Results of the c-TRAK TN trial: a clinical trial utilising ctDNA mutation tracking to detect molecular residual disease and trigger intervention in patients with moderate- and high-risk early-stage triple-negative breast cancer

Ann Oncol . 2023 Feb;34(2):200-211. doi: 10.1016/j.annonc.2022.11.005. Epub 2022 Nov 22.

 

c-TRAK TN試験の結果がいつの間にか1年前に出ていました。

この試験は術後の患者さんの血中ctDNAを定期的に測定して、陽性となった時点で治療介入(ペンブロリズマブ:キイトルーダ)をする試験です。

さて、どういう結果になったでしょうか。

 

ショートサマリー

トリプルネガティブ乳癌(TNBC)においてctDNAが検出されると再発高リスクであることがわかっています。

c-TRAK TN試験はTNBCのサーベイランスでctDNAを前向きに測定する意義と、

ctDNAが検出された時のペンブロリズマブの使用がどのような結果となるかを検討した試験です。

 

c-TRAK TN試験はphase 2試験で、デジタルPCRでctDNAを定期的に測定する試験です。

早期のTNBCでNAC後non-pCRだったか、stageⅡ、Ⅲで術後治療をした症例がエントリーされています。

ctDNA測定は3ヵ月ごとの採血を12ヵ月間(コロナで採血できなかった場合は18ヵ月間)行い、

ctDNAが陽性となったら2:1でペンブロリズマブ投与群と経過観察群に割り付けられます。

 

ctDNAの結果は、患者さんが介入群に割り付けられた場合は伝えられます。

その時点で画像的に転移の有無が検索され、再発転移がない患者はペンブロリズマブが投与されます。

 

Primary endpointは2つ設定され、ctDNA検出率と、ペンブロリズマブ投与でctDNAが消失するかでした。

 

208例が2018年1月から2019年12月までで登録され、185人で腫瘍の塩基配列が検索されました。

171人(92.4%)がフォロー可能な変異があり、161人がctDNAサーベイランスされました。

12カ月でのctDNAの検出は27.3%(44例/161例)で、7例はctDNAの検出がなく再発を認めました。

 

45例が治療群に割り付けられ(介入群:31例、観察群:14例)、介入に割り付けられた患者さんのうち、
72%(23/32例)はctDNA陽性となった時点で画像上も遠隔転移を認めていて、4例がペンブロリズマブを拒否しました。

ペンブロリズマブを開始した5人の患者のうち、ctDNの消失を達成した患者さんはいませんでした。

 

c-TRNK TNはTNBCの治療でctDNAをガイドにする初めての試験。

ただctDNAが検出された時点で高確率で遠隔転移を伴っていました。

この結果は、今後の臨床試験のデザインに影響を与える可能性があり、

より高感度、もしくは頻繁にctDNA検査を早期から開始することの重要性を強調するものです。

 

イントロダクションです。

デジタルpCRを用いた後ろ向き試験ではctDNAの検出は高確率で再発を予測できることがわかっています。

すべてのサブタイプで、画像に先立って10.7カ月早く再発を検出でき、

TNBCでは10.6カ月早く再発を検出できます。(この差をlead timeといいます)

 

通常乳癌治療後のフォローアップは、CTや腫瘍マーカーで早期に再発を見つけても、

生存率の改善が見られなかったという研究があるため一般的にはCTも採血も行われません。(日本では採血していることが多いですが)

ctDNAの検索では画像的な再発に先立って再発が予測できます。

ただどの程度のlead timeがあるのか、またctDNA検出時点で治療することが予後を改善するかどうかは不明です。

そこでこの試験が行われました。

 

