交互作用がなく、

つまりは影響を与えあっている因子ではないということがわかります。

タモキシフェン服用群で多変量解析をしてみると、内服のタイミングが唯一DFSと関連したする因子でした。

OSと内服のタイミングには相関がありませんでしたが、イベント数が非常に少ないためじゃないかとありました(n=41)。

 

さて楽しみなdiscussion。

早期乳癌に対する内分泌療法の朝投与と夜投与を比較した無作為化試験であるREaCT-CHRONO試験が、

2023年のサンアントニオで発表され、内服のタイミングはコンプライアンスやQOLに対する影響がないことが報告されています。

 

タモキシフェン内服のタイミングは内服コンプライアンスの面から治療に影響を及ぼす可能性がありますが、

もともと2つの研究で、朝に内服をするとコンプライアンスが上がると証明がされています。

なので、今回の結果は逆で、夕内服で治療成績が上がることはコンプライアンスの観点からは説明できません。

 

タモキシフェンはSERMと呼ばれ、

選択的にエストロゲン受容体を調節してエストロゲンによる乳腺上皮の増殖促進を抑制します。

タモキシフェンはプロドラッグというもので、

腸で吸収された後、CYP2D6とCYP2C19(酵素)で代謝されてエンドキシフェンと4-hydroxy-tamoxifenとなり活性化。

CYP3A4による競合的代謝を受けます。

代謝物はともにタモキシフェンに比べERへの親和性は100倍近くなります。

エンドキシフェンは最終的に抱合により代謝され、胆汁および尿で排泄されます。

 

基礎的な目線から見ると夕方に内服することの有効性は以下のように説明できる可能性があります。

まず何度も書いていますが概日リズムは、薬物の吸収、分布、代謝、排泄、毒性および有効性を調節することが知られています。

27人の乳癌患者においてタモキシフェンの吸収は、

朝内服した場合と比較して夕方摂取した場合は有意に遅く、

その結果最高血中濃度(Cmax)は低くて、そこに到達するまでの時間(Tmax)が長いことになります。

朝摂取した場合と比較して、夕方摂取した場合ではAUC 0-8(投与後8時間までの血中濃度)は23%と有意に減少(p<0.001)、AUC 0-24では15%とこちらも有意に減少していました(p<0.00)。

なのでタモキシフェンを夕に内服している患者さんは、エンドキシフェンへの曝露量が減少していることが示唆されています。

また朝内服してCmaxが高い場合、ホットフラッシュが多いという報告もあるようですが、明確な結論は出ていないようです。

 

mRNAレベルで見てみると、CYP2D6、CYP2C19、CYP3A4のmRNA発現は、

大きな概日リズムがあるようで、早朝の時間帯(8:00-09:00)の間に最も高い発現がみられていました。

つまりは朝方の内服により、タモキシフェン最も効率的に代謝され、

活性物質であるエンドキシフェンが生成されるはずで、効果は最も高くなるはずです。

この説明はなかなか理論的に難しいようで、

一応エンドキシフェンを分解するCYP3A4の活性は夜間に最も弱くなるため、

それが影響している可能性はないとは言えない…くらいは書いてありました。

 

視交叉は、エストロゲンレベルによってコントロールされています。

さらにエストロゲンは、視交叉による末梢臓器の概日リズムに関与する遺伝子の発現を変化させることができるようです。

最も重要なことは、エストロゲン受容体に対するタモキシフェンとエンドキシフェンの薬力学的作用と、

腫瘍細胞における作用は、夕方または夜間に最も顕著になる可能性があるということです。

 

2つ目に腫瘍細胞自身の進展も24時間周期で変化をしているとのことです。

血中を循環する腫瘍細胞(CTCs)は出続けているわけではなく、

マウス実験では寝ている時期に放出されているようです。

なので夜間に内服することが、CTCs産出を抑えている可能性があると書かれていました。

 

そのほかにもメラトニン、テストステロン、ステロイドがCTCsの産出に影響している可能性も指摘されています。

臨床試験もその投与時間を検討すべきと推奨している研究者もいます。

 

3つ目にメラトニン分泌は概日リズムの中心を担っています。

乳癌患者においてメラトニンレベルは深夜に高く、日中は低くなっています。

就寝時のメラトニン療法は睡眠の質、QOLを上昇させ、概日リズムを改善しているという32人の乳がん患者さんに対する研究があり、

メラトニン自体がluminalにおけるERαの発現を抑制する効果や、直接的な抗腫瘍効果があるともされています。

タモキシフェンとメラトニンの相乗効果のようなものがあるのかもしれません。

 

最後に、この試験では夜間にタモキシフェン内服をしている群は若年が多かったという結果でした。

若年者はホルモン状況が異なっていたり、何かしら内分泌療法に影響を与える因子が隠れている可能性は否定できません。

ただし年齢差は比較的少なく、それだけで有意な影響を与えるとは考えにくい。

しかし閉経状態が交絡因子として作用する可能性があることがlimitationとなっています。

 

一方アロマターゼ阻害剤は内服のタイミングがDFSに影響を与えませんでした。

AIの半減期は2~4日で、アロマターゼは95%くらい阻害され、循環エストロゲンは10~20日で消失します。

癌の餌となるエストロゲンを枯渇させることがAIの目的ですが、

概日リズムとの関連を示した論文は今のところ1個もないようです。

 

どうしてもイベント数が少ないため、バイアスはかかっているでしょうと。

ハザード比を用いていますが、どうやらハザード比は選択バイアスの影響を受けやすいようです。

潜在的な交絡因子(特に閉経状態)を調整する努力はしたようですが、

未知の交絡が残存している可能性があり、結果の解釈に影響を及ぼす可能性があると。

 

大規模な試験であり信頼性はありますが、あくまでサブ研究で、さらにその中のサブグループなので、

あくまで仮説を作るようなものと考えなければいけません。

ホルモン剤内服の摂取タイミングが朝と夜のどちらが健康関連QOLと治療コンプライアンスに影響を与えるかを検討した、

前向き試験REaCT-CHRONOが早期乳癌患者さんの登録を完了しています(clinicaltrials.gov, NCT04864405)。

今のところ投与時間で有効性の差は示されていないようですが、論文化が待たれます。

 

今回の有効性データがちゃんと証明されるまでは強い推奨とはなりませんが、

高リスクluminalには、夕方または夜間のタモキシフェン摂取が推奨される可能性があります。

 

割と内容が難しかったので翻訳ソフトにはだいぶお世話になりました。

CTCsの話とかはかなり興味深いですが、まだまだ基礎的な証明は難しそうですね。

免疫チェックポイント阻害剤にも概日リズムが影響しているという報告もちらほらあるので、

今後そこも気にして治療をしていく必要があるかもしれません。

うーん、夕方内服にして悪いこともないのであれば…

該当患者さんがいれば考えてみるかな…