農業少女 その3 | なんのこっちゃホイ!

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世の中の、これでいいのか、こんなことでいいのかを描くブログ。そんなにしょっちゅう怒っていられないので、ほどほどに色々な話題も混ぜていきましょう。

$これでいいのか!?こんなことでいいのか!?


津罪はその売込のために、Webを使い宣伝をするが、一向に注文はこない。
一方、少女の百子は故郷に帰り、父親の田んぼを使って、懸命に農業少女の栽培を行う。
「春には植えて、秋には収穫。私の米ができるのよ。みんなが喜んで、食べてくれるわ」
そう願いつつ、懸命に栽培を行う。

中年男は見抜いていた。津罪が欲しかったもの。それは、地位、名声そして権力。そのために、農業少女を利用しているのだ。言葉巧みな津罪は、ついに政界進出を決意する。中年男は、そんな津罪をなじり、せめる。それは実は、津罪の妄想の声となって、津罪をさいなむ。

そんな時、少女の父親から中年男に連絡が入る。少女がおかしくなったと。父親によると、少女は田んぼで毎日注文の電話を待つ。毎日、愛する津罪からの電話を待ち続ける。だが、誰からも電話はかかってこない。少女は昔したように、線路に横たわり、電車の音に耳をすます。未来を夢見て、東京を夢見て、その音を聞こうとしていた昔のように。

少女は心をさいなまれて、人の声が聞こえなくなってしまった。
「他の音は聞こえるのよ。人の声だけが聞こえないの。人が私に話しかけていないのか、話しかけているけど、私に聞こえないのか。どうしてか分からないけど、人の声だけが聞こえないのよ!」
(この心を病んだ少女の部分、多部ちゃんは熱演している。思わず、目頭が熱くなる)

そしてついに、あの男、津罪が電車に乗ってやってくる。飛びつき、抱きつく少女。その少女に向かって津罪は言い放つ。
「農業は止めるんだ。もう、誰も農業少女なんか気にしていない。もう誰も、農業少女なんか振り向かない。都会型農業から、農業を取るんだ。都会党という政党を立ち上げて、政界に打って出る」
その時、少女は津罪に飛びかかる。そして、
「もう農業は止めるつもりね!農業をやめるんでしょう!」
「君には僕の声は聞こえないはずじゃ!?」
「感じたのよ。心のどこかで、感じたのよ」
「違う。農業をやめるんじゃない。都会型農業から、農業を外すのだ」
「あ~、音が聞こえる。あっちの方から。昔聞いた、あの音だわ。こんなに待ったのに。何もこない。何もやってこない。何も聞こえない」

中年男(山崎一)はその時分かった。少女が欲しがる何物も、自分にはないということ。少女に恋をし、少女に嫉妬した。津罪は、彼女の欲しがるものを持っていたが、自分には何もなかった。ただただ少女にまとわりつく男たちに対しての、嫉妬意外には。彼女が嫌ったものは、束縛。彼が少女に与えたものは、その「束縛」以外には何もなかったということを。それこそが、「愛」であったということを。

そして少女は気づいた。私は農業が大嫌い。男に種をまかれて、何かが起こるのをただひたすら待ち続けるような人生なんて嫌だ。そんな人生を受け入れる、そんな女は嫌い。ところがどうだ。自分は農業を行い、いつ訪れるとも知れない何かを、何かも分からない何かを、じっと待ち続けている。どんどん、私は自分の嫌いな女になっていく。

津罪は、少女を失い、そして全てを失った。彼が求めた地位も名声も権力も、それは大衆というものの「気分」にこそ、寄って立つものであった。そして、大衆の「気分」は移ろいやすく、昨日受け入れ流行したものも、今日には全て忘れ去られていく。自分も含めて、大衆は全て忘れ去っていく。
かのアドルフ・ヒトラーも。あんな絵描き崩れが、まさか世紀のファシストになるなんて、誰が想像しただろう。誰が考えて、彼を選んだだろう。それこそが、大衆。大衆の気分が、恐怖のファシストを生みだした。


こうして、3つの崩壊の物語が、幕を下ろす。

僕は、多部ちゃんのファンであることは間違いない。こんな50男が、20歳の少女に憧れているなんて。ロリコンとなじる人もいる。揶揄する人たちもいる。だから僕には、中年男の気持ちが分かる。占有したいわけではない。束縛したいわけでもない。ただただ、失うのが怖いのだ。彼女を失うことではなく、自分の心を、憧れを、失うのが怖いのだ。

これまで、多部ちゃんは僕にとって、ただのカワイイ女の子だった。だが今回の芝居を見て、初めて彼女を女優という目でみることができた。「ブスかわいい」とTwitterで評価している人がいた。そうかもしれない。だが、これからの成長は楽しみだ。彼女の、クルクル変わる表情や雰囲気に、僕は惹かれているのかもしれない。
だから、中年男の憧れを揶揄しないでください。僕は僕でしか、ないのですから。