試験デザインですが他施設共同のphase 2試験です。

適格基準はTNBCでnon-pCRだったか、stage 2-3で術後化学療法がおこなわれていることです。

事前に中間リスクと、ハイリスクのグループに分けられています。

ハイリスクはNAC後にリンパ節転移が残存していた、もしくは腫瘍が5㎝以上かリンパ節転移が4つ以上の場合です。

それ以外は中間リスクとなります。

 

ctDNAは3か月毎24ヵ月間測定されます。

しっかりと術後化学療法、放射線が終了していて、

治療終了後4週間以内に測定が開始されます。

12ヵ月までは、前向きで積極的にctDNAサーベイランスが行われています。

15ヵ月以降はレトロスペクティブ解析のために収集され、

将来の試験におけるctDNAサーベイランスの最適な期間について情報を得るために使用されます。

コロナの流行でctDNA解析は2020年3月19日から2020年6月4日まで中断。

一時中断のために採血を逃した患者さんは、積極的なctDNAサーベイランスを18ヵ月まで延長し、

ctDNAの最終収集は24ヵ月のままとしています。

 

ctDNAが検出されたら治療介入群と経過観察群を2:1に割り付けます。

層別因子として初回計測時にすでにctDNAが検出されたかどうかと術後にカペシタビン(ゼローダ)を使用したかどうか。

治療介入群に対しては結果が伝えられ、経過観察群はctDNAが陰性のままだった患者さん同様に結果は伝えられませんでした。

 

介入群に割り付けられた場合、画像で遠隔転移検索が行われ、

そこで転移がなければペンブロリズマブを開始することが可能でした。

もし画像で転移が証明できてしまった場合はそこから標準治療が行われます。

ctDNAも検出されずフォローしている間は特別画像診断は行わないようにある程度規定されていました。

 

途中の解析で、ctDNA検出群の予後が不良だったことから、

基本的に検出後は全例治療介入群にするようデータモニタリング委員会より提言がありました。

その時点で40人の患者がすでにctDNA陽性となっており、治療群に無作為に割り付けられました。

 

ctDNAの検査はまず200の遺伝子パネルであるRMH200か、

41の遺伝子パネルであるABC-BIOを使います。

1個か2個の変異が選択され、それをデジタルPCRで腫瘍、生検検体、また白血球層(buffy coat DNA)のDNAでシーケンスを行います。

腫瘍、生検検体でともにクローナルナ変異が見つかり、かつ白血球層で認めなければctDNAのサーベイランスとして使用されます。

採血では40mlの血液を使用します。

DNAの抽出は4mlの血漿で行い、BioRad QX200 digital PCRで解析されます。

白血球層の解析も同時に行われ、そこで同様のmutationが検出された場合、その解析は無効となります。

 

ctDNAは少なくとも2つの変異が同定された場合に「検出」としています。

ctDNAが検出されたサンプルについては、再確認を原則行っています。

すべての治療が終了してから、追跡可能な変異が同定できた場合、4週以内にフォローが開始されています。

 

ペンブロリズマブはctDNA陽性となり画像検査で遠隔転移がない場合に開始されます。

臓器機能が保たれていて、自己免疫疾患がないことももちろん適格基準です。

投与は1年間で、遠隔転移をきたす、強い有害事象が出る、患者さん希望があれば終了となります。

 

Primary endpointは2つあり、

1つはデジタルPCRによるctDNA検索が画像より先に転移を予測できるか。

もう1つはペンブロリズマブがctDNA陽性から陰転化できるかです。

前者はctDNA検索から1年と2年でのctDNA検出率。

後者はペンブロリズマブ投与後6カ月でのctDNAの陰転化率で評価します。

 

追加評価項目は、ctDNA検出までの時間や、

ペンブロリズマブ投与群における初回ctDNA検出時の画像的な再発の検出率、

ペンブロリズマブ投与群および観察群におけるctDNA検出から病勢再発までのリードタイム、

観察群における6ヵ月後に検出可能なctDNA(および病勢再発)がない患者の割合、

ペムブロリズマブの安全性および忍容性です。

 

