【読者36】ハッピー・リタイアメントの浅田次郎 | なんのこっちゃホイ!

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浅田次郎のハッピー・リタイアメントを読んだ。

財務省をリストラされた樋口慎太郎、自衛隊をリストラされた大友勉の天下り先は、JAMS(全国中小企業振興会)神田分室だった。

JAMSは、戦後GHQによって解体された財閥に代わり、新興事業育成のために作られた、金融保証機関である。JAMSはその目的に沿って、全国の中小企業の資金需要に応えるべく、ガンガン金融機関への債務保証を行ってきたが、もとより回収など経験のある職員も役員もいるわけがなく、そこには大量の不良債権がたまりにたまりに、遂には誰も見向きもしなくなり、多くの役人の天下り先として定着してしまった、まぁ、いってみれば最悪の公益法人である。そのJAMSの中でも神田分室というのは、既に時効を迎えた債権を、ただただ保管しているだけの部署であった。

出勤初日、それぞれに、それなりに緊張と期待を胸に出勤してみると、担当の女性、立花葵が恐るべき説明を始めた。つまり、彼ら二人の仕事は、なにもしないことだと。それで、毎月の給与は保証され、しかるべくボーナスも支給され、次の肩叩きまでは安泰。肩叩きがあっても、しっかり退職金が払われるという、典型的な天下り法人であるとのこと。しかし、なにもせずに国民の税金から禄を食むというのは心苦しいと二人は反論するが、とにかく立派な机と、無限の時間を与えられ、新聞を読もうが、飯を食おうが、昼から酒を飲もうが、欠勤しようが、誰も何も文句を言わないという部署であった。

何もすることに耐えられない二人は、過去の債権についてのファイルを閲覧し始める。そして中には、当時はお金がなくて、無担保無保証で金を借り、逃げてしまったが、今はそれなりに成功し、富を得ている人物がいることを発見する。

暇に任せて彼らは、それらの債権者を訪ねては、債権の回収を始める。しかし、それらは時効を迎えた債権であるから、法的には何ら拘束力があるものでもなく、支払いの義務などは何もない。そこで彼らは、債権者の良心に訴え出る。

「JAMSとしましては、今更お支払いをお願いする立場ではないことは、十分に承知しておりますが、ま、いってみれば尻拭いというか、書類上の形式は整える必要があり、この債権放棄の書類に署名、捺印をお願いしたいのです」と、債権者を訪ねて歩く。

現在では、それないに功をなし、富を得ている人間にとっては、いきなり過去の亡霊が現れたようなものである。中には「そんなものは知らない。とっとと帰れ!」という連中もいるが、中にはこれを、深刻に捉えるものもいる。

作家として名をあげている人物は、その債権は今ならわけもなく払える金額であるが、支払いの義務はもうない。だが、この書類に署名、捺印したことが世間に知られてしまったら、現在の立場が悪くなる。それなら、いっそ払ってしまって、過去とはスッパリ別れを告げようと考える。

およそ6ヶ月の間に、3億円もの債権を回収してしまった二人だったが、さてその処分をどうするか。既に記録上は、時効を迎えて、ただただ闇へと葬られる債権だ。今更回収したからといって、JAMSに返済する必要はないし、そんなことしたら、もっとやれと言われて、困るのは自分たち。そこで、3人で山分けして、海外へ逃避しようと計画する。

色々とあって(ここが面白いので省略するが)、各自は日本を脱出、ハワイの某所で待ち合わせをすることに。果たして、彼らのハッピーリタイアメント計画は、成功するのだろうか・・・

新田次郎の小説は、どれを読んでも面白い。あっという間にその世界に吸い込まれてしまう。はははは!そんなアホな!とか思いながら読み進めると、最後ににほんわかして気持ちにしてくれる。
いい作家、実力のある作家の本ってのは、こういうものなんだなぁ。