近年、変形性股関節症について
「関節包の炎症が原因で起こる」
「筋肉の病気として理解すべきだ」
といった、特定の要因に焦点を当てた理論を目にすることがあります。
こうした分かりやすい説明は安心感を与える一方で原因を限定しすぎることで治療の方向性が狭くなることもあります。
保存療法を行う立場としては、ここに注意が必要です。
関節包炎や筋機能不全は影響するが、主因とまでは言えない
変形性股関節症では関節包や滑膜の炎症、中臀筋や深層外旋筋の萎縮、脂肪変性、筋膜の滑走不全など、周辺組織の変化が見られることがあります。
そのため
「股関節症は関節包の炎症である」
「股関節症は筋肉の問題である」
という解釈が生まれています。
しかし研究の現状では関節包炎や筋機能低下は確かに関わっているものの、それだけで病態全体を説明できるわけではありません。
それらは「原因」である場合もあれば「結果」である場合もあり、
症状や進行の一部を構成する要素にすぎません。
最新の理解では変形性股関節症は多因子性の病態
ここ数年のOA研究では変形性股関節症は一つの原因に還元できない複合的な病態であるという理解が広がっています。
影響する要素としては、
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軟骨の代謝
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骨の構造や力学的ストレス
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関節包や滑膜の状態
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筋肉や筋膜の機能
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神経の感受性
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姿勢や歩行などの荷重パターン
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生活習慣や体重
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ホルモンや代謝
などが挙げられ、それぞれが相互に関係し合っています。
保存療法では「単純化された理論」に注意が必要
保存療法では、どこに重点を置いて施術するかによって結果が変わります。
その際、原因を一つに決めつける理論は施術の幅を狭める可能性があります。
例えば、
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関節包炎だけに注目すると、筋力や動きの評価が不足する
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筋肉の問題だけを重視すると、関節包や滑膜の変化を見逃す
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機能だけを見すぎると、構造的な変化や進行予測が不十分になる
このように単純化された理論は施術方針や評価の視野を狭くしてしまうことがあります。
全体を統合的にとらえることが重要
変形性股関節症の痛みは骨の変形だけでも、筋肉や関節包だけでも説明しきれません。
大切なのは構造、筋機能、神経、荷重、代謝など、多層的な視点から評価し、最適なアプローチを組み合わせることです。
保存療法は本来、この「全体を見る姿勢」でこそ力を発揮すると言えます。
まとめ
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関節包炎や筋機能不全は関わるが原因を単一に絞ることはできない
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変形性股関節症は多因子性の複合的な病態
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原因を限定すると、保存療法の選択肢が狭くなる
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骨、筋肉、関節包、神経、動きなどを総合的にみることが大切
変形性股関節症は単純な病気ではありません。
だからこそ、単純化された理論だけで判断せず、身体全体のつながりを踏まえた施術が現実的で効果的な方法になります。