あるときあるところに
一本足のとりがいました
とりは仲間とは一緒に
住みませんでした
何時も夕暮れが山々に訪れる頃
とりの目から大粒の涙がこぼれるのでした
あれは確か10年くらい前のことでした
一本足のとりはまだ若く
お父さんもお母さんもいたのです
それは毎日が平和な一日でした
あの忌まわしい戦いがなければ
今だってきっととりは幸せであったはずです
明るいお日様がさんさんと照る山々に
とりたちの楽園は
何時までも続くと思われたのに・・・
ある日突然戦いが始まったのです
見も知らぬ種類のべつのとりの
集団が突然襲ってきて・・・
戦いの原因が何であったのか
それは分かりませんが・・・とにかく
ひどい戦いが何日も何日も続きました
父さんとりも母さんとりも立派に戦って
死んでゆきました
とりたちは負けたのです
そしてとりの生き残りは
故郷を追われ
落ち着く先を求めて長い旅を続けました
傷ついたなかまは一羽一羽死んでゆきました
長い長い月日が過ぎて一本足のとりは
成長し大きくなって
たくましい若とりになったのです
亡くなったお父さんとりの代わりに
一本足のとりは
とりたちのボスになったのです
とりたちは追われた故郷を
大変懐かしがりました
今は仲間の数も増え
新しい楽園を見つけて
とりたちは定住していました
でも決して幸せではなかったのです
一本足のとりは思いました
故郷へ戻って
あの侵入者を追い出してやろうと
そして父さんや母さんの仇をとろうと・・・
それから何カ月か後
故郷の空はまた
とりたちの争う血なまぐさい戦場と変わり果てたのです
長いひどい戦いでした
多くのとりたちが死んでゆきました
彼もまた傷つきました
でも戦いは終わりました
侵入者の鳥は
いずこともなく去り
仲間たちは一本足のとりを
ほめたたえました
彼の名は国中はおろか、他の国にまで鳴り響きました
けれども彼は孤独でした
多くの仲間を死なせてしまった
そんな自分への自責の想いが
かれをいたたまれなくさせたのかもしれません
彼の受けた傷は一本足のとりにとって
大きな負担になったに違いありません
そんな彼の受けた傷はいくら父と母の仇を
とったからといって癒されるものではなかったのです。
自分の恋人さえも戦いで失っているのだから・・・
故郷は平和を取り戻し
とりたちの楽園は
絶えることを知らずのようでした
山は何時も緑に満ち
空は青く
雲は白く
夕焼けは赤々としていても
一本足のとりは仲間から
離れているのです
戦いの爪痕が何時までも
心の中に遭って
何時も涙を流すのです
もう戦いはたくさんだと
いまではとりの仲間たちは
一本足のとりのことは
忘れてしまっているようです
彼は年老いました
嫌な戦いの記憶は
彼だけが心にしまっています
もう戦いはたくさんだよと
思いながら・・・
終わり