旅立ちの日


ひとはもう遅いと知っていても

別れ際に

振りかえる

目はもはや遠くを見ているのに

耳はもはや汽車の汽笛を

聴いているのに

それでも振り返る

新しい生活(くらし)が

楽しいもののはずなのに

ふとたちどまって

過去をのぞきこまずには

いられない

ふしぎなふしぎなその感情・・・


人はもう帰れないことを知っていても

旅立ちの日に

振りかえる

もはや体は新しい着物を身につけているのに

手にはパスポートと搭乗券を

握りしめているというのに

それでも振り返る

初めての土地が

好奇心をかきたててくれるというのに

ふと立ち止まって

夜空を仰がなくては

いられない

不思議な不思議なそのしぐさ


おまえは決して後悔しないはずじゃなかったの・・・旅立ちの日に