サンプルサイズの設定は10%の有意水準で、

閾値30%、期待値54%のctDNA陰転化率を90%の検出力で達成するとなると、

30例の割り付けが必要と計算されました。

閾値を達成するためには、ctDNA陰転化が13例必要で、

30例の割り付けのためには75%のctDNA検出率がある場合200例の登録が必要と計算されています。

ctDNA陽性率30%として、45人の患者を介入群と観察群に2:1の割合で無作為に割り付けるには30例登録が必要。

またctDNA陽性率が低い場合は24%、高い場合は45%の場合のサンプルサイズも算出していたようです。

その他統計学的なところは細かいため割愛…

 

結果です。

208例が登録され、185例で腫瘍のシーケンスが行われました。

そのうち171例に追跡可能な変異を認め、161例がctDNAサーベイランスに回りました。

10例は開始できず、内訳は8例は追跡前に再発が見つかり、1例が同意撤回、1例が適応外でした。

 

310の解析うち、230が検査に回りました。

48は生殖細胞系列で変異があり、24の解析アッセイはquality controlで引っ掛かり、

5つの解析は健常血漿で陽性、3つの解析では変異は生検検体で検出されませんでした。

 

サーベイランスに回ったうち、53は2つの変異、108が1つの変異が出下。

最も多いのはTP53(89.4%)でした。

観察期間中央値20.4カ月です。

患者背景としてはまあ一般的な感じ。

12カ月時点のctDNA検出は27.3%(44/161, 95% CI 20.6% to 34.9%)。

ctDNAの検出はベースライン、3か月、6か月、9カ月、12カ月でそれぞれ23/161 (14.3%), 6/115 (5.2%), 6/99
(5.1%), 7/84 (8.3%), and 2/84 (2.4%)と、ベースラインでの検出が最多でした。

コロナの影響で延長した症例では15カ月で1例、18カ月で1例といった具合。

この2例は12カ月時点では陰性だったので解析には含まれていません。

 

7例にctDNA検出より前に再発を認めました。

2例は再発後に採取した追加検体でctDNAが検出され、残りの5人は再発検体が採取されていませんでした。

 

K-M curveでは12カ月時点でのctDNA検出は26.4%(この辺の実数と変わる理屈がよくわからない…)

high riskでは55.7%、moderate rsikでは11.8%でした。

45例のctDNA陽性患者さんは31例がペンブロリズマブ投与群、14例が観察群に入りました。

1例だけ観察群からペンブロリズマブ投与群に変更となっています。

ペンブロリズマブ投与群では71.9%(23/32, 95% CI 53.3% to 86.3%)がctDNA検出時に画像的な転移を認めましたが、

リスク群間の差はほとんどありませんでした。(高リスク群69.6%、中リスク群77.8%)

 

ctDNA検出時、検出されたctDNA量の中央値は画像的な転移がある場合3.1 copy/ml(0.1 - 1145.6 copy/ml)、

画像的な転移がない場合1.0 copy/ml(0.2 - 8.9 copy/ml)でした。

 

ペンブロリズマブ投与群における、lead timeの中央値は1.6カ月でした…短い…

ctDNA陽性で画像的に転移がない症例が9例あり、ペンブロリズマブの投与が予定されましたが、

4例が投与できませんでした。

2例は患者希望で、2例はその後すぐに転移が見つかってしまいました。

5例がペンブロリズマブの投与をしましたが、6か月でのctDNA消失は認めず、

全例が結局再発してしまいました。

 

1例は免疫関連の有害事象が出てしまい、治療を中断しましたが、

その症例では治療を通じてctDNAが低下しており、ペンブロリズマブが効いていた可能性を示しました。

下図のピンクの症例なようです。

Bは経過観察のグループです。

lead timeは中央値4.1カ月でした。

6カ月でのctDNA消失が21.4%で見られたと?!(3/14, 95% CI 4.7% to 50.8%) 

確かに上図では数例落ちている症例がありますね…

ただ結構検査のタイミングにより数値がばらつくこともあるようで、時々検出以下になったりする症例もあったようです。

2例では最初にctDNA陽性となりましたが、それ以降はctDNAは検出されず、

画像上も再発してこなかったようです。

偽陽性が存在することを示唆していそうです。

 

