股関節の痛みが長く続き、画像検査で骨形態の問題を指摘されると、「骨切り術」という選択肢が提示されることがあります。
骨切り術は関節の形を整えることで痛みの軽減や関節寿命の延長を目指す手術です。
ただし、この手術は決して軽いものではありません。
骨切り術とは何をしている手術なのか
股関節の骨切り術は主に寛骨臼や大腿骨を切り、角度や位置を変えて再固定する手術です。
臼蓋形成不全や若年者の変形性股関節症に対して行われることが多く、「自分の関節を温存できる」という点が強調されがちです。
しかし実際には骨を一度完全に切断し、金属で固定したうえで骨癒合を待つという、身体にとっては大きな侵襲を伴う操作です。
骨を切っても「元の一つの骨」に戻るわけではない
骨切り術で見落とされやすい重要な点があります。
それは骨を切って再固定しても、元とまったく同じ一つの骨に戻るわけではない、という事実です。
骨癒合が起きたとしても、そこには必ず「治癒過程で形成された骨組織」が介在します。
この部分は、
・力学的特性
・血流
・神経支配
・骨代謝の反応性
といった点で元の骨と完全に同一ではありません。
骨切りによるダメージと骨代謝の変化
骨は単なる硬い構造物ではなく、常に壊され、作り替えられている代謝組織です。
骨切り術では
・骨膜の損傷
・骨髄環境の変化
・局所血流の低下
・炎症反応の長期化
といった変化が避けられません。
これにより、骨密度の低下、硬化像の出現、骨梁構造の再構築異常など、長期的な代謝変化が生じる可能性があります。
画像上は整って見えても骨の「質」が変わっているケースは少なくありません。
データから見る骨切り術のリスク
文献データを総合すると股関節骨切り術には以下のようなリスクが報告されています。
・偽関節(骨が十分に癒合しない):数%〜10%前後
・再手術が必要になる割合:10〜20%程度
・数年〜十数年後に人工股関節置換術へ移行:20〜40%前後(年齢・病期により差あり)
・術後も痛みや可動域制限が残存するケース
これらは「失敗例」ではなく、一定の確率で起こりうる現実的なリスクです。
なぜ私は骨切り術を安易に勧めないのか
骨切り術は
・若年
・関節軟骨の状態が比較的良好
・術後の長期リハビリを受け入れられる
といった条件が揃った場合に慎重に検討されるべき選択肢です。
一方で痛みの原因が必ずしも骨形態だけにあるとは限らず、筋・筋膜、隔膜、神経系、代謝の問題が関与しているケースも多く見られます。
これらを評価せずに骨だけを変えることは根本解決にならない可能性があります。
手術を決断する前に考えてほしいこと
骨切り術は「やり直しがきかない」治療です。
・本当に今、骨を切る必要があるのか
・保存療法で改善する余地はないのか
・10年後、20年後にどのような選択肢が残るのか
こうした点を時間をかけて検討することが何より重要です。
おわりに
骨切り術は正しく適応を選べば有効な手術である一方、身体に大きな代償を求める治療でもあります。
「勧められたからやる」のではなく、「理解したうえで選ぶ」ことが将来の後悔を減らす唯一の方法だと考えています。