探索的な研究の報告で、ctDNA検出率が最も高かったのは0~1.5ヵ月で11.3%(6/53)が陽性となりました。

画像上の転移も最初で見つかる可能性が最も高く、それ以降はサンプル数が少ないものの、

画像的な転移は全般的に低下していることが示されました。

 

特に高リスク患者はベースライン時にctDNAが検出される可能性が高く、

中等度リスク患者では2.8%(3/107)、高リスク患者では37.0%(20/54)がベースライン時にctDNA陽性でした。

ベースラインサンプルで介入群に割り付けられた患者のうち、

中等度リスク患者で50.0%(1/2)、高リスク患者で76.9%(10/13)がすでに画像的な転移を起こしていました。

 

Discussionですが、期待していた結果は得られませんでした。

この原因としては思った以上にctDNA陽性時に画像的にすでに転移所見を認めていることと、

いざ治療をしようとしたときにコロナが流行してしまい患者さんが希望されなかったことを挙げていました。

 

尿路系の癌ではctDNAが術後に陽性となったときにアテゾリズマブを使うとRFSが延長することが証明されているようです。

この試験ではあまりに治療介入に回った症例が少ないですが、

少なくともctDNAが消失するまで至った症例はありませんでした。

ただ、進行再発においては免疫療法でctDNAは下がると予後良好とわかっており、

完全に消失することが大事ではないと言われているようです。

 

次にhigh riskだった症例では少なくとも28.5%が登録された時点でctDNAが陽性となっていました。

Moderate riskでは1.4%と少なく、はなっからctDNAが見つかる可能性があることを示しています。

Redisual cancer burdenのカテゴリー3の患者さんは術後1年以内に50%弱が再発すると言われているようです。

lead timeが以前の研究報告より短くなっていますが、これはadvanceな症例が多いからでしょうと。

 

さて、この研究をもって次の研究デザインの提言です。

できるだけ早めにctDNAを測定して、再発のリスクがある時期を見極めるべきですと。

NAC後、手術後、adjuvant後にできるだけ速やかに個別化測定のデザインを開始することが必要。

もし検出されれば全身検索の方法を、例えばCTではなくPET-CTで行うなど検討できます。

もしくは、NAC中に測定してctDNAが消失するかどうかなど。

 

またctDNAの測定方法についても患者ごとにより多くの変異を追跡したり、

パネルあたり数百の変異をターゲットとする可能性のあるアッセイ法の開発がさらに進めば、

ctDNAが微量でも検出が可能となり、転移再発前の検出率が向上するかもしれないと。

 

またTNBCでは早期の再発が多いため、検査開始後半年は月3回以上の頻度でctDNA検査をすることが必要かもしれない。

今回カペシタビンを使っていた症例では、治療3ヵ月後にctDNAが陽性となっていて、

その時点でカペシタビンに耐性が発現した可能性があります。

 

最後に、高リスク患者の再発率を見ると、ctDNAなしで新しい治療法行うのもありなのではと。

 

現在TNBCもしくはBRCA1/2生殖細胞変異乳癌で、PARP阻害剤であるニラパリブを使って、

今回の試験と同じようなphase 3試験が走っています。

この結果も待たれるところです。

 

この試験の元となった研究は知っていましたが、

lead timeはもっと長くてctDNAは非常に期待できるなぁと思っていました。

ですがふたを開けるとこの結果…

 

試験デザインも非常によく練られていて、臨床試験を組む、特に新しいことをやるのはやっぱり大変だなと思いました。

それなのに期待する結果は得られない…まあこの試験はいろいろ示唆に富むところもあるため、

決して失敗とは思えませんがやはり甘くないですねぇ…

 

ただこの分野が進んで、理想的にはctDNAをもっと高感度に検出できるようになって、

手術後にctDNAが検出されなければ術後治療なし!みたいな世界になっていくといいですね。